2013.12.12
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学校におけるキャリアカウンセリング(1)~進路面談で大切なこと~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

1、学校におけるキャリアカウンセリング ~3つのポイント+1~
 

 11月は進路選択をする時期でした。
本校は高校2年生から文科コースと理科コースにわかれます。
生徒にとっては文系か理系を決めるという比較的大きな決断になります。

 高校1年生ではこの時期にクラスの生徒全員との進路面談を実施しました。
自分自身キャリアカウンセラー(CDA)の資格取得後初の、
”担任としての進路面談”ということで気合いが入っていました。

 進路面談は担任をすれば誰でも行いますが、
「生徒個人と関って支援できる場面」という点で大変重要です。
文科省はキャリア教育におけるキャリアカウンセリングの重要性を指摘していますが、
進路面談はまさにキャリアカウンセリングの場面です。

 私は学校におけるキャリアカウンセリングのポイントは3つだと考えています。
 それは以下の通りです。


<学校におけるキャリアカウンセリング・3つのポイント>
1、生徒の話をじっくり聞く
  (自分への気づき、思い込みの修正、世界を広げる)
2、思いを行動にうつす支援をする
3、自分で決めたという実感を持たせる

 この3つに加えて、教師として生徒と面談をするならば、
教師の特殊性についても知る必要があるでしょう。
 今回から3つのポイント+1について書きたいと思います。

 

2、教師という特殊性~面談の前に大切なこと~

 かつての私は「なりたい職業を考え、そこから行く学部を考え、
学部によって文系か理系かも決まる」と考えていたように思います。

 そんなこともあって、面談でまず生徒に聞くのは「何になりたい?」でした。
「なりたい職業はまだわかりません」と返ってきたら、
「職業を考えるのは大事だから考えていこう。
ところで学部はどれがいい?どんな学部に興味がある?」
と聞いていたように思います。

おそらく生徒からの「この学部でたらどんな仕事につけますか」という問いや
「プロ選手になりたい」など実現の可能性が低いだろう答えは軽く受け流しながら、、、


   今振り返ると生徒に申しわけない面談だったように思いますが、
同時に今でもこういう面談はけっこうあるのではないだろうかとも思います。

   教師という仕事は、学んできた学問が仕事に直結する数少ない職業です。
学部・専攻によって取得できる教員免許が異なるという点でも特殊な業界でしょう。
看護士や医者、薬剤師なども同様に特殊な業界と言えるでしょうが、

  私たち教師がまず認識しないといけないのは、
「学んできた学問が仕事に直結するということはけっしてメジャーではない」
ということです。おそらくかつての私はこの認識が弱かったため、
はじめに書いたような指導をしてしまったのだろうと今振り返って思います。

  大多数の生徒は企業に就職します。教師になる場合、大学の学部や専門は
自分の将来に大きな影響を与えます。
  たとえば数学の教師になりたいと思うなら「教育学部の数学科か理学部」
という選択がほとんでしょうし、そうすべきでしょう。

 
  しかし企業はそうではありません。たとえば「TOYOTAに就職するには○○学部」
というような学部は当然ありません。(もっとも理系の研究・開発の世界では
大学(大学院)の専攻が就職先を決める場合も多いでしょうが。)
  大学は学問を学ぶところで、学ぶことを通して身につく専門性は自分の武器となります。
どのような素養を身につけたいか、どのようなものの考え方を身につけたいか、
こうしたことは学部を選ぶ重要な理由になるのです(なりたい職業が未定でもよい)。

 

3、キャリアカウンセリングのポイント1~話を聞くということ~

(1)話すことで自分の興味や価値観に気づく

 生徒との面談でまず大切なことは生徒の話を聞くこと、
生徒がたくさん話す中で自分で興味や大切にしたいことに気づくことです
(教師がたくさん話すのではない!)。


  たとえば中学生との面談で「将来どんな仕事につきたい?」と聞くと
「サッカーが好きだからプロのサッカー選手」
という答えが返ってくることは少なくありません。

  この答えに対してみなさんならこのあとどう面談を続けられますか?

プロのサッカー選手になれる生徒は少ないですし、
「サッカー頑張れ。でも厳しい世界だよ」という言葉かけでしょうか。
続けて「サッカーがダメになったときも考えて、勉強も頑張ろう」でしょうか。

  こういう面談だと、生徒が”面談を終えて今まで意識しなかった自分に気づく”
ということはほとんどありません。
せっかく面談をしてそれではもったないと思います。


   こうなってしまう原因は生徒になりたい職業のみを聞くところにあります。
私なら「どうしてそう思うようになった?」「サッカーのどこが好き?」と聞くでしょうか。

  つまり「サッカーが好きでプロになりたい」という生徒の好みをもう少し掘り下げて聞きます。
「かっこいいから」といえば、「どんなところがかっこいいと思う?」
「プロ選手のどこにあこがれる?」「サッカーのどこがいい?」などと続けるでしょう。

  こうして話を続けると、たとえばある生徒は
「みんなで一つの目標に向かって進むのが好き」と言います。
この生徒はおそらく”人と一緒にチームとして何かに向かって頑張るのが好き”なので、
たとえば演劇での監督のような仕事をすれば力を発揮でき、
新たな自分の可能性に気づくかもしれません。

  別の生徒は「日々発売される新しいスパイクの機能」に興味を持つかもしれません。
この生徒は演劇での道具作りのような仕事に力を発揮するかもしれません。
学部でいえば工学部などに興味を持つかもしれません。


   大切なことは生徒が「何かが好き」という自分の気持ちを深く考え、
そこから自分の好み・興味や大切にしたいことに気づき、
今まで意識しなかった自分に気づくことです。
(それが次の行動に結びつけばよりすばらしいでしょう)
私たち教師は、面談を通じて生徒がこうした気づきができるよう
サポートすることが大切だと思います。

   人は自分のことを話しているうちにいろいろなことに気がついていきます。
読者の皆さんもそういう経験はあるでしょう。これは大人も子どもも一緒です。
教師はついつい自分が多く話してしまいがちですが、生徒が多く話をするよう
意識することは面談の場で大切なことです。


   ここまで書いてきてかなりの量になってしまいました。
実は”話を聞く”ということには、もっといろいろな意味があります。
それは次回のお楽しみということで、今回はここまでにします。


   最後に最近学級日誌に書いてあったことを紹介します。

”最近、進路イベントや文理選択で、大学のことや将来のことを
かなり考えるようになりました。
学部説明で経済学部の話を聞いて、「めっちゃ行きたい」と思いました。
次の日に経営学部の話を聞いて、「めっちゃ行きたい」と思いました。
ここで、「自分はどっちに行きたい?」「どっちも興味がある」、
「じゃあ最終的にどうやって決める??」など考えたりしています。”

次の日に別の生徒は
「私も将来についてよく考えるようになりました」と書いていました。

次年度の科目登録という機会を利用して、自分の将来について
考えてくれたら、それは指導の何よりの成果かなあと思っています。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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