2014.06.10
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子どもの登山活動を安全に実施するために ~体験活動安全管理研修 山編~

独立行政法人国立青少年教育振興機構 教育事業部 企画課長 松村 純子

 

 6月2日~4日の2泊3日、「体験活動安全管理研修~山編~」のために、富山県にある国立立山青少年自然の家に行って来ました。

 この研修は、体験活動における指導者の安全管理意識及び指導・技術の向上を図ることを目的に国立青少年教育振興機構が実施しました。

 指導者の中でも初心者を対象に登山活動における安全管理の基礎を学びましたが、講師の先生方は、国立登山研修所の渡邉所長をはじめ第一線で活躍されている方々です。

 登山など野外活動で子どもを引率する国公立青少年教育施設職員及び民間団体等の指導者を対象にした事業なので、学校の先生方の参加はありませんでしたが、これから夏の移動教室や林間学校等集団宿泊行事の中で、登山活動を実施される際に参考になるだろうと思う事をお伝えしたいと思います。

 

研修内容 

 1日目の「登山活動における安全管理の基礎Ⅰ」では、国立登山研修所の渡邉所長から、最近の登山事情や登山指導者の法的責任などの講義を受けました。指導者として危険を予見する力の必要性を強調されていました。

 「登山活動における安全管理の基礎Ⅱ」では、気象予報士の上田講師から「山の天気の基礎」や「天気予報の活用」について講義を受けました。その後、天気図を使って翌日、明後日の山の天気を予想したり、読図の基礎について学びました。

   

 2日目には、実習として大辻山(1361m)に登りました。行きで2時間半、帰りは2時間の行程で実習しました。実際に登山活動を通して、指導上の留意点や安全管理上必要な読図等を理解しました。

 

 3日目には、富山県警察山岳警備隊の方から、「事故事例から学ぶ安全管理」の講義を受けました。登山の事故事例をもとに、事故防止の観点について学びました。

 その後、3日間のまとめとして、3人の講師の方々に質問形式で意見交換を行いました。

 それでは、登山活動のリスクマネジメントについて、紹介します。

 

指導者として、知っておきたい登山前の4つの点検

(1)身体の準備

 登山の前は、体調を整え良好なコンディションで望みましょう。当たり前ですが、体調不良は、怪我・事故のもとです。

 集団宿泊学習などでは、子ども達が興奮して夜遅くまで起きていて寝不足にならないように早めに就寝する事が大切です。

 

(2)実地踏査・読図力

 子ども達を引率して登山活動を行う場合は、実地踏査は必要不可欠です。どこから登ってどこに下りるか、どこで休むか、歩いて頂上まで何時間かかるか等を実地踏査しながら、地図に書き入れていくとよいでしょう。

 読図力をつけると登山道がどんな傾斜か、どの程度の滝があるのか等だいたいの地形をつかむことができます。

 今回の研修でも参加者の方達が苦手としていたのは、読図でした。ちょっと難しいと思い敬遠しがちですが、読図力がつけば登山のスキルも上がります。

 

(3)絶対に忘れてはならない3つの装備

 一つ目は、雨具です。身体を雨や風から守り、防寒具にもなります。

 二つ目は、登山地図とコンパス(磁石)です。登山地図は、現在位置の確認と目的地を把握するために必要です。

 三つ目は、軽量のヘッドランプです。これは、万が一日が暮れてしまっても行動できるためです。

 この3つの装備は、暖かな天気の良い日の登山なら使わないですむものですが、いざという時にないと困る装備です。

 指導者として、しっかり準備をしましょう。

 

(4)登山計画の作成・提出

 登山計画とは、目標の山・日程・コース・装備・食料・メンバー等々が書かれているものです。計画書一枚が一つのシュミレーションとして完成しているので、計画がしっかりしていれば、非常事態の予防・回避に役立つことになります。

 登山計画書の提出が必要かどうかは、ぜひ宿泊施設や地元の警察等で確認してください。 

 

指導者として、知っておきたい登山中の9つの危険

(1)道迷い

 子ども達の道迷いを防ぐには、「自分勝手な行動をさせない」「走らせない」「人員点呼をマメに行う」事だそうです。

「心配していることは必ず起こる」と話されていましたが、学校生活で気になる児童・生徒がいれば、登山活動では特に細心の注意を払い、危機管理に努めましょう。

(2)転倒、転落・滑落

 最近の登山事情として中高年の登山者が増加しています。転倒も子ども達より中高年の方が多い傾向にあるようです。

 しかし、「事故は下山でおきる。」と言われていましたが、登山活動は、油断大敵です。登りだけでなく下山にも指導者は目配りが必要です。

(3)疲労(熱中症・低体温症)

 熱中症は、夏の高温多湿環境下で長時間行動すると起こりやすい症状です。水分補給を怠ると体温調節が利かなくなり意識を失う事があります。子ども達が登山活動中に熱中症にかからないために、指導者は子ども達に水分の強制吸水をさせる必要があります。「飲みましょう」と声をかけるだけでなく、子ども達が確実に飲んだ事を指導者は、確認しなければなりません。

(4)落石

(5)落雷

(6)雪崩・崩落 

(7)鉄砲水

(8)凍傷

(9)危険な野生生物(スズメバチ・ウルシ類)

 スズメバチは、蜂の巣の側を通らせないようにする事が一番ですが、黒色を襲うので、襲われないためには帽子をかぶる事も一つの方法です。また蜂は棒に向かってくるので子ども達に蜂を見つけても棒などで追い払わないように注意しておくことも大切です。

 ウルシが肌につくとかぶれますから、事前に子ども達にウルシの写真を見せてどの木がウルシか理解させておく必要があります。

 

小中学校の登山の効用・課題

 「登山研修」vol.27に担当教員が感じる小中学校の登山の効用と課題がまとめられています。

 担当教員が感じる登山の効用のベスト5は、達成感を味わうことができる。自然の美しさや雄大さを感じることができる。自然と触れ合うことができる。粘り強く取り組む心が育つ。互いに助け合う体験ができる。

 反対にあまり効用を感じていない項目は、地図の見方を学習することができる。問題解決能力を養うことができる。教科の学習内容を実体験に結び付けることができる。

 

 担当教員が感じる登山の課題のベスト5は、計画が天気に左右される。安全面の確保が難しい。万が一の災害時に対応を取ることが難しい。自然の中での安全な行動について、子ども自身の知識やスキルに不安がある。引率教員が不足しており、全体に十分目を配れない。

 反対にあまり課題と感じていない項目は、保護者の理解を得ることが難しい。不審者による児童・生徒への危害が心配である。用具や服装の準備が難しい。

 

 先生方の感じている登山の効用と課題は、何でしょうか。効用のベスト5、課題のベスト5と共通の項目がありましたでしょうか。

  

 私は、「危険を伴う体験活動は、子ども達が無事に家に帰ることが重要」と考えています。そのためには、体験活動の指導者は、安全についての意識を高め、危険予測ができるスキルを高めるために自己研鑽を積む必要があると思います。

 これから、夏山シーズンに入ります。この夏休み子ども達が事故無く、沢山の体験をして欲しいと願っています。

松村 純子(まつむら じゅんこ)

独立行政法人国立青少年教育振興機構 教育事業部 企画課長
元小学校の教師です。勤務地の異動に伴いしばらくお休みをしておりましたが、2年半ぶりの再登場です。「青少年の体験活動の重要性」を発信したいと思います。




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