2014.02.05
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

キャリア教育はぜいたくなものかもしれない

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

 

1、キャリア教育はぜいたく? 

   私事になりますが、2012年の夏にJICA教師海外研修で
サモアに行かせていただきました。
   今回はサモアでの体験から、キャリア教育を少し違った側面で考えたいと思います。 

   そもそもキャリア教育とは何でしょうか。
   2011年に発行された「高等学校、キャリア教育の手引き」には、
「キャリア教育は,子ども・若者がキャリアを形成していくために必要な能力や態度の育成
を目標とする教育的働きかけである。そして,キャリアの形成にとって重要なのは,
自らの力で生き方を選択していくことができるよう必要な能力や態度を身に付けることにある」
と書かれています。
 
  「自らの力で生き方を選択していくことができる」これは大事なことです。
また多くの生徒は働くことを通して社会に関わっていきます。
学校だけで生活していると、教師以外の「働く大人」に出会う機会が少なく、
職業をイメージすることが難しいという現状があるのも事実です。
そんなこともあって職場体験やインターンシップなどの体験学習、職業インタビュー、
講演会、、、学校はキャリア教育という名のもと、様々な方法で
「どんな職業につきたいか」「何のため働くのか」を生徒に考えさせます。

    たしかにこうしたことは重要でしょう。 でも一方で、
「何のために働くのか」「どんな職業につくのか」を考えることはすごくぜいたくなこと
だとも思います。何がぜいたくかわかるでしょうか。
このことを伝えるためにサモアでの経験を書きたいと思います。
 
 

2、サモアの子どもたちが希望する職業 
 

 
    サモアを訪問したとき、サモアの子どもたち(日本でいう中学生)に
「どんな仕事に就きたいのか」、「それはなぜか」を聞きました。
結果はどうだったと思いますか?                  
   答えとして出てきた職業はかなり限られていました。
集計すると1位が学校の先生、2位が医者でした。

続けて聞いた「なぜその仕事につきたいのか」は驚くべき結果でした。
サモアの子どもたちが医者や教師になりたい理由は何だと思いますか。

なんとほぼ全員の子どもたちが「家族を助けたい」と書いていたのです。

まだまだ産業が少ないサモアにおいて、医者や教師は数少ない
現金収入を得ることができる職業なのです。 また村社会で伝統的な生活様式を
かなり残しているサモアですが、近年急速に貨幣経済が入ってきています。
つまり生活に現金が必要になってきているのです。
子どもたちの答えはこうしたことのあらわれでもあったのでしょう。
いずれにしてもサモアの子どもたちは家族のためにも現金を稼がないといけないのに、
実際にそれが可能な職業は数少ないのです。
アンケートの答えに出てきた職業が限られていたことがその証です。
だからサモアの子どもたちは、日本の子どもたちと同じように
「どの職業につこう」と考えることはできません。
 
職業を選べることがいかにぜいたくなことなのか、
アンケート結果からこのことを突きつけられた気がします。同時に
「日本の子どもたちは職業を選べるということをどう思っているのだろう」とふと思いました。
 

3、職業を選べるありがたさ 
 


  「就職活動は嫌だ」「働きたくない」「自分が何をしたいかわからない」
  このように言う学生がいると聞きます。
   「将来を考えないといけない」「働かないといけない」。
 こんなふうに考える高校生がいるのも事実です。

    確かに仕事の選択しがありすぎて選ぶのが難しいのかもしれません。
また就職活動の過程では「内定をもらえない」という失敗を経験します。
失敗が怖いという思いもどこかにあるのかもしれません。
そしていろんな意味で大人になることにはしんどさや難しさがついてくることは事実です。 

   でもそもそも職業を選べるということがどんなに幸せなことなのか、
このことは忘れてはいけないと思います。
   日本もほんの150年ほど前までは生まれた家で将来の職業は決まっていました。
どんなに農業をしたいと思っても、武士の家に生まれたらそれはかなわない夢だったのです。
今の時代に生まれたから、自分の意思で自らの将来を決定していけるのです。

   こんなふうに考えると、職業や自分の将来を考えるきっかけを与える「キャリア教育」は
すごくぜいたくなものだなあと思います。
   しかし生徒たちは(もちろん私たち大人も)、自分の将来について考える時に、
どれだけ「考えられる」ということに感謝しているでしょうか。

  もしかしたら「キャリア教育」で大事なことは、
「キャリア教育」というぜいたくなものがある社会への感謝の気持ちを持つこと
なのかもしれないとさえ思います。

  「キャリア教育」が必要な社会は、昔の人がどんなに強く希望しても実現しなかった社会。
そんな社会で生かされいるということへの感謝は忘れてはいけないと思います。
 生徒たちには”進路や就職先を決めないといけない(MUST)”ではなく、
”進路や就職先を決めれる(CAN)”という意識で、
今に感謝してキャリア形成をしてほしいし、自分もそうありたいと思います。

 みなさんはどうお考えでしょうか?
 今回はサモアのきれいな海、青い空を思い出しながら書きました。

 次回は2つの夢の追いかけ方について書きたいと思います。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop