2014.03.13
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キャリア教育は生徒を幸せにするのか!?

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

1、教育の目的は生徒を幸せにすること
 

「教育の目的は生徒を幸せにすることである。」
私はこのように思いますが、みなさんはどのようにお考えでしょうか?

人格の完成を目指す、学力をつける、生きる力をはぐくむ、、、
教育の目的をあげていけばきりがありません。
立場によっても教育に期待することに多少の違いがあるのかもしれません。

ただ教員も保護者も、生徒・子どもたちと直接関わってる人の思いは
「生徒・子どもの幸せ」ではないでしょうか。
実際、生徒たちが自立して幸せな人生をすごしてくれる
ことこそが教師として何よりの喜びです。
こんなことを考えると「教育の目的は生徒を幸せにすることである。」
と言ってもいいだろうと思います。
 

2、幸せとは?幸せな人とは? 

では「幸せな人ってどんな人でしょうか?」
そもそも「幸せって何でしょうか?」。
 

このように聞かれたらどう答えますか?
教育の目的は幸せだといいながら、実は幸せの定義はずいぶんあいまいです。

生徒に対する熱い思いや生徒の幸せを教育の目標とするところまでは
共通でも、「幸せ」イメージのずれが教育の実践に影響を与える時もあります。

 

たとえば高校でキャリア教育を推進しようとすると、
「そんなことをする時間があれば受験に向けて演習するべき」という
声がでるということはよく聞きます。この議論の根本には、
「受験に成功し、少しでも偏差値の高い大学に入ることが生徒の幸せにつながる」

「限られた時間なのだから、少しでも多く演習などをすることが学力向上につながる」

という思いと、
「キャリア教育などを通してつける力こそが生徒が幸せに生きるためには必要」
「キャリア教育を通して学ぶ意味をつかませることが、学力向上につながる」
という思いのずれがあるのではないでしょうか。
(限られた時間の中でどっちを優先するかの判断の違いといったほうが正確でしょうか)

ともあれ、教育実践の中身を考えるときに「幸せな人ってどんな人?」「幸せって何?」

という問いについても真剣に考えないといけません。
キャリア教育の推進についても、「キャリア教育は生徒を幸せにするのか」
という視点で判断することが大事でしょう。
 

3、幸福学が明らかにしたこと

慶應義塾大学教授・前野隆司先生のグループは
「幸せとは?」というテーマに真正面から取り組みました。
先行研究なども参考に、幸せをはかるアンケートを作成し、
インターネットで10代から70代の1500名を調査しました。
(男女均等、世代ごとの人数もほぼ同じ、回答者が全国ちらばるようにしての調査)

その結果幸せな人、人生の満足度が高い人の特徴が明らかになりました。
みなさんは幸せな人はどんな人だと思いますか?
お金を持っている人?学歴が高い人?社会人基礎力の高い人?
友達が多い人?いい会社に勤めている人?

 

前野先生らの研究によると幸せかどうかを決める要素は4つでした。

もっとも幸せな(幸せと感じている)20%の人は4つとも高く、

最も不幸な(不幸と感じている)10%の人は4つとも低いのです。

 

4つの要素とは次の通りです。
以下は「幸せのメカニズム」からの引用ですので、
詳しく知りたい方は本を読んでください
 

(1)「やってみよう!」

 

・私は社会の要請にこたえている
・私は有能である
・私のこれまでの人生は変化、学習、成長に満ちていた
・今の自分は本当になりたかった自分


(2)「ありがとう!」
 

・人の喜ぶ顔がみたい
・私のことを大切に思ってくれている人がいる
・私は人生において感謝することがたくさんある
・私は他者に親切にし、手助けしたいと思う


(3)「なんとかなる!」
 

・私はものごとが思い通りにいくと思う
・私は失敗や不安をあまりひきずらない
・私は他者との近しい関係を維持できる
・自分は人生で多くのことを達成してきた


(4)「あなたらしく!」
 

・私は自分のすることと他人のすることをあまり比較しない
・私にできることやできないことは外部の制約のせいではない
・自分自身についての信念はあまり変化しない
・テレビを見る時はあまり頻繁にチャンネルを切りかえない

 

先ほど書いたようにもっとも幸せな20%の人は4つとも高く、
最も不幸な10%の人は4つとも低いのですが、

2番目に幸せな17%の人は(1)(2)が高くて(3)(4)が低く、

真ん中の45%の人はどれも平均的、
2番目に不幸な7%の人は(3)(4)が高くて(1)(2)が低くなっています。

なお研究では利己的な欠乏欲求(自分のために○○がほしい)を
求める人ほど人生満足度は低いということも明らかになっています。

 

みなさんはこの結果を見てどうお感じでしょうか?
自分は幸せな人だと思いますか?
「幸せのメカニズム」の中では、上の4つの要素について
自分はどうなのかがわかる簡易テストも掲載されています。
興味ある方はぜひお読みください。
 

(1)(2)高ければ幸せであることは研究結果からわかります。
では生徒が(1)(2)のように感じて生活できるようになるために、
どんなことができると思われますか?

私はこの研究結果を見て、キャリア教育の授業こそが生徒を幸せにする授業
だという思いを強くしました。

私がこう思った理由を書きたいところですが、すでにかなり書いてきました。
次回、最終回で「キャリア教育の授業こそが生徒を幸せにする」
ということについて詳しく書きたいと思います。

3月は学校では一年の締めくくり。あわただしい毎日ですが、
1年間のキャリア教育授業はいい形で終えることができました。
この勢いで最後のHRもいい形で終えて、次の学年につなぎたいと思います。

次回は新年度最初の4月1日公開予定です。お読みいただければ幸いです。

 

(参考文献)
「幸せのメカニズム」前野隆司著、講談社現代新書2013年 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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