2015.07.27
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選ぶ力を育てるだけで十分ですか?

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

1、進路を選ぶ力は本当に大切なのでしょうか?


   自分の進路を選ぶ力が大切であることは言うまでもないように思います。
   では次のAくんの例を見てもなおそう思いますか?

 

   Aくんは中学・高校・大学ときっちりした学校生活を送り、
 進路もその都度自分のやりたいことを考えて決めました。
 Aくんは就職活動にも前向きに取り組み、その結果
 希望していた大手のO社に就職が決まりました。  
 ところがいざ就職するとAくんに与えられた仕事は
 希望しているものとは違いました。
 ”やりたいことと違う”
 そう思ったAくんは1年で会社を辞めてしまいました。
 辞めてから次の会社を探そうと思っているようです。
 
 一方、Bくんはそれぞれの学校でまわりの友人にも
 恵まれ楽しく過ごしてきました。
 Bくんはこれまでの学校生活でもなんとなく進路を
 決めてきましたが、就職活動でも同様で、なんとなく
 O社を受け内定をもらいました。
 そんなBくんですが、上司にもかわいがられ、
 仕事にやりがいを見つけ頑張っています。

 どこの会社でも起こっているような例です。
 Aくんは自分の進路を選ぶ力を持ち、やりたいことも
 明確です(少なくともBくんよりは)。しかしこのケースを
 見ると、やりたいことが明確になりすぎてしまったために
 Aくんは会社でうまくいかなかったようにも思います。
 
 国立教育政策研究所が発行し、全国の学校に配布した
 キャリア教育のパンフレットには

 「さまざまな選択肢の中から主体的に自らの
 進むべき道を選ぶ力を育てるキャリア教育が、
 ますます必要となってくる」と書かれています。 

 選択肢を前にしても選べない生徒、選ぼうとしない生徒
 がいることは事実で、そうした光景を見ると、より
「選ぶ力を育てないといけない」と思ってしまいます。

 しかし「選ぶ力を育てる」だけで本当にいいのか、
 最近疑問に思うことが多いです。

 いろいろなイベントが開催される中で、まるで旅行先を選ぶように
 ”そこに行けば何かを与えてもらえる”という姿勢で進学・就職する、
 生徒を見てこのように思うのかもしれません

(このことは”カタログギフト型のキャリア教育はいらない!”にも書きました)
 http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,21363,21,185,html
 

  

2、選んだ選択肢を育てる力も大切!
 

 選ぶ力に加えて、何が必要なのだろうか。
 なんとなく抱いていたこの思いを明確にしてくれたのは
 Cくんでした。

 Cくんは第一希望の大学に落ち、不本意ながら△大学に入学しました。
 そんなCくんなので当初大学生活は楽をしようとだけ考えていたようです。
 ところが大学入学後、Cくんはあるプログラムに興味を持ち、参加します。
 これをきっかけにCくんは大きく成長します。
 卒業時には「△大学に来たからこれだけ成長できた」と言って卒業しました。
 Aくんになく、BくんやCくんが持っていた力は何だと思いますか。


 Cくんや、なんとなく入った会社で仕事のやりがいを見つけたBくん。
 この2人が共通して持っている力は、
 

「選んだ選択肢を育てる力」

です。
 

「自分の決めた選択を良かったものにする力」


   ともいえるでしょうか。Aくんは決める力は持っていましたが、
 選んだ選択肢を育てる力が不足していたのです。
 しんどいことも含めて自分で決めたことを自分で
 引き受ける覚悟のような部分ともいえるでしょうか。
 その結果、Aくんは会社とのミスマッチを起こしてしまったのでしょう。

 

「選ぶ力を育てること」は確かに大切です。 
 しかし同時に「選んだ選択肢を育てる力」も必要です。
 このことはもう少し強調されてもいいのではないでしょうか。 

 今の自分の現状はこれまでの自分の選択の結果です。
 そしてその選択をよいものにできるかどうかはその人次第なのです。
 

「○学部と△学部、行って正解の学部はない。ただ一つだけいえる
 ことはその選択を正しかったと思えるようにできるかどうかは
 自分次第だよ」
 

 進路で真剣に迷っている生徒にこのことを伝えると
 ほっとすることが多いです。
 

 生徒たちは間違いを恐れます。進路についていろいろ調べても、
 わからないことはあります。そのとき間違えたくないと
 思うと選べなくなります。しかし多くの場合、
 よく考えた上で残った選択肢は、どちらも正解です。
 結局どちらを選ぶにしても、その選択肢が正解になるか
 どうかは自分次第なのです。

 

 

3、育てる力を持っているかが問われているのは大人かもしれない

 
「選んだ選択肢を育てる力を持っているかどうか」
 これは大人こそ問われているように思います。
 

 最近ヘッドハンティングや民間企業からの転職など
 教育業界も人材の流動化が進んできました。
 そんな中、いろんな学校で
「学校がこんなところだとは思わなかった」
「スカウトされてこの学校に来たのに、聞いていた話と違う」
「前の職場では、、」「この学校はおかしい」
 こんなことばかりを声高にいい、その結果新しい職場に
 貢献できていない人がいると聞きます。
 これは学校に限りません。民間企業でもまったく同じだそうです。

 個々のケースについていろんな背景があるだろうし、
 推測でハッキリしたことはいえません。
 ただ一つだけいえることは、「そういうことばかりを言う人たちは
 選んだ選択肢を育てる力が不足しているのではないだろうか」ということです。
 自分で決めた道だから、まずは引き受けるしかないのです。
 逆に自分の選択を正しいものにしたければ、まずは現実を引き受ける
 ところからしかはじまりません。 

 大人もキャリア形成を求められる時代になりました。
 「選ぶ力」はもちろん大切ですが、同時に「育てる力」も
 大人に求められているのでしょう。 

 

 「選ぶ力」が強調される時代だからこそ、「育てる力」も
 強調したいと思います。

  「どの選択肢にもメリット・デメリットがある」
 「選ぶときは、そこでの苦労を引き受けることも含めて選ぶことが大切」
 「どれを選んでもその先どうなるかは自分次第」
  こうしたことがもう少し強調されてもいいのではないでしょうか。

 進路選択も仕事の選択も、選んだ先で自分が努力するからこそ
 力がつき、成長できる。その結果求められてお役に立てる。
 こうしたことを忘れてはいけないと思います。 
 みなさんはどうお考えでしょうか? 

 気がつけば今期の執筆も残りわずかになりました。 
 次回はキャリア教育授業を実施しての思わぬ副産物について
 書きたいと思います。

 お読みいただきありがとうございました。
 

*Aくん~Cくんは、実例を元にしています。ただし複数の事例を
 組み合わせ、個人が特定されないようにしています。 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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