2015.03.16
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キャリア教育は大人も問われている

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

 みなさんは今将来の見通し(将来こういう風でありたい)を持っていますか?
 持っているならその見通しに向けて行動していますか?
 大学生活の中で、就職してから将来の見通しはどう変わりましたか?
 そしてキャリア教育で大人が問われていることは何だと思いますか?

 

1、将来の見通しに影響を与えるもの
 

 
 前回は将来の見通しの大切さについて書きました。
 そして本校の調査から、キャリア教育授業によって将来の見通し
 がないと答えた生徒が減少したことや、高校生もキャリア意識は
 思ったほどかわらないということについて書きました。 
   
 たしかに高校入学時に将来の見通しがないと答えた生徒の約半数は
 1月でも「将来の見通しなし」と答えています。高校入学時に
「将来の見通しがある」と答えた生徒で、1月に「将来の見通しなし」 
 と答えたのが10%あまりであることと比べてもすごく大きな数字で、
 ここから中学校までの教育が大切という結論が導けるかもしれません。

 しかし過去は変えれません。高校で生徒に関わるならば、
 中学校までの教育ではなく、高校ですべき教育にこそ注目すべきでしょう。  
 こう考えると注目すべきは、(入学当初は将来の見通しがなかったのに)
 高校生活で将来の見通しを持つことができたという半分の生徒です。
 こうした生徒たちについて、なぜ将来の見通しをもつことができたのか、
 またなぜ将来の見通しを持つことができたのかを調査しました。

 調査結果は次の通りです。(2年続けてほぼ同じ結果でした)
 

 ☆なぜ将来の見通しを持つことができたのか?


  1位 キャリア教育授業と関係すること 56%
   (ボランティア、R-CAP、授業全体など)

  2位 学校生活全般  22%
   (クラブ、友人の影響、成績がよかったなど)

  3位 自分で決める経験 17%
    (文理選択、行きたい学部を決めたこと)


 もちろん自分で何かを決めるという経験をすることは、見通しを持つきっかけになります。
 そして自分と向きあう時間を確保することもそれは同じです。
 日本の高校では各学年で必ず、文理選択や選択科目登録がありますが、
 これは将来の見通しを持つきっかけという点でも非常に大切なことです。

 将来の見通しについて考えるときに上記の逆のケース、つまり高校生活の中で
 将来の見通しがなくなったという生徒に注目する必要もあるでしょう。
 この点についても調査しました。(これも2年続けてほぼ同じ結果でした)


 ☆なぜ将来の見通しをなくしたのか? 
 

   1位 視野の広がり、スタンダードの高まり 46%
   (やりたいことが増えた、選択が広がった)

   2位 不安、自信をなくす38%
   (まわりの人ほどではないと思った、自信をなくしたなど)

 

 2、将来の見通しはゆらぎ、再構築される


 前回書いたように、何かしらの見通しを持ち、アンテナを立てた状態で
 新しい環境(次のステージ)に飛び込むことは大切です。
 しかし新しい環境で将来の見通しは揺らぎます。理想と現実にギャップはつきもので、
 さらに新しい環境で自分に自信を失くすこともあるでしょう。
 逆に環境がかわることで世界が広がったり、自分の新しい可能性に気づくこともあります。
 つまり環境が変わるときに将来の見通しは揺らぐのです。

 ところで将来の見通しをなくしてしまった生徒たちは
 どんなことがあれば、将来の見通しをもてたのでしょうか?
  高校生活の中で将来の見通しをなくしてしまった生徒たちに
 どういうことがあれば将来の見通しをもてたと思うのかをたずねました。

 結果は次の通りでした。

 

   ☆こんなことがあれば将来の見通しを持てた

   1位 仕事を知る機会 25%
    (職業別のガイダンス、インターンシップなど)

   2位 個別相談 25%
    (似たような先輩との話、個人的な相談)

  
 ここから自分にとって等身大ともいえる目標(次の世界)や、ロールモデルとの出会いが
 大切ということがわかります。新しい環境で将来の見通しが揺らぎ、次の一歩が見えなく
 なったと感じているからこそ、このように答えたのではないでしょうか。

 新しい環境で、視野が広がったり、自信をなくしたりして将来の見通しをなくす可能性は
 誰にでもあります。そのときに何かのきっかけがあれば、新たな目標を見つけることができ、
 人は再度将来の見通しをもてます。そしてまた次へと一歩歩み始めます。
 おそらくこれを成長というのでしょう。 
 
 ここまで書いてきて、ふと思いました。
 みなさんは自分と向きあう時間を確保していますか?
 
  

 3、キャリア教育で大人が問われていること
 


 ここまで大人が生徒たちにキャリア教育をするというスタンスで書いてきました。
 しかしどう生きるのかは生徒だけでなく、大人にとっても大きなテーマです。
 もしかしたらキャリア教育は大人と子どもが同じ目線でともに考えることが
 できるものかもしれません。
 
 生徒たちは社会の未来ですが、その生徒たちに大人はしっかり背中を見せることが
 できているのでしょうか。将来の見通しについて調査する中で、実はこのことこそが
 問われているように感じました。今の子どもたちが一番見たいものは、大人の生き方
 そのものかもしれません。 

 キャリア教育で社会と学校をつなぐことは大切です。
 しかしもっと大切なのは、大人が生徒たちと一緒に生き方を考え、
 自分も将来の見通しを持って一歩踏み出している姿を見せることなのかもしれません。

 

 キャリア教育授業を一緒に担当している田内先生は、1年をふりかえる文章で
「どう生きるかという時に大切なのは「とりあえず動く」ということだろう」
 と書いておられます。田内先生は授業のテーマである「どんな生き方をするのか」
 という問いを自分自身に向けた時に、理想と違う自分に気づきすごく悩んだ
 とふりかえっておられます。しかしそんな中でも、キャリアに関する本を読んだり、
 東日本大震災への取り組みに参加したりされました。こうした先生の存在が
 一番のキャリア教育なのかもしれません。

 

 2年間の調査で生徒たちのキャリア意識について、いろいろなことがわかってきました。
 教師として、新しい環境で見通しが揺らぐ生徒たちにとって頼れる伴走者でありたい
 という思いと同時に、実は問われているのは自分たちだということも実感しています。
 将来の見通しを持ち、一歩踏み出す勇気を大切にしたいと思います。
 みなさんは一歩踏み出していますか?

 

 今回で第16期は終わりになります。お読みいただきありがとうございました。
 みなさんからの記事に対するフィードバックが大きな励みになりました。


 第17期も参加執筆予定です。来年度は文科省指定最後の年になります。
 第17期では来年度の重要テーマであるキャリア教育授業の評価についても紹介したいと思います。

 

 ここまでありがとうございました。
 これからもよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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