2015.09.18
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キャリア教育で伝えるべきもっとも大切なこと

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

雑誌やTVショッピングを見て、ついつい余分なものまで
買ってしまった経験は多くの人があると思います。
 

 

"あなたもこんなふうになれる!"


人はこうしたメッセージに希望を感じ、心を動かされるのかもしれません。
一方、毎年の健康診断で警告が発せられても、そのことで生活習慣を
変える人は少ないのではないでしょうか。

ここにはキャリア教育を考える上でもっとも大事なポイントが
含まれているように思います。
キャリア教育で伝えるべきもっとも大切なこと、みなさんは何だと思いますか?

 

1、今は高校生や大学生にも大きなことができる時代!


~Hくんの活動から~

5年前、外務省のプロジェクトで本校生徒5名と一緒にタイを訪問する
機会がありました。5人は帰国後に何らかの活動をするという思いを
持ってタイに行きました。
帰国後5人は「Rits-LABO」という団体を設立。
Hくんをリーダーとして、タイの高校生とともに、
タイの環境問題改善運動に取り組みます。
大学、NPOなどさまざまな団体ともつながりながら、
最終的にタイの学校に分別ゴミ箱が設置されるところを見届ける
ところまでプロジェクトを進めました。
活動については以下のページに記載されています。

https://www.ujc.ritsumei.ac.jp/ujc/news/detail.php?eid=00827
http://sv2.jice.org/jenesys/2010/12/jenesys2009-2.htm

中学校から本校に入学し、クラブと勉強を高いレベルで頑張ってきた
Hくんにとって、Rits-LABOの活動はクラブ引退後の新たな目標でした。
 
Hくんは大学でより大きなことに挑戦します。経産省から派遣され、
ミャンマーでの半年間のインターンシップに参加したHくんは
”今後、日本と協力してミャンマーを発展させるために 
日本人の大学生ともっと交流したい”
というミャンマー人学生からのニーズを耳にします。
それを聞いたHくんは「ミャンマーと日本の学生が繋がる場」
を作ってしまおうと一念発起。仲間を急ピッチで集め、
ミャンマーでの学生会議開催に動きます。
開催費用の一部をクラウドファンディングで集め、2014年12月、
ついにミャンマーで第一回の学生会議開催という目標は達成されました。

Hくんは高校でも大学でも大きな成果を残しました。
一昔前の高校生や大学生には絶対にできなかった
ようなことが、確実にできる時代になっている。
Hくんの活動は私たちにこんなことを伝えているようにも思います。
みなさんの周りにも、「今の高校生や大学生はこんなこともできるんだ」
と思うような例はありませんか。

 

2、人は希望があるから動く


高校生に今の社会、今の大人はどのように見えているのだろう。
ふとこんなことを思うときがあります。

「グローバル化しないと生き残れない」
「世界で通用する人にならないといけない」
「日本は危ない」

これらは誰もが耳にし、学校でも語られる言葉でしょう。
こうした言葉が一面の真実であることは間違いありません。

しかし私たちはキャリア教育という名目で生徒にメッセージを
届けるときに、危機を語りすぎていないでしょうか。 
その背景には「生徒は何もわかってないから教えないといけない」という思い、
そして「危機感でこそ人は動く」という考え方があるのかもしれません。
そのメッセージを生徒たちはどう受け止め、社会や大人を
どのようにとらえているでしょうか。


"人々は危機を叫ぶ声を小耳にはさみつつ、有形無形の日常業務に忙しい。
そしてこの無反応を知ったとき、危機を叫ぶ者はますますその声を大にする。
しかし声を大きくすればするほど、またそれがたび重なれば重なるほど、
まるでイソップの「狼が来た」と言い続けた少年の言葉のように、
人々は耳を傾けなくなる"

第二次世界大戦での日本の敗因を分析した本
「日本はなぜ敗れるのか」にはこのように書いてありました。
これは昔も今もどこにでも通じることのようですが、
危機を叫べば叫ぶほど、その声はより届かなくなるのではないでしょうか。

確かに今の日本に危機があるのは事実です。
しかし危機ばかりあおられても、根っこの部分で将来への希望や、
自分にはできるという思いがなければ足がすくんで、より動けなくなるだけです。
(これは大人も同じでしょう)
その結果、生徒たちは大人になることへの希望を持てなくなってしまうかもしれません。

一方で今の時代は、高校生や大学生にもいろんなことができる、
可能性も大きい時代です。このことを忘れてはいけません。
健康診断で危機を訴えられても動かないのに、
広告で希望を感じると動く、人はそういうものではないでしょうか。
目標を持ち、自ら動き出した生徒たちは、自然と今の危機にも気づきます。
キャリア教育で伝えるべきもっとも大切なことは希望ではないでしょうか。

 

3、世界がオモシロイから僕らは動く


2015年10月21日は何の日かご存知でしょうか。
この日は30年前に、映画「BACK TO THE FUTURE」で
描かれた30年後の未来です。
”デロリアンがゴミを燃料に30年後の未来社会に移動する”
映画のこのシーンに魅せられた日本環境設計の岩元美智彦社長は、
衣料品からバイオエタノールを生産する技術を自社開発されました。
そして岩本社長の夢はFUKUFUKUプロジェクトを通して実現しようとしています。
プロジェクトについては以下のページをご覧ください。
http://fukufuku-project.jp/GoDelorean/

先日岩元社長の講演を聞く機会がありました。
30年前の映画の1シーンから今があるという岩元社長の言葉や、
このプロジェクトに多くの企業が参加している事実から、
改めて夢が動かすものの大きさについて考えさせられました。 

人は危機ではなく、希望によって動く。
生徒たちも「危機」からではなく、希望があるから動くのではないでしょうか。 
こう考えると生徒に伝えるべきことは

「理不尽なことも多いけど、人生は面白いし、働くことで社会とつながれば、
より豊かに生きていける。あなたはどんなことをして生きていきたい?
今は可能性の大きい時代だ」という希望ではないでしょうか。
前向きな希望からしか次の一歩は生まれないように思います。

”世界の人口70億人、世界の広さは日本の約400倍、海を越えて、
国境を越えて、いつでも、どこでも、誰とでも好きなことをしていける。
ありがたいことに、そんな自由な時代を僕らは生きているんだ ”

「日本がヤバイではなく、世界がオモシロイから僕らは動く」
という本にこんなフレーズがありました。 
あわただしい毎日の中で、大人もこうした視点を忘れてしまいがちです。
しかし大人も生徒も、みんながこのように感じ行動することができれば
自然と社会はよりよいものになるだろうし、そのときには
キャリア教育なんていう言葉は使わなくてもいい時代になるでしょう。  
 

”来たときよりも美しく ”
偶然、今のこの時代に生まれて幸せに過ごさせてもらっている私たち大人が
やるべきことは、自分たちが生まれたときより良い社会を残すこと。
次の時代を創っていく生徒に期待しつつ危機ではなく希望を語る。
これがキャリア教育で最も大切なことです。
みなさんはどのように思われますか? 

今期の連載はこれで最後になります。毎回多くの方にお読みいただき、
感想も多数いただきました。ありがとうございました。
また連載できるときが来るよう、これからも楽しみながら実践を
重ねていきたいと思います。 
 読んでいただいた方とお会いできる日を楽しみに、連載を終えたいと思います。
 
(参考文献) 
・日本がヤバイではなく、世界がオモシロイから僕らは動く。 
 太田英基著、いろは出版、2013年
 
・日本はなぜ敗れるのか~敗因21ヶ条~ 
 山本七平著、角川書店、2004年 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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