2015.06.02
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キャリア教育の評価に取り組むことで目標が共有できた!

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

取り組みを評価するといいますが、そもそもはっきりした
目標を持って取り組みをはじめているのでしょうか?
 

1  前回のリフレクション、改めて評価を考える

 

前回に引き続き、今回もキャリア教育の評価について書きます。
CSL1年目の実践を終えた段階での一番の問題は
「何がどうよかったのか、生徒がどう変わったのかわからない」
ということでした。

こうしたことを分析しないといけないと思いつつ、
現場は日々の実践に追われます。
特にCSLのような特別な取り組みはより負担も大きいです。
そうなるとついつい「いいものはいい!生徒の表情やアンケートの
結果がすべて!」という言葉で終わらせたくなるのも事実です。 

しかし、よりよい実践にすることを思えば、個々の生徒の変化を
きっちり見とり、それを次の実践につながないといけません。

 

私は数学の教員ですが、数学の教員は誰もが、毎時間の授業での
生徒の理解度を把握し、定着度合いをテストなどで確認しながら、
その結果を次の授業につなぐということをしています。
さらに節目には模試や定期テストもあります。
生徒が頑張ったからOKとはだれもいいません。
考えれば考えるほど、取り組みを評価することが大切だと
思うようになりました。

そして(もしかしたらここは管理職を含む多くの教員が
誤解しているかもしれませんが)、評価は自分の実践の素晴らしさ
(時には不十分さ)を示すためではなく、生徒がより成長
するためのものだということを強く思うようになりました。
 

 2 学校の教員だけで取り組むのには限界がある 


CSLの評価についての問題意識は日に日に高まっていきました。
しかし(先にも書きましたが)、日常の生活ではどうしても
実践中心になり、評価まで手がまわりません。
そんなときすばらしい出会いがありました。
京都大学の溝上先生の研究室に本校の卒業生(田中くん)が
在籍していたのです。田中くんはキャリア教育をテーマに
しようとしており、さらに溝上先生の指導方針もあって、
研究の場にもできる学校現場を探していました。
卒業生が母校の教育がよりよくなるために
研究することは大歓迎です。
こうして強力な助っ人が加わりました。


田中くんに何度も来校してもらい、打ち合わせを重ねました。
その中で、CSL授業で生徒に課している「働くことについての
私の夢」というレポートに注目し、このレポートを評価する
ルーブリックを作成しようということになりました。
幸いCSLを一緒に担当している田内先生が、IBの授業で
ルーブリックを用いてのレポート評価を経験されていました。


2学期のCSLのメインテーマは「働くこと」で、6時間連続で
働くことについて考えるという授業があります。
そこで、授業前後で働くことについての意識が
どう変わったのかを調査することで、授業の効果もより
はっきりするだろうと考えました。

生徒にはGWと冬休みの2回、同じレポートを書かせ、
どちらも評価することから、授業前後で生徒の働く意識が
どのように変わったのかがわかるだろうと考えました。

なおレポートで聞いたのは

(1)何のために働くのか?
(2)社会に出る上で自分の今持っている長所、これから身につけたい長所
(3)働くことを通して達成したいこと  の3つでした。


評価することを考えずにレポートを作成したことが、このあとの
苦しみになるのですが、この段階ではそのことに気づいていませんでした。
 

3 ルーブリックでレポートを評価する 


ここまで順調に来ましたが、レポートを評価することは
そんなに甘くはありませんでした。
レポートを評価する作業は評価の観点を決めるところから難航しました。
理由は簡単です。こちらがレポートのねらいや、このレポートで
生徒に到達してほしいという目標を明確にしていなかったからです

レポートを見ながらの教員同士の会話で、この生徒はよく書けている、
この生徒は意識が高いなどの話はしていました。
しかし、何を基準にそう思ったのか、
そもそもこのレポートでどんなことを書いている生徒は
働く意識が高いと言えるのか、こうしたことを
言葉にしたことはありませんでした。

田中くんは生徒のレポートを多数読みこみ
評価の観点案を提示してくれました。
それをもとに議論する中で、少しずつ評価の観点が明らかになってきました。
担当者でレポートから働く意識を見るときの視点が共有できた瞬間でした。


議論の結果、評価の観点は次の3つに決まりました。
私たちがなんとなく思っていたことがこうして言葉として共有化されました。 

(1)自分および社会のために働くという動機を持っている
(2)自分の興味・関心・長所を分析できている
(3)仕事を通して達成したいことが明確である


その後3人で一緒に採点します。
あれだけ議論したあとなのに、なかなか採点は一致しません。
しかし、なぜこのレポートはこの点数になるのかを
議論することで、少しずつレポートの読み取りは深まっていきました。

6時間かけても40枚しか採点できませんでしたが、
残りの70枚を各自で採点したとき、その結果はかなり一致しました。
これは評価基準が共有できた瞬間でした。

この過程で自然と目指すものも共有できました。
目標をもとに、レポートをこうすればよい、こんな授業にした方が
いいかもしれないなどの議論ができるようになりました。

そして働くことについて考える授業を通して、生徒たちは
「仕事を通して達成したいことがより明確になった」ということが
採点結果からわかりました(残りの2つの観点はほとんど変化なし)。
 

4 最後に 


 このプロセスには課題もたくさんあります。
 まずは順序が逆になってしまったことです。
 先に目標をはっきり共有し、それをもとにレポートを作るべきだし、
 評価基準もあらかじめ生徒に示すべきものでしょう。
 また、働く意識を測るべきなのかどうか(そもそも測れるのか)
 についても再度考える必要があります。


 しかしこのプロセスを経て、私たちが得たものは少なくありません。
 まず、こうやって評価に向き合うことで、目標が共有できることを
 実感できました。またルーブリックについてのノウハウも残り、
 これは次の段階でもっといい形で使えそうとの感触を持ちました。
 そして現場と研究者がコラボすることの良さもわかりました。
 授業を通して生徒のどこが変わったのかも、全体的な傾向だけでなく
 個人レベルで把握することができました。

 こうしたプロセスのおかげで、CSLは次のステージへ進むことができたのです。
 そしてこのときまた新たな助っ人があらわれました。

(続く)

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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