2016.07.25
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ルーブリックって実際使えるの?

岐阜県可児工業高等学校 電気システム科 教諭 河合 英光

ルーブリックの例

ルーブリックとは

 「成功の度合いを示す数レベル程度の尺度と、それぞれのレベルに対応するパフォーマンスの特長を記した記述語(descriptors)から成る評価基準表である。」(西岡加名恵『教科と総合学習のカリキュラム設計』図書文化、2016年、pp.100)
これは、西岡先生が説明されている内容です。とてもシンプルにルーブリックの特長が示されています。とは言え、これだけを読んでルーブリックが理解できるとは思えません。googleで検索すると"約 144,000件"(2016.7現在)ヒットします。また、ルーブリックの研究会や学習会も各地で開催されています。どのようなものかは、インターネット上の情報を読みあさると何となく見えてきます。

ルーブリックは知識を身に付けたから作れるとは限らない

 私がルーブリックという言葉に出会ったのは3年前になります。文部科学省の「高等学校における多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」の研究指定を受けて西岡先生に出会ったときに初めて知りました。
 本校の研究指定の指導教授として西岡先生が指導してくださることになり、一度お会いして今後の研究の進め方や内容の相談に京都まで出かけていきました。今思えば1月の大変忙しい時期に、わざわざ私たち(私を含めて5名)のために時間を割いてもらい、「逆向き設計」論やパフォーマンス課題、ルーブリックに関してレクチャーしていただきました。そこで、ルーブリックについて、「どうやって作っていいのかがわからない」と質問した時に
西岡「では、プレゼンテーションの発表があるとします。生徒たちがどんなことができたら良いプレゼンテーションと言えるのですか?」と尋ねられて
河合「わかりやすいプレゼンですか?」
西岡「もっと具体的に教えてください。」
河合「大きな声で説明できている。」
西岡「ほかにはないですか。」
河合「スライドの文字が小さすぎない。」
西岡「ほかには?」
河合「文字を入れすぎず、写真や図を使っている。」



といったやり取りをしながら、私の言った言葉をホワイトボードに書きながら、その場で簡単なプレゼンテーションのルーブリックを作っていきました。その時「あっ、そうか」って思いました。「何ができるようになったらいいのか。」「どんな思考ができるようなったらいいのか。」「どんな行動ができるようになったらいいのか。」という生徒像を明確にして、それを自分以外の先生が見ても同じように判断できるように、できるだけ具体的に文章にする。そして、それを観点に分けて表にしたのがルーブリックなんだとわかりました。なんだか、このやり取りのおかげでルーブリックという言葉が体の中に入ってきた感じを受けました。

 ところが、ルーブリックという言葉の意味は理解しているつもりでしたが、いざ、本気でルーブリックを使って評価しようとすると、これが本当に難しい。何が難しいかというと、出てくる言葉が「○○できる。」とか「○○がまとめてある。」、「○○できていない。」といった内容になりました。初めて作った時は、これがあれば数値化できない生徒の評価を公平にできると思っていましたが、いざ、自分の作ったルーブリックで評価してみると、前にもまして悩んでしまいました。自分でルーブリックを作っておきながら、この内容は良い評価なのか、普通の評価なのか、評価基準が曖昧になってしまいました。

ちなみに、ルーブリックの基本形は、横軸には評価のレベル・スケール(良い・普通・改善、A・B・Cなど)を設定。縦軸には評価の観点(与えられている課題に対しての要素、例えばプレゼンの観点としては資料・発表内容・構成・技術など)を設定します。例として評価レベルを3段階、評価の観点を4個にした場合、3×4=12個の評価基準を記入することになります。たまに評価レベルを5段階、評価の観点が10個程度で作られているルーブリックを見ます。これだと50個の評価基準を書くことになりますし、これだと細かな評価ができる反面、評価に時間がかかってしまいます。これでは本末転倒のような気がします。ですので私の作るルーブリックの評価レベルはABCの3段階ぐらいです。また、観点は多くても5個ぐらいに収めるようにしています。(観点が少ないと生徒に身に付けさせたい能力のチェックができないといわれそうですが、それは評価基準のほうでカバーするようにしています。)

ルーブリックを作るには、望むべき生徒像が明確になっている必要がある。

 次に難しいと感じたのは評価基準の書き方です。この課題や実習、実技等で生徒に身に付けさせたい能力が明確になっていないと評価基準が書けません。改めて自分がどのような生徒を育てたいのかを見つめ直すことになりました。この日誌で説明している「逆向き設計」論においても、第一にどのような生徒を育てたいのかという部分が重要になります。なぜならば、授業においても実習においても、どのような教育活動を行うにしても、その目的は生徒の成長になります。成長とは「できなかったことができるようになったり、今まで気づかなかったことに気づけるようになる」ことだと思っています。じゃあ、どのような教育活動を行うことによって、生徒たちの何を伸ばしたいのか。どのような能力を育てたいのか。を自分自身に問いかける作業になります。そして、伸ばしたい、育てたい能力を身に付けさせるためには、何ができるようになるのか、どのように思考をアクティブにさせる必要があるのか、できる限り具体的に、明確に文章にする作業がルーブリックの評価基準となります。
 まだまだ、私自身納得のいくルーブリックを作ることはできませんが、今後も試行錯誤し生徒の成長を見守りながら経験を積んでいく必要があると思っています。

私がルーブリックを作るときに参考にしているのが「一般社団法人 日本技術者教育認定機構の学習・教育に関する達成目標の評価方法」です。言葉の使い方など非常に丁寧に解説してあります。

河合 英光(かわい ひでみつ)

岐阜県立可児工業高等学校 電気システム科 教諭
「生徒の成長のために我々は何ができるか」を最近よく考えています。そのための方法として「逆向き設計」論を実践しています。京都大学 E.Forum所属

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