2015.01.01
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

キャリア教育授業を正課に位置づけませんか?

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

新年あけましておめでとうございます。 
2015年のはじめに書かせていただくことになり光栄です。

1年のはじめですので、教育制度への提案を書きたいと思います。

  ”キャリア教育の授業を正課に位置づけて実施する” 

みなさんはこの提案についてどう思いますか。

 

 1、キャリア教育の授業(CSL)

 

本校では2013年度よりキャリア教育の授業(CSLという名称。
これ以降CSLはキャリア教育授業のことを意味します)を正課に組み入れています。
つまり各クラスの時間割にCSLが入っています。
CSLは高校1年生が対象で、総合的な学習の時間を活用した、毎週1時間の授業です。
私を含めて教員2名で8クラスを担当しています。
私は数学の教員ですが、私の時間割には数学に加えてCSLも入っています。

   
平成23年1月に出された中央教育審議会の答申では、
高等学校(特に普通科)におけるキャリア教育の推進方策として、
 
「高等学校の教育課程に、(総合学科で
実施されているキャリア教育授業)
産業社会と
人間、またはそれに類する教科・科目等のような中核となる
時間を明確に位置づけることについてさらに検討が必要」とされました。

この答申を受けて文科省は、キャリア教育の中核となる時間の設定に
関して参考となる資料を得るため、調査研究を実施しています。
2013年度に全国5校で始まった調査研究ですが、本校はその指定を受けて、
CSLを実施しています。 

 2、キャリア教育を実践する難しさ 

 
CSL授業の感想で、多くの生徒が「他の教科では学べない」と書きました。
この生徒からの指摘をもう少し掘り下げて考えたいと思います。

”キャリア教育は学校全体を通して行う”。確かにその通りです。
しかし、その役割分担についても考えるべき時期にきているのではないでしょうか。
 

リクルートキャリアガイダンスの山下編集長は、キャリア教育の内容として、
「生き方について考える」と「生きる力を身につける」の2つの軸があることを指摘されています。

「生きる力」は日常の教科学習中心に育まれます。教育内容・方法など工夫の余地は
大いにありますが、授業時間は確保されています。
一方、「生き方について考える」時間は意識しないと案外確保できません。 

  
本校の生徒たちはCSLで自分と向き合い、「生き方」を考えました。
CSLの学びを「他の教科で学べない」と感じたのはこの部分でしょう。
そしてこれはCSLという授業時間を確保したからこそできたことです。  


”キャリア教育は学校全体を通して行うもの”、という言葉は、
 この2つの軸で考えるとその意味がよくわかります。
各教科中心に育む「生きる力」と、総合的な学習の時間などを中心に育む
「生き方を考える時間」の相互作用で、よりよい実践となるのです。

一方でキャリア教育は「学校全体」という言葉があるために責任が
不明確になっていることも否めません。
(ここでいう責任は、校務分掌など仕事上の役割ではなく、教育課程などをさします)


たとえば数学では、数学の時間があり、専門性を持った数学の教員がいて、
最低限教える内容(教科書)も決まっています。
キャリア教育はどうでしょうか?キャリアの先生がいるわけでもなく、
教える内容が決まっているわけでもなく、キャリア教育の時間も、HRや総合の中で、
他の取り組みと調整しながら確保するというのが多くの学校の実態ではないでしょうか。


キャリア教育の重要性は誰もが言います。しかし学校現場への浸透は簡単ではありません。
その背景に「誰がどの時間に何を教えるのか」という意味での
責任体制の不明確さがあることは否めません。 
 

 
3、キャリアの教育授業を核に、学校全体のキャリア教育を充実させる!  

 
この文章を書いていて思い出すことがあります。それは教科「情報」です。 

”学校の情報化は学校全体で行う”といわれ、心ある先生は苦労しながら
実践を重ねていかれました。そんな中、教科「情報」が設置され正課となり、
すべての高校生が一定の内容を学ぶことになりました。

その結果、教科書・副教材ができ、研究会活動も各地でより活発になりました。
情報の先生が各校に配置され、実践の蓄積・共有化も進みました。
さらに、「情報」の授業を核として、学校全体の情報化が進んだことも忘れてはいけないことです。
今では「学校の情報化」という言葉を使うまでもなく、ICTは学校に自然と入っています。
タブレットを生徒に持たせるかという議論さえもおこるようになりました。
もちろん社会の変化はありますが、教科「情報」の果たした役割は大きいです。


キャリア教育授業を正課にすれば、すべての生徒が一定の内容を学べます。
その結果より多くの生徒が自分と向き合い、前向きな進路選択ができるでしょう。
そしてキャリア教育授業を通して働く意味、学ぶ意味を見出すこともできるでしょう。 
そんな生徒たちが社会に出てからも、学んだことを大切にして前向きな人生を歩み、
人生の転機にも適切に対応できるようになれば、社会全体も変わります。

もう一つ、正課になることのメリットで忘れてはいけないことがあります。
それはキャリア教育に関わる人や教材が増え、実践レベルが向上することです。
正課になれば教科書や副教材ができます。
日本の教師は熱心なので、研究会もより活発になり、実践交流が進むでしょう。
学校の方や団体など外部人材も学校に入りやすくなるでしょう。

このような波及効果が大きいことは、教科「情報」が証明しています。


今の状態でも、心ある方たちの取り組みでキャリア教育の実践は進んでいます。
今必要なことは、心ある人が実践しやすくなる仕組み、
そしてすべての学校で実践の継続や共有がしやすくなる仕組みです。 
キャリア教育授業を正課に位置づければ、これらは容易に実現するでしょう。


総合的な学習の時間は教育課程に位置づけられていて、その活用は可能でしょう。
総合学科ではすでに「産業社会と人間」の取り組みが蓄積されています。
文科省は概算要求ですが、本校が取り組んでいる調査研究の指定校を 
来年度は5倍にしようとしています。

本校ではキャリア教育授業CSLを実施することで、担任の先生も授業を
見に来てくださり、取り組みが自然と共有できるようになりました。
指導案など授業のノウハウも蓄積されました。
正課に位置づけたので実践も継承されます。課題もありますが、
現状では正課に位置づけるメリットの方が大きいと感じています。  

  
 「 キャリア教育授業を正課に位置づける 」
  
このことについて、もっと議論を深め決断する時期ではないでしょうか。   


本校は今まで生徒の成長だけを考えてキャリア教育やキャリア教育授業に
取り組んできました。これからもその思いは変わりません。
しかし本校の調査研究を有益なものにし、国の政策決定にも寄与できるようにする、
という使命も忘れず頑張っていきます。

    
ここまでお読みいただきありがとうございました。
今年もすばらしい1年にしましょう。
今年もよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop