2015.09.01
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アクティブラーニングの主語は誰?~キャリア教育推進フォーラム@産業能率大学の報告をかねて~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

9月になりました。9月から2学期というのは今は昔ですね。
幸いうちの学校は夏に中3と高3が研修旅行に行くこともあり
9月1日から授業開始です。みなさんはいつから授業でしょうか。

 

1、キャリア教育推進フォーラム@産業能率大学(東京会場)

 

今回は産業能率大学で実施されたキャリア教育推進フォーラムに
ついて書きます。今年で9回目となるこのフォーラムは毎年
参加希望者が増え続け、今年も早々に満席となりました。
数年前から名古屋でも開催され、さらに今年は京都でも開催されます。
「フォーラムに参加したかったけど満席だった」と何人かの方に言われました。
というわけで(?)この場で簡単にフォーラムについて報告します。

 


2、フォーラムの概要


フォーラムは講演会と授業体験がありました。
講演会のテーマはまさにこれからの教育に求められるものでした。
授業はアクティブラーニング型授業の体験。300人をこえる参加者が
7つのグループに分かれ授業を体験するというものです。
講演と授業体験がどうつながっているのかを考えながら
お読みいただければと思います。


(1)講演1 安彦忠彦先生
   「これからの子どもたちに育成すべき能力・資質とは」


 安彦先生は中教審の委員や、文科省の有識者会議で座長をされました。
 講演ではそのときの議論内容などもお話しくださいました。
 次期学習指導要領では「教育内容」ではなく、育成する「資質・能力」を
 重視します。コンピテンシー・ベースの教育観ですが、諸外国の動向や
 21世紀型能力(国立教育政策研究所)をふまえてさらに検討するとのことでした。
 さらっと書きましたが、これは劇的な変化です。
 

 安彦先生は教科固有の知識・基本スキル ⇒ 教科固有の見方・考え方(思考力)
 ⇒教科をこえた汎用的スキル(実践力、資質)という図も示され、
 教科教育で育てるべき力を考えるときには、こうした広い視野で考えることこそが、
 これから重要だと実感しました。 

 資質・能力を育てるということを考えるときに、今までの教育内容中心
 の時代とは評価方法も指導方法も変えなくてはいけません。
(当然一方向の講義型授業のみでは対応できません。)
 評価については石井先生が詳しくお話されましたが、アクティブ・ラーニング
 という言葉が登場したのはこうした背景があってです。ここは重要な点でしょう。
 育てるべきことを考えたときに、指導法を変えることが必要になり、
 その方法の一つとしてアクティブラーニングが言われているのです。
 決して「アクティブラーニング」という方法が先ではありません。

 このようにご講演された安彦先生でしたが、最後に持続可能な地球作り、
 そして能力は手段でしかないことを強調されました。 
 何のために能力を使うのか、安彦先生は「人格」という言葉で
 表現されましたが、こうした教育の根本を忘れてはいけません。
 キャリア教育を通して、社会的信用を持つ、一人前の自立した人間を
 育てることこそが、根底としてもっとも大事にされないといけない
 部分だという主張には大変共感しました。


(2)授業体験とふりかえり

 他の先生方の授業を受けたかった!これが率直な感想です。
 今回授業をされた先生の実践は以下の本に掲載されています。
 詳しくはそちらをお読みください。

「現場ですぐに使える アクティブラーニング実践」
 (産業能率大学出版部、2160円)

 実は私もリクルートキャリアガイダンス編集長の山下様と一緒に
「学ぶことについて考える」の授業をさせていただきました。

  

(3)講演2 石井英真先生
 「新しい学力と学びを捉えるパフォーマンス評価」


 評価は「どういう力を育てるのか」とセットでしか考えられません。
 石井先生は、パフォーマンス評価を、客観テストの結果ばかりが
 重視されるアメリカで、豊かな本当の学力を評価してほしいという
 現場の声からうまれてきたものと説明されました。

 これからの時代に求められるのは、正解のない問題に対応する力や
 生涯学び続ける力です。こうした高度な知的能力を育てよう、
 評価しようと思うと、指導法だけでなく評価方法も変えないといけません。
 パフォーマンス評価は、パフォーマンス課題に対する活動のプロセスや
 成果物を評価するものですが、これは知識を活用できるのかどうかなど
 を評価するときに有効な方法になると説明されました。

 もちろん知識の定着は必要で、それを評価するときに従来のペーパーテスト
 は有効です。大事なことは私たち教師が「考える力を育てる」ではなく、
「どのレベルの考える力を育てるのか」という発想を持つことです。
 石井先生はここを強調されました。


 このフォーラムの内容すべてがつながっていることが伝わったでしょうか。 
 これからの教育に求められることを考えること、
 それを具体化したアクティブラーニング型授業を体験すること、
 アクティブラーニング型授業の評価を考えるということ、
 フォーラムの内容はこの3つです。
 そして教育の目的・目標を考え、実践し、評価する。
 これらは今後の教育改革に欠かせないセットなのです。
 改めてよく設計されたフォーラムだなあと感じました。
 

3、アクティブラーニングの主語は教師

 フォーラムを通じて感じたことがあります。
 アクティブラーニングの主語は誰なのでしょうか。

 今回のフォーラムに参加されている方は、みなさんいろいろな実践を
 されていてエネルギッシュだと感じましたが、一教師として謙虚に
 学び続けるという点は共通していました。みなさん問いを持ち、
 その答えを自ら探し求めてフォーラムに参加されていました。
 おそらく学校に戻れば生徒や職場にすぐ還元されることでしょう。

 そんな先生方と接する中で、アクティブに学ぶべきなのは自分だと強く感じました。
 アクティブに学ぶ教師からこそ、アクティブに学ぶ生徒が育つのでしょう。
 大事なのは教師がアクティブラーナーであること、
 フォーラムで一番感じたのはこのことかもしれません。
 アクティブラーニングの主語は教師です、

 もちろんアクティブに学ぶのは生徒だということは事実です。
 しかし、授業という時間でそれを可能にできるのは教師である、
 このことを忘れてはいけないと思います。
 

 最近の動きを見ていると、今後アクティブラーニングは言葉が独り歩きし、
 グループワークなど方法論ばかりが注目されるように思います。
 もちろん、そうしたことに対してアクティブラーニングという言葉を
 批判する動きも出てくるでしょう。

 しかしなぜアクティブラーニングなのかは先に書いた通りです。
「生徒にどんな力をつけたいのか、そのためにどんな授業をすべきなのか」
 目の前の生徒を見てこの問いに対する答えを授業という形で実践し続ける
 ことが何より大切なのでしょう。そのためには教師が学ぶことが大切です。

 アクティブラーニングの主語は教師である
 これだけは最後に改めて強調したいと思います。


 最後に質問です。

 みなさんはこの夏に得たことをどのようにまわりに還元しますか?  

 自分はまずは生徒に今回の学びを職場で還元します。
 そして、まわりの先生方にも還元したいと思います。
 その結果、学校がアクティブラーナーの集まりになればいいなと思います。
 

 早いもので、今期の連載も次回が最後となりました。
 次回はまとめとして、キャリア教育の話題に戻り、
 生徒に伝えるべきたった一つのことについて書きたいと思います。 

 引き続きよろしくお願いします。

http://www.sanno.ac.jp/exam/teachers/index.html
(産能大高校教員向けフォーラム)

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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