2014.06.26
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

日本野外教育学会 第17回大会

独立行政法人国立青少年教育振興機構 教育事業部 企画課長 松村 純子

 平成26年6月21日(土)~22日(日)に東京海洋大学越中島キャンパスで「第17回日本野外教育学会」が開催されました。私も参加させていただきましたので、今回はこの「日本野外教育学会第17回大会」のご紹介です。

 

日本野外教育学会とは

 日本野外教育学会は、1997年に設立されました。その翌年の1998年より毎年、学会大会が開催されています。各回テーマが決まっていますが、開催地らしさもテーマに表れています。近年のテーマを紹介します。

 第12回 豊かな自然の恵みと学び(北海道教育大学釧路分校)

 第13回 自然がもたらす教育力を考える(山梨大学)

 第14回 野外教育の体系化―その分化と統合について―(筑波大学)

 第15回 美ら島・沖縄を感じ、未来の教育を考える(沖縄キリスト教学院大学)

 第16回 京から明日へ―京都の伝統・文化から明日の野外教育を考える―

 

第17回大会の内容

 第17回大会は、シンポジウムや講演会において「海」がテーマでした。会場が東京海洋大学ということからも想像がつきます。

 1日目の大会内容は、開会式の前に自主企画シンポジウム、ポスター発表(1)が行われ、開会式後に、実行委員会企画シンポジウムが一般公開で行われ、その後口頭発表(1)を行い、終了しました。

 2日目の大会内容は、口頭発表(2)(3)、海洋冒険家の白石康次郎さんの講演会は一般公開で行われ、その後、ポスター発表(2)(3)、口頭発表(4)(5)を行い、大会は終了となりました。

 

実行委員会企画シンポジウム

 1日目の実行委員会企画シンポジウムにシンポジストとして参加しましたので、少し詳しく紹介します。

今回のシンポジウムのテーマは、「水辺活動の教育的可能性」でした。

 

キーノートスピーチ

 初めに、キーノートスピーチとして、京都大学フィールド科学教育研究センターの山下洋教授よりお話をいただきました。京都大学フィールド科学教育研究センターでは、森から海までの生態学的なつながりと人間活動のありように関する「森里海連環学」教育を推進しています。

 

「森里海連環学」の講義と実習は、2004年度から、京都大学の学部生に対して始めたそうです。特に森里海連環学実習はユニークな実習であり、北海道の厚岸湖にそそぐ別寒辺牛川(べかんべうし)と若狭湾にそそぐ京都の由良川において、流域の利用様式、水圏環境、生態系と食物網構造の変化について、1週間かけて上流から河口までのフィールド調査とデータ分析を行います。溶存態チッソ、リン、珪素の濃度を精密な機器により分析し、得られたデータを解析するというかなり高いレベルの内容を含んでいるとのことです。「森里海連環学教育」については2005年度から京都大学以外の学生にも広げているとのことでした。
 

シンポジウム

 水辺活動の現場に関わる団体が実施する水辺活動について、発表しました。

 3人のシンポジストの所属は、ブルーシー・アンド・グリーン財団、大阪YMCA阿南国際海洋センター、国立青少年教育振興機構でした。

 28施設中9施設で水辺活動を実施している国立青少年教育振興機構は、私が(1)国立青少年教育振興機構の概要と組織 (2)28の施設の中で水辺活動を実施している9施設の活動内容 (3)3本の水辺活動事例 (4)体験活動安全管理研修~水辺編~ の順で話をしました。

 「水辺活動の教育的可能性」として、3本の水辺活動事例を紹介しました。

  

水辺活動事例(1)

 事例の1つ目は、国立大隅青少年自然の家の「海からのメッセージ」です。

 この事業は、水深200mの深海をもつ錦江湾を舞台に、その素晴らしさや厳しさを体験することにより「生きる力」を育むとともに、長期冒険型活動を通して心に悩みを持つ青少年の自立を支援する。ことを趣旨としています。

 日程は、事例は少し前の事業になりますが、平成22年8月1日~10日(9泊10日)で実施されました。

 参加者35名のうち、小学生24名,中高生11名。また、課題を抱える子どもは、35名のうち5名でした。

 

