2016.07.13
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将来の見通しはゆらぎ再構築される~人の成長サイクル~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

1、将来の見通しはどうすれば持てるのか?  

 

前回は高校1年生で将来の見通しはゆらぐこと、その原因は本校の調査結果では、
「視野の広がり」と「新しい環境での不安や自信」の2つがあることについて書きました。

http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,0,21,185,html

そういう実態があるということを知ることも大切ですが、目の前の生徒のことを考えると、
「どのような取り組みが生徒が将来の見通しを持つことにつながるのか」
ということがより重要です。  
本校ではCSLを実施してから、高校1年生1月段階で「将来の見通しがない」という生徒が
10%あまり減少しましたが、なぜそうなったのかということにこそ大切な点があると考えました。
そこで、高校生活を通じて将来の見通しを持てた生徒、
具体的には4月段階では「将来の見通しがない」と答えていたのに、
1月段階で「将来の見通しがある」と答えた生徒に、
「どういうことがきっかけで将来の見通しを持てたのか」を聞きました。  

調査の結果、約半数の生徒が「CSL授業で将来の見通しをもてた」と答え、
残りの生徒のほとんどは「学校生活全般」「自分で決めるという経験
(本校では高校1年生では文系か理系かの選択をします)」でした。
実は「CSL授業で将来の見通しを持てた」と答えた生徒の数と、
「(CSL実施以降の)将来の見通しがない」と答えた生徒の減少分はほとんど等しいので、
ここからも授業の成果が確認できたのですが、どういうことかもう少し詳しく聞いてみました。
生徒に「なぜ将来の見通しを持てたのか」を聞きました。

すると多かった答えは「R-CAP(キャリア教育実践ツール)」と「授業全般」でした。
「R-CAPを授業でしっかりと振り返ることが役に立った」「授業の中で自分のことについて
毎回毎回考えたので、少しずつ自分の将来が具体的になっていった」という答えに
それが顕著にあらわれています。  
本校のみでの調査なので一般化はできません。ただこの結果から「学校生活全般、
特に文理選択のような選択を迫る機会は将来の見通しを持つのにプラスに働く」
「毎週授業として実施しているCSLのように、定期的に自分を見つめる時間を
確保することは、将来の見通しを持つのにプラスに働く」ということが言えるように思います。

 

2、自分を見つめる時間を確保することが大切

 

みなさんは自分の将来について考える時間、自分をふりかえる時間を定期的に確保していますか?
この質問にYesの人は案外少ないのではないでしょうか。  
今の時代、本当に自分と向き合って何かを考える時間を確保することは容易ではありません。  
すきま時間もスマホで時間をつぶせてしまいます。その結果なんとなく毎日は過ぎていきます。
この状況は生徒たちも同じではないでしょうか。
高校生は忙しいです。朝早くに家を出て、放課後はクラブで遅くに帰ります。
日々課題もあり、塾もあり、友人とLINEなどで連絡も取らないといけません。
何もない休日がほとんどないという高校生は少なくありません。
だからこそ、定期的に自分を見つめる時間を取ること、その時間が確保できるように、
学校が生徒の生活をデザインすることが重要です。
CSLの実践と調査結果からこのようなことも学びました。
生徒にとって進路や生き方を考える時間が、行事など特別なこととしてではなく、
授業として定期的にあるということの効果は思いのほか大きいです。
CSLも毎週、定期的にあるからこそ、生徒たちも特別な進路イベントではなく、
日常のこととして取り組んでいたように思います。
高校1年生という将来の見通しがゆらぐ時期だからこそ、
こうした時間を確保することが大切なのです。

 

3、調査結果が大人に問いかけていること  

 

高校生の将来の見通しを調査する中で、見えてきたことがあります。  
それは「高校という新しい環境で将来の見通しはゆらぐが、
その環境でしっかり自分を見つめることで見通しは再構築されていく。
それこそが成長のプロセスである」ということです。
確かに高校という新しい環境は生徒の将来の見通しをゆらがせますが、
でも生徒たちを大きく成長させるチャンスも与えます。
実際生徒たちは高校で大きく成長します。
もう一つ忘れてはいけないのが、「将来の見通しがゆらぐからこそ、
自分を見つめる時間を確保することが重要」ということです。  
生徒たちへの調査からこのようなことがわかりました。

おそらく大学でも同じことが言えるのでしょう。
高校と大学のギャップは中学と高校以上に大きいので、
大学でより見通しはゆらぎ、再構築され、そして成長していくのでしょう。
大学初年時教育の重要性はここにもあるように思います。

ここまで生徒たちのこととして書いてきましたが、
この結果は大人への重要な問いかけに思えてなりません。
大人もまったく同じではないでしょうか。

私たちも新しい環境に飛びこみ、挑戦することで、
将来の見通しなどいろいろなことがゆらぎます。でも一度ゆらぎ、
また再構築させることで自分が成長するということも間違いありません。
新しい環境に飛び込み挑戦することは勇気がいりますし、
しんどい思いもいっぱいします。でもそれでも、そこに飛び込んで挑戦し、
その過程でしっかり自分を見つめる時間を確保して見通しを再構築すれば、
今までとは違う新しいステージにいる自分が見えてきます。  

みなさんは「新しい環境に飛び込んでいますか?」
「定期的に自分を見つめる時間を確保していますか?」
自戒をこめて書きました。

教えることは学ぶこと、生徒たちにキャリア教育の授業を実施することで、
私たち教師の方が自分の人生について多くを学んでいるのかもしれません。
みなさんは生徒たちから、周りの方からどのようなことを学ばれていますか?  

ここまでお読みいただきありがとうございました。   
最近、ふりかえりの重要性が言われます。
つい先日の中央教育審議会の教育課程部会(高等学校部会)でもふりかえりの
重要性が指摘されています。

次回は3月21日に東京大学で行われたシンポジウム&ワークショップ
「アクティブラーニングをより深い学びにつなげる!
~リフレクションで創る知の世界~」の内容を紹介しながら、
より深い学びにつなげるリフレクションについて書きたいと思います。
引き続きよろしくお願いします。    

(参考文献など) 酒井淳平・河井亨「高等学校におけるキャリア教育授業の実践による生徒の変容」
~将来の見通しに注目して~(立命館高等教育研究15号)

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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