届けたい子どもには届けられない
前回に、助成金が回りまわって、無料学習支援の教室を開催できることになった、というところまではお伝えしました。今回はその続きです。
学習支援の仕組をつくるための無料教室の試みですので、まずは子どもたちに来てもらわなければはじまりません。小中学校に、無料教室の案内の配布をお願いするために、教育委員会の後援申請をしました。申請を受け付ける教育委員会、配布をお願いした小中学校、共に好意的ではありませんでした。市の福祉課にもお願いに行きましたが、全地域に配布する案内を作成するのであれば検討すると言われ、諦めました。結果的に、小中学校共に案内の配布はしていただけましたが、心が折れそうになるようなことも言われました。
取り組んだからこそわかることですが、「無料教室を開催します」と告知して、通える子どもは、家庭がしっかりしている子どもです。本当に困っている子どもたちに来てもらうには、個人情報を把握している学校や福祉課との連携が欠かせないと思います。
無料学習支援がはじまって
会場とした、コミュニティカフェは、1階はテーブル席で15人ほどが座れますので、10名程度の募集を行いました。中学校の校長先生からは「この地域にそんなニーズはありません」と言われていたので、集まらないかと心配していたのですが、友達を誘って来る子どもたちもいて、あっという間に20名を超えてしまいました。急遽、2~30名ほど座れる2階を会場にし、講師を増やして対応しました。
運営から考えると、10人程度で行いたかったのですが、先着順を理由に断って、もしもその中に、本当にここを必要としている子どもがいたらと考えると、断ることができなかったのです。個人情報を持たない一地域の人という立場では、断る基準がないのです。ここにも自治体と連携を取る必要性を感じました。
教室は、16~18時は、1階で高校生が小学生に勉強を教え、18~21時は、大学生が中高生に勉強を教え、晩御飯は順番に1階で食べる形になりました。
いろいろな子どもが集まって
20人もいれば、真面目に勉強する子どもも、そうでない子どももいて大変でした。勉強をするために来ている子どもと、居場所として来ている子どもが混ざっていました。勉強道具すら持って来ず、割りばしとゴムで飛行機を作ったり、家に持って帰れないプリントだったのでしょうか、トイレに流し詰まってしまい、翌朝ラバーカップを持参して修理したりと、いろいろとありました。
子どもたちだけではありません。講師として来ていた若い方の行動を注意したところ、誹謗中傷を講師メーリングに長文で送りつけ、いきなり連絡がつかなくなったこともありました。講師採用基準や子どもたちへの指導態度などのマニュアルの作成や研修の必要があることを学びました。無料だからこそ許される試行錯誤の半年間でした。
こたつみたいな居場所に
と、ここまで読んでいただいた方は、学級崩壊のような教室を想像されているかもしれません。確かに学習の場としてはベストとは言えなかったとは思いますが、居場所としては温かい場所になっていました。地域の方が作る晩御飯を、みんなで食べる時間、小学生と高校生先生、中高生と大学生先生が勉強をしたり話をする時間は、ほんわかとしていて、見ている方も嬉しくなりました。
勉強をしない子どもたちは、「勉強せえへんのやったら、来るな!」と、私に怒鳴られるのですが、それでも「それは嫌やな~」と次も来る子どもたち。先生と生徒、親と子ども以外の、自分を知らない人とのナナメの関係は気が抜ける場所だったのかなと思います。
あっという間に助成期間の半年が過ぎ、無料教室も終わりの時期になり、卒業を迎える大学生ともお別れの時期になりました。3月には地元東北に戻る大学生に合わせて、お別れ会を開催しました。半年間だったけど、子どもにとっても、大学生にとっても、大人にとっても、素敵な時間になったと思います。
教室は、次のステップに移る時期となりました。次回はここからお伝えさせていただきます。
【写真の説明(左から)】
・小学生に勉強を教える高校生
・中高生の勉強時間(写真は中学生女子)
・3月に開催したお別れ会の様子

水木 千代美(みずき ちよみ)
NPO法人まどり 代表理事
次世代にmよりよい環境を引き継ぐためのNPOを運営しています。地域の皆さんと、「地域で子育て」を日々行っています。"普通のおばちゃん"の活動をお伝えしていきたいと思っています。
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