中学3学年所属なので、修学旅行に引率するわけです。
サマースクール以来、久々の宿泊行事です。
しかも今回は生徒60名。
行程は、4泊5日で黒部・白川郷・名古屋・奈良・京都、という
移動の多い旅です。
* * *
問題は4日目の班別行動、生徒10名にくっついて巡る古都・京都です。
始まりは一週間ほど前、
『世界遺産めぐり』と題して、生徒と一緒にスケジュールを立てるところから。
昼夕の食事を含む、丸半日のアドヴェンチャーです。
この間、班員10名が一緒に動かねばなりません。
自分の庭を動き回ったり、部活の仲間と移動したりするのとはわけが違います。
見知らぬ地で、バスや地下鉄を乗り継がねばならないし
日本の伝統文化に浸る一方、お土産を買う時間も確保しなければなりません。
班員たちがバスの時刻表とにらめっこしたり
地図を確認したりとする中、
観光雑誌をめくりながら、抹茶パフェと連呼する男子生徒A。
わたし「そんなに食べたいなら、行こうよ。地図で場所を確認して」
生徒A「えっ本当に食べに行くの?」
わたし「行きたいと思うなら、実現させようよ。どのあたりの店なら行けるかを調べよう」
せっかくの班別行動ですもの。
望むことは全部してみたいのです。
そのためには頭を使わないと。
生徒A「あー、そう言って調べさせといて、先生が食べたいんでしょ!」
などと冗談を言いつつも
実現可能性を探りながら、一緒になって地図の上でペンを走らせるうちに
祇園のお店が都合いいことがわかりました。
夕食は、生徒Bがガイドマップで見つけたラーメン屋に決定。
ということで、生徒が立てたスケジュールは以下のようになりました。
8:00 ホテル発
二条城
北野天満宮
金閣寺(昼食)
銀閣寺
清水寺(土産)
祇園(抹茶パフェ)
二条城付近(夕食)
20:00 ホテル着
* * *
しかし当日、生徒たちの旅の疲れは高まっており
金閣寺に到着するころには
ダラダラ歩きに加え
一人ひとりが好き勝手な行動をみせ始めました。
関心は仏像ではなく土産品。
ワークシートに書き込むより友達とおしゃべり……。
もちろんそういう年頃ではありますが。
「せっかくだから、この旅ならではの印象を残したい」
と思った私は
密かに計画を練りました。
わたし「時間を少し早めよう。連れて行きたいところがあるんだ」
生徒ら「えー、どこ? 何があるとこ?」
わたし「見たらきっと“えっ”と思うよ。ちょっと怖いかもしれない」
怖いと聞いて好奇心をそそられた生徒は
一変して協力的に動きだし、
清水寺付近で素早く土産を買うと
バス停に走り、16時29分には入場料を払うという
見事な滑り込みセーフをみせてくれました。
目的地は三十三間堂。
千一体の仏像に、生徒Aは思わず「おおー!」と叫びました。
このときの衝撃が、大人になっても彼らの中に残っていると嬉しいものです。
* * *
御堂をあとにした一行は、夕暮れの祇園へ。
ここで私は、お茶屋さんが経営する喫茶店を調べていたので
生徒たちをそこに連れて行きました。
途中、まさに古都・京都というイメージの小道を見つけ、
舞妓さんを求めて少し散歩しました。
たどり着いた喫茶店では、思い思いのパフェを頼み、
香り高い甘味に旅の疲れを忘れました。
予定では、そこからバスで二条城付近へ行くことになっていましたが
ふと、あの有名な鴨川が近くにあることを思いだした私。
歩き通しで足はパンパンですが……
わたし「みんな、今きた道を戻ってバスに乗るのと
鴨川を歩いて地下鉄に乗るのと、どっちがいい?」
生徒C「どのくらい歩くの?」
わたし「んー、結構……(地図を見せて)ここから、ここまでだよ」
生徒D「いいねえ! 歩こう!」
半分くらいは鼻を鳴らすかと思いきや
パフェに満足した生徒たちは、全会一致、二つ返事でGOサイン。
* * *
時間いっぱいまで動き回って、体は疲れていたはずです。
でも、生徒たちはいつもの
『疲れた』『だるい』『面倒』発言をしなくなっていました。
ホテルに到着する直前、
「みんなのお陰で、私も楽しかったよ。ありがとう」
と伝えたときにこぼれた10個の笑顔は
どんな助言よりもストレートに
私を導いている気がします。

四ツ分 祥子(よつわけ しょうこ)
駿台学園 英語科常勤講師
塾講師5年、私立高校にて非常勤講師2年を経験。2011年度から新天地で常勤講師として勤務。
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