2010.09.03
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ボランティアセミナー

北海道真駒内養護学校 教諭 遊佐 理

先日、ある大学でボランティアセミナーを開催しました。
札幌市にある肢体不自由の特別支援学校5校が連携して運営に当たりました。
今回は車いすの操作に焦点を当て、校舎内、校舎外の段差や芝生、スロープや階段、大学の前の横断歩道など、様々なところを移動しながら車いすを押すときに気をつけることや、車いすに乗っている人の気持ちについて伝えていきました。

参加者の学生は以前に車いすの操作を経験している人から初めて車いすに触れるひとまで様々で、それぞれ気づいたことなどを話し合いながら楽しそうに車いすの体験をしていました。

そんな中、学生たちが車いすを押しているのを見ていて、あることに気づきました。

学生たちは、車いすに乗っている人と車いすを押している人とで話をしながら進んでいくのですが、そのとき、車いすに乗っている人が後ろを向いて話をしていました。

車いすに乗っている人と押している人が顔を見合わせて話をするということは当たり前のように感じるかもしれませんが、肢体不自由の特別支援学校ではあまり見ることがありません。
というのも、学生たちはとても元気なので、体を上手に支えながら後ろを向けるのですが、肢体不自由を持っている児童生徒の多くが、体を支えることにも困難を抱えていることが多く、体の向きを変えて後ろを向くということが難しくなってしまうのです。

僕は、子どもたちが乗っている車いすを押しているときに、そのまま後ろから話しかけることがほとんどです。
それが普通だと思っていたので、あまり気にもとめていませんでしたが、今回、学生たちが後ろを向いて話をしているのを見て、今までの自分の意識について改めて考えてみました。

他の場面で後ろ向きの人に話しかける場面を考えてみると、車の運転をしてる場面が思いあたりますが、その時でもバックミラーなどを駆使して相手の表情を見ようとしています。もし、運転中でも相手の表情が見えなかったときには、相手がどのようなことを考えているのか不安に感じることがあります。

以前、教育つれづれ日誌の中で「手をつなぐこと」というタイトルで、車いすに乗っている子どもと手をつなぐことの大切さについて書いたことがあります。
今回の顔を見合わせることも、手をつなぐことと同じように、子どもの気持ちを感じ取ることにおいてとても大切なことであると思います。それと同時に、車いすに乗っている子どもたちにとっても、教師の顔が見えることで得られる安心感もあるのかもしれないな、ということに気づきました。
今後は、話しかけるときには、できるだけ車いすを止め、自分が前に行って子供と向かい合って話をしようと思います。



特別支援教育コーディネーターという仕事をしていて強く感じることは、今までの教育に対する考え方を生かしながらちょっと視点を変えていくことの大切さをどう伝えるといいのか、ということについてです。
そのためには、分かりやすく、シンプルに、相手に伝わる手段を選んで伝えることが大切です。
たとえば、肢体不自由を持つ子供たちの見えづらさを伝えるのに、ただ「肢体不自由児は視覚認知に困難さがある」と黒板に書くよりも、紙に書いた文字を前後左右に振りながら読むのと、首を前後左右に振りながら読むときとの見え方の違いについて感じてもらいながら説明することで、数倍伝わりやすいのではないかと思っています。

そして、相手に伝える前に、まずは僕自身が視点を変える経験を多く積むことが大切だとも思います。そのことで、僕の伝えたいことに重みが加わっています。
たとえば、紙に書いた文字を振って読むという実験は、僕がかつて参加した研修会で経験し、その時は目から鱗が落ちる音がしました。

今回、ボランティアセミナーで感じたことは、僕にとっては新しい視点からの気づきとなり、学生だけではなく、僕にとっても充実した研修会となりました。

ボランティアセミナーの開催に当たり、ご協力いただいた大学関係者の方々や札幌市内の肢体不自由特別支援学校の先生方、そして参加いただいた学生の皆さんに心から感謝いたします。

本当にありがとうございました。

遊佐 理(ゆさ おさむ)

北海道真駒内養護学校 教諭
特別支援教育コーディネーターになって3年目。特別支援教育のプロフェッショナルとして、笑顔で人と人とをつなぐことを目指して頑張っています。

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