2014.10.21
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カタログギフト型のキャリア教育はいらない!

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

結婚式の引き出物にカタログギフトをもらいました。カタログを開くと、
いろんな品物がその良さとともに紹介されていました。
何にするのかを選ぶ時間は楽しい時間でした。
迷いながら一つ選び、はがきを送りました。
数日後、期待した通りの品物が届き、ありがたく使い始めました。

カタログギフトだからこれで問題ありません。
むしろプレゼントをもらう側のことを考えたすばらしい仕組みだと思います。
しかし私たちはキャリア教育という名のもとに生徒に同じようなことをさせていないでしょうか。
カタログギフト型のキャリア教育に問題はないでしょうか。
 

1、キャリア教育イベントの広がり 


インターネットでさまざまな情報が入手できる時代になりました。
同時にキャリア教育のイベントも年々増えています。
大学説明会、大学の先生による模擬授業や講演会、各学校が実施するイベント、、、

大学主催、業者主催など様々ありますが、それらの場で大学のよさ、学問の面白さが語られる
ことは共通しています。生徒たちはお客様扱いされ、大学のオープンキャンパスはプレゼント合戦
になっているという指摘さえあります。「A大学のオープンキャンパスでは○○がもらえた、
B大学では食堂で△△が食べれた」などの会話も飛び交います。
生徒たちは商品を選ぶ感覚で、どの大学が自分を快適にさせてくれるのかを比較する。
イベントの重要性はわかりつつ、こうした現状に違和感を感じるのは私だけでしょうか。


就職活動に向けての取り組みでも似たようなことが起こっているようです。
各大学が実施する多様なイベント、人材情報サービス会社などが主催する大きな就活フェア、、、
そこでは大学生がお客様扱いされ、企業の良さや働きがいが語られます。
大学生がカタログギフトからプレゼントを選ぶ感覚で会社の話を聞く。
本当にこれでいいのだろうかとどうしても思ってしまいます。
おそらくこの違和感は生徒や学生がお客様扱いされているところから来るのでしょうが。
 
 

2、サービスを提供する側と受け手側  

 

サービスを提供する側と受け手側の違いは大きいです。
お金を払ってサービスの受け手になるとき、サービスを提供する人たちは自分を快適にしてくれます。
旅行が一番わかりやすいでしょうか。
お金を払って参加し、サービスの受け手になると、旅行社の方、添乗員さん、ホテルの人など
出会う人がみんなすばらしいサービスを提供してくれます。
サービスの提供側は、相手のことを考え、どうすれば目の前の人が快適に過ごせるかを考えて行動します。
 

今の消費社会で、生徒たちはサービスの受けてとしていろいろなものを与えてもらっています。
そんな生徒たちですが、大人になって働くとサービスを提供する側になります。
ここの差は非常に大きいです。


どんなに自分の好きな学問を学べたとしても、天職と思えるような仕事に就けたとしても、
サービスの提供側になるといいことばかりではありません。しんどいことも多く、
むしろ毎日は地味で日の当たらないことが多いでしょう。

ある大学の先生は「研究者の世界も厳しい。まず自分のポストを確保しないといけないし、
研究者としての成果も問われ続け、プレッシャーもある。けっしてきれいなことばかりでもない。
模擬講義では学問の面白い部分や華やかな部分を伝えるが、日常の研究活動は地味で、
楽しいことばかりではない。これが現実なんだけど、でも講演などで生徒に話をすると
“好きな学問が仕事になって楽しい”ときれいにまとまってしまうんだよなあ」と言われていました。
この発言にこそ真実があるように思えます。

話のきれいにまとまった部分だけを聞いて、サービスの受け手の感覚を持ったまま、
”そこに行けば何かを与えてもらえる”という姿勢で進学・就職する、
結局これは生徒も学校もみんなが不幸になる仕組みになりかねないと思うのは私だけでしょうか。
 
 

3、せめて少しの主体性を!

 
生徒をお客様扱いし、生徒たちはサービスの受け手として、カタログギフトから選ぶように
学部や仕事を選んでいく。ここにはどうしても違和感を感じます。
とはいえ今すぐ何かが大きく変わることはないでしょう。
生徒に与えればいいのではないということを理解した上で、まずは今の現状で
できることを考えていくことが大事です。


最後に今すぐできるアイデアを3つ書きます。
キーワードは生徒たちを「与えられるだけ」状態から脱却させることです。

 

(1)自分にとって必要な進路イベントを探させるという取り組みをする。

(時間確保のため、従来のイベントは一部カット)

(2)大学見学などに参加するときの行動。
 受身に参加して話を聞くだけではなく、自分で大学生にインタビュー。
 後日、インタビューから知った大学の魅力を人に伝える時間を設定する。


(3)生徒たちが自分たちにとって必要な進路イベントを主催する。


 
今回の内容はいかがだったでしょうか。生徒たちが自分の生き方を考えるにあたり、
大学を知ること、学問を知ること、仕事を知ることは大切です。
高校では最先端の学問にふれる機会はなかなか設定できないので、
進路先を知るという意味でも模擬授業なども貴重な場でしょう。
そのことはわかりつつ、生徒が与えられすぎているように見える現状を思ってこの文を書きました。
感想やみなさんの実践の工夫などお聞かせいただければうれしいです。


もちろんカリキュラム上の工夫などで、生徒がサービスを提供する側になることはできます。
このようなことをキャリア教育の文脈で考えると、体験学習につながります。
次回はキャリア教育を考えるときに無視できない体験学習について書きたいと思います。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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