2014.11.07
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キャリア教育でインターンシップを越える体験学習を!

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

みなさんは高校におけるインターンシップは必要だと思いますか?その理由はなぜですか?

インターンシップを越える体験学習にはどんなものがあると思いますか?

 

1、インターンシップの重要性と課題 


キャリア教育の目標として「社会的・職業的自立」があることは言うまでもありません。
今の社会では生徒が「働く大人の姿」をイメージしにくいという現状があります。
自分の将来を考えるため、勤労観を育むため、実際に働くという体験は大切です。
こうしたことから高校でのインターンシップの取り組みは広がりつつあります。
より実践を進めるためインターンシップコーディネーターを配置することが政策として進められています。


一方で、「大学入試を考えると取り組む時間がない」「受け入れ先の開拓、事前・事後の指導などが大変」
という現場の実情があることは事実です。そして高校生を受け入れるということは受け入れ先にとっても大変です。


ある先生は「インターンシップはアルバイトに勝てない」ということを言われていました。
お金のやりとりが発生するアルバイトの方が、生徒も雇う側も必死になり、
結果的に生徒がより成長するという指摘です。また、「大学でもっと本格的なインターンシップ
ができるのだから、高校で無理に実施する必要はない」という意見もあります。


いずれにせよ、インターンシップなど体験学習の重要性はわかるけど、お互いに大変。
さらに教師の本業は授業であり、そこにこそ力を入れるべきということも忘れてはいけない。
結果的に(大学に進学する生徒も多い)普通科の高校ではなかなか実践が進まない
という現状があることは間違いないでしょう。

 

2、インターンシップを超える体験学習~生徒を必要としている場所はある!~


ある県のキャリア教育コーディネータ-の方たちとの研修に参加したときのことです。
取り組みを交流する中で、ある方が「秋のインターンシップを実施したい時期に
受け入れてくれる企業を探しても、お祭りがあって忙しいからという理由で受け入れを断られる」
と言われました。しかしもう少し話を聞くと、そのお祭りでは人手が足りずボランティアを募集していること、
主催者はお祭りで、もっと高校生に主体的に関わってほしい(企画を実施する、実行委員になるなど)
と思われていることなどがわかりました。

私はここに、今のインターンシップ中心の体験学習の問題もその解決策もあるように思いました。

企業に受け入れをお願いするという形のインターンシップだけを考えると、受け入れ先の負担もあり、
日程調整は難しいでしょう。しかしこのお祭りの例のように、地域では高校生を必要としている場所は多いのです。


本校ではキャリア教育授業の一環として生徒たちがボランティア(インターンシップ的なものも含む)
に取り組みます。昨年度からこの形での実践を開始してわかったことは、高校生にぜひとも来てほしいというところ、
高校生と関わりたいと思っているところが多数あるということです。
社会福祉協議会、地元の魅力を伝えるフリーペーパーを発行されている方、市役所、、、、
高校生は地域から必要とされているのです。


本校では「自分や人の人生に影響を与える」を最高目標に生徒はさまざまな取り組みをしています。
植物公園で自分たちで企画した講座を実施、街の魅力を取材しフリーペーパーに記事を掲載した生徒、、、
生徒たちは様々な活動をしました。今年度は街の課題に取り組み、京都市への政策提言をしようと
頑張っている生徒たちもいます。

活動を通して大きく成長した生徒たちに共通しているのは、主体的に社会にかかわり、
サービスの提供側になる体験をしたということです。
私はこうした活動にこそインターンシップを超える可能性があると思います。
活動後は授業の中でふりかえりをしましたが、サービスの提供側になった経験をふりかえることは、
自分の好みや価値観の発見につながり、その結果進路意識はかなり高まっていました。

  

3、学校と社会をつなぐ~生徒たちが次の世代を創る~


今からほんの200年前、江戸時代のことを考えてみてください。
16歳以上の子どもたちは「若者組」の一員として、村の警備やお祭りなどを行っていました。
彼らは村にとって必要不可欠な存在でした。いつからか高校生は消費者となり、
生活世界は学校と家だけになってしまいました。そして学校と社会・地域のつながりも薄くなっていきました。
今求められているのは、学校と社会をつなぎ、高校生が未来を創る体験学習です。
活動を通して生徒たちが学ぶ意味を見つけることができれば、大学でもより成長することは間違いありません。


地域再生×高校キャリア教育というテーマで実践をされている可児高校の浦崎太郎先生は、
ご自身の実践から「高校生は、大人が本気で関わっている場(地域の課題解決など)に交じることで、
多くのことを学ぶ」と述べておられます。さまざまな活動に参加した浦崎先生の教え子たちは、
自ら学ぶ意味を見つけて受験勉強に向かっています。


未来を創っていくのは生徒たちです。
今必要なのは、大人の側が「何かしてあげよう」というスタンスではなく、
次の社会の主役たちと一緒に今の社会を創っていくこと、
大人たちの本気の活動の場に高校生を迎え入れることではないでしょうか。
生徒たちが本気の大人とかかわり、自ら社会を創る活動をはじめるとき、
そこにはインターンシップを超える可能性があります。


本校もコーディネートの負担、生徒たちの活動時間の保障など課題は山積みです。
教員の本業である授業のクオリティーを下げることはあってはならず、
学外の人の助けなしにはこのような体験学習の実施は難しいことも実感しています。
しかしキャリア教育という枠組みだからこそこうした活動が可能になることも事実です。
体制面の問題なども考えながら、実践を重ねていきたいと考えています。


もちろんインターンシップには教育的効果はあります。しかしそれのみに頼るのではなく、
インターンシップを超える体験学習も一緒に創っていきませんか。
もちろんこれは学校外の方の協力なしにはできないことです。
こうした体験学習が学校という枠を超えて広がれば、生徒たちはインターンシップを
超える体験ができ、より成長するでしょう。


お読みいただきありがとうございました。
感想などお聞かせいただければありがたいです。

次回は今年度の「働く意味を考える授業」について紹介したいと思います。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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