2014.12.15
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キャリア教育の土台はソーシャルスキル

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

キャリア教育の土台はソーシャルスキル。
こう聞いたときに、みなさんはどのように感じられますか。

1、生きていく上で大切な「ソーシャルスキル」


いきなりですが問題です。次のケースを考えてください。
 

 あなたはお客さまと18時に約束をしていました。
 大事な約束なので、早めに職場を出て電車でお客様のところに
 向かいましたが、途中で人身事故があり電車が止まってしまいました。
 携帯電話も圏外でどうすることもできないまま、電車内で18時をむかえました。
 結局お客さまのところに到着したのは18時30分でした。


みなさんはこんなときどうしますか?
お客さまに会ったときの一言目は、何といいますか?
 

こういう場面での対応が人によって大きく異なるということは、
みなさんもいろんな場面で実感されているでしょう。
またこういうときの対応一つで、その人への見方が大きくかわった
経験もあるのではないでしょうか。
 

キャリア教育というと、進路選択や生き方を考えるという側面が強調されます。
しかしどんな生き方を選んでも、他者と関わり、一緒に何かに取り組みながら生きていきます。
人は一人では生きていけません。
また、どんな道を選んでも思うようにいかず、ストレスを感じるときは必ずあります。
こうしたときの対応一つで自分を取り巻く世界は大きく変わります。
つまり、人とどのように関わるのか、ストレス場面でどのようにそれをコントロール
するのかということは人生全体にも影響するのです。


こうしたことから、本校のキャリア教育授業では、ベースとして
ソーシャルスキルを位置づけています。


ソーシャルスキルでは他者との関わり方やストレス対応などを学びますが、
大切にしているのは「スキル」という点です。先天的なものではなく「スキル」なのだから、
学習することで伸ばすことができるということを強調しています。
 

2、ソーシャルスキルの授業から


「謝り方、頼み方、断り方」の授業では、友人から借りたノートを
忘れてしまったという設定で、どのように謝るのかを考えます。


その後、

 「まず謝罪」 → 「自分の間違いや過失を認める」 →
 「自分の事情や理由をわかってもらう」 →「解決の提案や改善の約束」

という謝り方を教えます。

生徒には「”ごめん、ま(間違い)り(理由)こ(今後)”で覚えよう」というと
すっと入りました。こうして謝り方はスキルとなって生徒に残ります。
その後授業では、断り方や頼み方についても学習しました。
 
この時間の内容すべてに共通するポイントは

・自分のストレスも相手のストレスも必要以上に大きくしないこと
・相手の気持ちに配慮しながら、自分の意思も伝えること です。

 この日の学習内容は教室に掲示しました。
 後日、日直日誌を書くのを忘れた生徒が、掲示された「謝り方」を見ながら、
 謝罪するという場面がありました。 


 本校のキャリア教育授業では、他にもソーシャルスキルとして
「アサーション」「認知」「ストレス対応」なども扱います。
  
 ソーシャルスキルのまとめの授業で、生徒は1年をふりかえって
 次のような感想を書いていました。


「周りとのかかわり方が大切だということをいつも考えさせられて、
 どうすれば相手も自分もいい気持ちになれるかわかりました。」

「この1年で友達の言葉や行動に嫌なことがあったときに、一人で悩むのではなく、
 上手く声をかけたり、その人の考えを受け止められるようになった」


そしてほとんどの生徒が、高校生活を通して対応できるストレス場面が増えたと
書いていました。キャリア教育の授業ですが、日常生活にも即役立っていたようです。
ここでの学びを日々の生活でどんどん使ってほしいものです。

 

3、求められるコミュニケーション能力とは?


企業の求める力第一位はここ数年連続して「コミュニケーション能力」です。
しかし、もしかしたらこのことは間違って伝わっているかもしれません。
”明るく元気に誰とでも仲良くできる”=”コミュニケーション能力”であり、
それはパーソナリティーで変えるのは難しい思っている人は少なくないように思えます。
 
しかしコミュニケーション能力とは、よく知っている人や価値観が同じ人と
仲良く盛り上がることではありません、価値観が違う人とも一緒にやっていけること、
ストレス状況にきっちり対応すること、こうしたことこそが
求められるコミュニケーション能力であり、働く上で大切な力なのです。
 

こうした力が不足していると実感されているからこそ、いまだに企業が求める力第一位は
「コミュニケーション能力」という現実もあるのでしょう。

実際本校の生徒を見ても、「謝り方」を考えるときの個人差の大きさにはびっくりします。
すぐに謝罪のセリフを書ける生徒もいれば、手がまったく動かない生徒もいます。
しかし、これらはスキルだから学習することで伸ばせます。
そして、多くの人と生活する学校はこうした学習に適した場所です。
 

「キャリア教育の土台はソーシャルスキル」
みなさんは、この主張に対してどう思われますか?
 
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の原稿は1月1日公開になります。
少し早いですが、よいお年をお迎えください。
そして2015年のはじめは、学びの場.comをよろしくお願いします。

 

(参考文献)
「中学・高校で使える人間関係スキルアップワークシート」(学事出版)

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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