2015.05.14
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キャリア教育の取り組みを評価する(1)~評価の大切さに気づく~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

1、キャリア教育の取り組みを評価する

「偏差値が○上昇」という成果は非常にわかりやすいです。
「国公立大学○人合格」も同じでしょうか。
他方で、キャリア教育の取り組みを評価することは、
そんなに簡単なものではありません。

私が勤務している学校では2008年度からキャリア教育部を設置し、
2013年度からキャリア教育授業(CSL)を実施しています。
キャリア教育の取り組みをすすめる上で、時には壁となり、
時には推進力となったのが評価でした。

3月に「シティズンシップの教育効果をどう測るのか」という
企画でお話しする機会をいただきましたが、
容易に数値化できない取り組みこそ、評価というところで
多くの方が壁にぶつかっていることも強く感じました。

今回から4回(?)連続で「キャリア教育の取り組みを評価する」
ということについて書きたいと思います。
本校でのキャリア教育授業(CSL)の取り組み評価を中心に書きます。
本校でも評価については手探りで進めていますが、
その過程はどの学校でも通る道かもしれません。

少しでも参考になれば幸いです。
1年後、文科省の研究指定をまとめたときに、
「昔はこんなレベルで考えていた」と懐かしんで読むことを
目標に書きたいと思います。

 

2、キャリア教育に評価は必要?

「キャリア教育の取り組み(成果)を評価する」


 こう聞いたとき、みなさんは率直にどのようなことを思われますか?


では次の言葉はどうでしょうか?

「成果を数字で示しなさい」

 

近年、教育現場でもこのようなことがよく言われます。
こうした時代の流れに対して「教育の成果は数字では測れない」
「本当に大事なことは数値化できない」という声もあり、
他方で「○○大学○人」「偏差値」などのわかりやすい数字のみが
一人歩きしている現状もあります。

 

2015年3月、国立教育政策研究所はキャリア教育の評価に関する
パンフレットを作成しました。パンフレット冒頭に次のような
言葉がありました。
(このパンフレットには立命館宇治の取り組みも紹介されています。
 パンフレットはダウンロード可能です。文末をご覧ください) 

「キャリア教育を推進・充実させていく上で、
  評価はとても重要です」

みなさんは、なぜこう言えるのだと思いますか?

他方で次のような反論も予想されます。
みなさんはこの反論に対してどう答えますか? 

 

「そもそも現場は実践だけでも忙しいのに、なぜ評価が大事なんだ?
 評価しろというなら、一度子どもたちの表情を見にきたらいいのに。
 そもそも教育の場に成果主義みたいな数字はふさわしくない。
 キャリア教育に取り組むときの生徒の活き活きとした表情や
 すばらしい感想がすべてを示している。あれを数値化することはできない。」

この反論は、評価に対する誤解もかなり含んでいますが、
こうした声が現場にあることも事実です。

パンフレットには次のような記述もありました。 

 

「先生方はキャリア教育の成果を見取る重要性を感じている一方で、
 具体的にどうしていけばよいのかについて悩んでいます」

まったく同感です。一方で大事なことは「どう評価するか」よりも
「なぜ評価するのか」という問いかもしれないとも思います。
この問いに次の一歩へのヒントが隠れているように思います。
 

みなさんはなぜ成果を見取ることが重要だと思いますか?

 


3、CSL実践初年度の評価とぶつかった壁


CSL実施初年度、幸い文科省の研究指定を受けて実践を
進めることになりました。今ふりかえると、文科省に提出した書類でも
評価についての記述をかなり求められていました。しかし、
このときの自分はどこかで「CSLの取り組みがいかによかったのかを
数字で示せば良い」と勘違いしていたかもしれません。
(低いレベルでお恥ずかしい話です)

ともあれ実践は進んでいきます。
本校では年度初めにシラバスを生徒に示します。
そのおかげで(?)CSLもシラバスが完成しました。
つまり担当者で相談して授業目標を文字にしたことになります。
あとでふりかえるとこの作業は大事な過程でした。

「評価をしなければいけない」との思いから、毎時間のワークシートを
スキャンして残しました。アンケートも実施しました。
年度初めと終わりに同じ質問をし、変化を調べることも考えました。
大変ではありましたが、こうした作業も非常に重要でした。

1年間の実践が終わり、アンケートを集計しました。
その結果は予想した以上にすばらしいものでした。

たとえばCSLの授業目標の達成度(自己評価)は予想以上に高く、
すべての項目で達成度は80%を越えていました。

1年間の授業をふりかえっての自由記述には
「なりたい自分がたくさんあることに気がついた」
「将来のことを考えたらワクワクするようになった」など、
こちらが読んでいてうれしくなるようなコメントが並びました。

さらに来年CSLを受ける生徒へのアドバイスで多かったのは
「授業を大切にしてほしい」「まじめに受けてほしい」
「生きる上で役に立つ」というものでした。

私たちも授業をする中で、また担任として生徒と関わる中で、
キャリア教育授業の大切さ・意義は感じていましたが、
アンケートの結果をみて安心すると同時にうれしい思いになりました。

(正直なところ、アンケート分析はかなり大変でしたが、、、)

CSLは公開授業を見に来てくださった方からも高い評価をいただき、
同じ学校の先生方も、「今年の1年生は意識が高い」
「CSLのような授業は必要だ」「口頭試問に関わってCSLの重要性
を強く感じた」などと言ってくださいました。

「今年の1年生は意識が高い」は数値化できません。
またCSLだけでそうなるわけもありません。
しかしながら、多くの先生がこのように感じてくださった事実、
そして生徒の取り組み姿勢や完成させたレポートこそが授業の
評価だと言えるでしょう。

この結果に少し満足した私たちですが、
次年度に向けての総括をする中で、大きな壁にぶつかります

それは
「何がどうよかったのか、
 生徒がどう変わったのかわからない」ということです。


そもそもCSLで生徒の何がどう変わったのでしょうか?
CSLの何がよかったのでしょうか?
個々の生徒に注目したときに、
成長や気づきにはどのような差があるのでしょうか?
先行研究など、客観的に分析できる材料と比べて本校の生徒は
どうなのでしょうか?

こうした質問に対する答えは見つかりませんでした。

さらに私たちが無視できないのは
「どのような取り組みも、アンケートをとると
生徒の満足度は比較的高くなる」という現実でした。
つまり”アンケート結果が良い=成果があった”と簡単には言えないのです。

おそらくCSLは悪い実践ではなかったでしょう。
生徒にとって貴重な時間になったことは間違いありません。
そして報告書に書く程度の成果はありました。

しかしそんなことは私たちが目指すところではありません。

ここで私たちは遅まきながら評価の重要性に気がついたのでした。

(続く)


CSLについて詳しく知りたい方、報告書が必要な方はご連絡ください。
(junpei*ujc.ritsumei.ac.jp。*を@に変えてください)


<文中で紹介した国立教育政策研究所のパンフレット>
http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/career_jittaityousa/career-report_pamphlet2.htm 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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