2010.12.06
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65年ぶりに見た写真から「捕虜観」を考える 前編

学校法人山陽学園 山陽女子中学・高等学校広報室長 野村 泰介

このエッセイで何度も書いていますが、私たちは一昨年前より「カウラ事件」について調べています。カウラ事件とは、1944年8月に、オーストラリア、カウラの戦争捕虜収容所で起こった大規模な日本人捕虜脱走事件です。この事件により、230人以上の日本人が亡くなりました。

このカウラ事件の体験者、Tさんとの交流が3年目を迎えました。私たちの活動詳細や、Tさんとの出会いなどは2008年11月に寄稿したものをご参照ください。(http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,10534,21,131,html?year=2008

さて、Tさんとはじめてお会いした3年前から10回以上聞き取りを行っていますが、あるエピソードを何度かお話されました。Tさん、オーストラリアから日本へ帰国する際、ブリスベンの港から船に乗ろうとしたその瞬間、現地の新聞記者に呼び止められたそうです。記者はTさんに対し、「笑え、笑え!」と叫び、笑顔を求めます。「元日本人捕虜、祖国へ帰る」といった主旨の記事を書くらしく、喜んで帰国の途へつく日本人の姿を写真に撮りたかったようでした。

しかし、当時のTさんの心境は複雑でした。「あってはならない捕虜」になり、戦友の多くは脱走事件により死んだというのに、自分は祖国に帰る。しかもハンセン病を患う身。国に帰っても家族と会うことはできない・・・。そのような状況の中でなかなか笑うことができなかったそうです。それでも執拗に笑顔を求める記者。仕方なく、無理やり笑顔を作って写真を撮られたそうです。

このエピソードを何度か聞きましたが、そのとき撮られた写真をTさんは見たことはありません。オーストラリアの新聞に掲載された写真なので、日本で暮らすTさんの目に触れないのは当然です。

ところが、ひょんなことから、先日、この写真を発見しました。知り合いのマスコミの方から、1枚の写真を見せられます。「これ、Tさんじゃないですか?」見た瞬間、私は思わず「あ!」と声をあげてしまいました。私がたびたびTさんから聞いていたエピソードのシチュエーションにぴったり合う写真なのです。

どこにあったのか尋ねると、キャンベラの戦争記念館のウェブページのアーカイブズにあったとのこと。早速、そのページを確認すると、確かにありました。キャプションには「ハンセン病を患った日本人捕虜が帰国する」といったことが書かれており、間違いなくTさんです。

早速、Tさんにこの写真を見せることにしました。きっと喜んでくれるだろうという期待を込めて。 

つづく。

野村 泰介(のむら たいすけ)

学校法人山陽学園 山陽女子中学・高等学校広報室長
今年創立125年の女子校の広報を担当しています。岡山市内唯一の女子校として、その特色をアピールできればと思います。

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