 本活動は、ゴムボートによる漕艇距離が、81kmにもおよぶダイナミックな事業です。

 成果として、(1)子どもたちは、漕艇、野外炊事、班活動から自分自身の役割を果たす事ができたようです。(2)事前・事後調査(IKR評定用紙)の結果から参加者の「生きる力の変容」「心理的社会的能力」「徳育的能力」「身体的能力」の向上が見られました。

 課題としては、(1)参加者一人ひとりに対応した「個別支援計画シート」の改善を図ること。(2)錦江湾のゴムボート航行について配慮すること。があげられていました。

 

水辺活動事例(2)

 2つ目は、環境を学ぶ活動の事例で、江田島青少年交流の家の「われら瀬戸内探偵団」です。

 この事業は、海をテーマにした体験的・問題解決的な学習を実施し、環境に配慮した行動をとろうとする意欲・態度を養う。ことを趣旨としています。

 日程は、平成24年7月24日~26日(2泊3日)で実施され、対象は、小学4~6年生および中学生でした。

 

 1日目に「なぞの生き物観察」を行っていますが、「ウミホタル」という生き物をご存じでしょうか。海に棲んでいる小さな生物で、カニやエビ、ミジンコといった生物の仲間で、多胎長3mm程度で米粒のような形をしているそうです。

 名前にホタルとあるように、ウミホタルが分泌した物質が海中で反応することによって青い光を発するという仕組みだそうです。

 成果として、参加者から「地球に住んでいるのは自分だけじゃない事を自覚しよう」「身近な環境や生き物についてさらに知り、それをみんなに伝えていきたい」という声があり、「海」を大切にしたいという気持ちを持つ事ができたようです。

 今後に向けては、関係機関との連携を一層進めていきたいとのことでした。 

 

水辺活動事例(3)

 3つ目は、学校教育と集団宿泊活動の事例で、若狭湾青少年自然の家で京都市の小学校が実施した「海の家長期宿泊学習」です。小学5年生を対象に4泊5日で実施されました。

 学校の指導のねらいとして、 

 (1)責任:自分の仕事と行動に責任をもつ事ができる

 (2)協力:活動をより良いものとするために、共に支え合いながら力一杯できる

 (3)友情:絆の深まりを大切にし、仲間と共に頑張ろうという意欲をもち事ができる

をあげていました。

  活動内容は、1日目に組み立て式いかだ(小集団活動)。2日目にスノーケリング、グラスボート、カヌー、ストーンペインティング、若狭塗り箸(小集団活動)。3日目にカッター(全体活動)。4日目にキャンプファイア(全体活動)。5日目にカッター退所(全体活動)です。

 

 学校に戻って、先生から子供たちに、「宿泊学習の5日目がゴールであり、スタートである。」と伝えています。

 11月に学習発表会があり、海の活動の学びが生かされ、成功したそうです。

 先生は、学習発表会の自信を学校生活の中の次のステップに生かすことを考えたそうです。最後に「そうやって学校の中で子供たちは成長していくのだと思います。」と先生が述べられていました。

 

 非日常の5日間の集団宿泊活動を終え、日常の学校生活の中で、5日間の体験が生かされている事例を是非参考にして欲しいと思います。

 

フロアーからの質問

 フロアーから「水辺活動と山の活動では、どちらが効果がありますか?」という質問がありました。

 その場では、「水辺活動と山の活動の効果を比べることはしていません。」と答えましたが、個人的には、「何をするか」よりも「何のためにするか」が大切だと思っています。

 例えば、国語と算数のどちらが子供たちに効果があるかと問われても比べることができないと思います。

 活動自体は、子供たちに働きかける道具(手段)でしかありません。活動の目的(意図)に応じて、活動を選んだり、アレンジすることが大切だと思っています。

 体験活動を推進している当機構としては、水辺活動であれ山の活動であれ、子供たちにとって体験活動が増え、その体験が、日常生活で活かされることが大事だと考えています。 

松村 純子(まつむら じゅんこ)

独立行政法人国立青少年教育振興機構 教育事業部 企画課長
元小学校の教師です。勤務地の異動に伴いしばらくお休みをしておりましたが、2年半ぶりの再登場です。「青少年の体験活動の重要性」を発信したいと思います。




ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop