2014.12.30
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地域でできること、地域だからできること <非日常ではなく日常の居場所>

NPO法人まどり 代表理事 水木 千代美

    

 

我が家でのある日の出来事

 私事の小さい出来事の話ですが、息子は小学校の時は学童保育に入っていました。その当時、学童では年に1回、市内全域の学童が参加する合同運動会が開催されていて、花形競技は各学童から1年~3年の男女各1名ずつが選ばれてのリレー。息子は、学童内での競争に勝ち残り、1年、2年共に選ばれていました。しかし、どちらも雨天で開催されず、最後の3年生の時、学童内の最終決戦で負けてしまって選ばれませんでした。その日、学校から帰ってきた息子は、見ただけで何かあったなと気付くほどの落ち込みようでした。その夜、布団の中で涙ぐむ息子をぎゅっと抱きしめた時に、「こんな風に抱きしめてもらえない子どももいるんだろうな…」という思いがふと頭をよぎったのです。
 

児童養護施設訪問

 戦災孤児を養育するためにできた児童養護施設は、虐待、育児放棄などの子どもたちの養育が主な役割となりながら、今でも約3万人の子どもたちの暮らしを支えています。そこには、18歳になると30万程度の支度金で自活を迫られる子どもたちもいます。国は少子化問題を取り上げるのであれば、生まれてきた子どもを税金を支払えるくらいに育て上げることを考える方が、国策としても正しいのではないのかと思いますが、大学進学率は一般家庭と比べて4分の1と、決してそうではないことがわかります。ちなみに、中学生の塾費用は2009年度から認められていますが、高校生の塾費用は認められていません。
 
 生まれた場所で子どもの将来が決まる社会はおかしいと思っていた私は、自分には何ができるのか、また施設の子どもたちには何が必要なのかが知りたくて、友人の紹介で、とある大規模な児童養護施設を尋ねました。子どもたちが学校に行っている間に、見学をさせていただき、職員さんから話を聞きました。子どもたちは「どうせ」ということをよく言うこと、先生を独占したがること、一時的なボランティアは困るということ、等々、いろんな話を聞きました。
 
 そこは、我が家よりも個人のスペースが確保されたきれいな施設で、食事もきちんと栄養管理されたものが提供されていましたし、環境としては申し分のない施設でした。けれど、家庭にあるいい加減さがないことに気がつきました。いい加減とは「良い加減」だと思うのです。「今日はこのテレビを見たいから、お風呂は後で入る」、「きょうはたくさんお手伝いしたから外食に行こう」、というような、暮らしの中にある、ゆらぎやあそびとも言える間がないのです。きれいな環境で、時間通りにきちんとした食事が提供され、優しい職員さんがいても、そこは「家庭」ではなく「施設」でした。安定した環境を大規模な施設で提供するには「施設」としての運営をしなくてはならないのです。そして、理解したのです。生半可な気持ちでこの場所に踏み込んではいけないと。施設にいる子どもたちは、それぞれが過去に大人に裏切られた経験をして入所してきます。その子どもたちに対して何かを行うのであれば、絶対に裏切らない=継続できる自信を持って臨まなければならない。そうでなければ、また子どもたちを裏切ることになってしまうと。
 

地域で継続してできること

 養護施設の訪問後、今の私に出来ることは何かを考えました。答えは、自分の地域の子どもたちは地域で育てよう、見守ろうということでした。子どもにとって良い環境は、大人にもよい環境だと思いましたし、様々な立場の子どもたちのセーフティネットになると考えました。児童養護施設の子どもたちのための活動ではないけれど、ボーダーラインにいる子どもたちの役に立つことはできるかもしれないなと思ったのです。コミュニティを育む場所は、子どもたちが育つ場所にも成り得るとの思いは、居場所としての「さたけん家」を作ることにつながりました。行政から、場所の提供、もしくは家賃の補助のみで、地域ボランティアによる「居場所づくりの仕組み」が作れたら、一か所あたりの補助額が低く抑えられる分(※)、小学校区に1ヵ所程度の居場所が作れるのではないかと思ったのです。(※吹田市の子育て広場は1ヵ所あたり年額600万程度の委託費が必要)
 
佐竹台地区には児童館もないので、子どもたちが自由に集まれるような居場所があったらいいなと思っていました。現在、「さたけん家」の運営には、行政からの補助はないので、地域のお母さんスタッフが作るランチやドリンクなどの利益でギリギリの収支で運営しています。本来は、毎夕居場所として開放したいのですが、収益を生まない事業を行うのはスタッフの手配も含め難しいため、今出来ることとして、地域のボランティア先生による囲碁教室や編み物教室などの、定期開催の無料教室を開催しています。また味噌造りや梅ジュースづくり、お仕事体験なども開催しています。でも、本当に必要なのは、非日常ではなく日常の居場所なんだということも理解しています。夕方、スーパーの前で、カップラーメンを地面に座って食べている子どもたちを、毎日受け入れられるような場所にするのが目標です。居場所の継続と、子どもたちの居場所づくりの両方を目指しています。
今出来ることのひとつとして、次に取り組んだのは「学習支援」です。次回はこちらを書かせていただきたいと思います。(つづく) 
 
【写真の説明(左から)】
・お味噌づくり 小さい子を抱っこしてあげる6年生
・わらべ焼き(たこの代わりに牛スジコンが入ったたこ焼き)を焼く仕事をしています
・地域のボランティア先生による囲碁教室

水木 千代美(みずき ちよみ)

NPO法人まどり 代表理事
次世代にmよりよい環境を引き継ぐためのNPOを運営しています。地域の皆さんと、「地域で子育て」を日々行っています。"普通のおばちゃん"の活動をお伝えしていきたいと思っています。

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