2010.08.20
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第5回肢体不自由教育専門性向上セミナー

北海道真駒内養護学校 教諭 遊佐 理

7月29日・30日に北海道拓北養護学校を会場に第5回北海道肢体不自由教育専門性向上セミナーが開催されました。
今年度も300人を超える参加者を迎えました。昨年度に引き続き、肢体不自由の専門性向上に対する関心の高さが持続していることがうかがえました。
僕は、今年度も事務局員として運営に携わり、分科会の記録、名簿の作成などのお手伝いをさせていただきました。

今年度は新たに川間健之介先生(筑波大学人間総合科学研究科生涯発達科学専攻 教授)をお迎えし、「特別支援学校の質的向上を目指した授業作り」をテーマとした講演や、授業分析のスーパーバイザーなどをお願いいたしました。

川間先生は、認知発達の支援、見ることへの援助、姿勢の援助などのことに触れながら、授業力を向上させる大切さと、授業力を向上させる視点をお話ししていただきました。

川間先生のお話はどの話もとても興味深く、新しい視点からのお話が多くありました。
僕はやたらとノートにメモをとる性格なのですが、今回は気づいたらノートのメモが10ページにわたっていました。



肢体不自由を持つ児童生徒は自分で思うように体を動かすことが難しく、手を使って物事を操作しながら認知の基礎をそだてる経験が少なかったり、体を動かしながら自分の体のイメージを作る経験が少なかったりするため、感覚の使用、特に視覚認知の部分において困難を抱えている場合が多くあります。

川間先生は、肢体不自由を持つ児童生徒への指導に関して、その子の発達段階に応じたものの提示の仕方を考える必要があるということで、淑徳大学の宇佐川浩先生の発達臨床モデルを提示しながら説明していただきました。

また、「教材」「教師の働きかけ」「姿勢の安定」の3つがそろって初めていい授業になるということで、特に姿勢の安定に関して、車いすのポジショニングや教師が支えて座らせる方法の改善のポイントについて、事例を示しながらとてもわかりやすく説明していただきました。



今回、川間先生の講演を聴きながら今までの僕の指導、特に姿勢の支援について振り返っていました。

自分が以前に担任した児童で、自分で体を支えることが難しい児童がいました。その子はいつもちょっと斜め上を向く姿勢で学習していましたが、すぐに緊張してからだが突っ張ってしまうことが多くあり、なかなか手を動かすことができないでいました。
当時の僕は、どうにかしたいと思っていながらも、具体的にどうすればいいのかわからず、斜め上を向いた姿勢で画用紙の位置を変えたり、手の支え方を変えたりしながら悪戦苦闘していました。
そんな中、他の先生たちとその児童の指導について話をしているときに「ベルトやクッションで体を支える工夫をしながら前傾姿勢をとってみてはどうか」というアドバイスをいただきました。
そこで、クッションや机を用意して前傾姿勢を試してみると、今まで自分でクレヨンを持って線を引けなかったその子がちょっとだけ手を動かして線を引くようになりました。
1ヶ月ぐらいその姿勢で絵を描くことを続けているうちに線を引く力が強くなってたくさん線を引くようになりました。
はじめは10分程度でお絵描きに飽きていたのに、最後の方は30分ぐらい集中して絵を描くようになり、とても感動したことを覚えています。
今も、そのときの写真が残っていますが、その子の集中した表情がとても印象的です。

川間先生が話されていた事例や僕の経験などから、姿勢の支援の大切さを改めて思い出した、とてもいい機会となりました。

もし、読者の方で肢体不自由児の教育に携わっている方がいらっしゃいましたら、是非子供たちの姿勢について改めて振り返っていただくことをおすすめします。
ただし、僕が書いた事例はあくまで例ですので、すべての子に前傾姿勢が必要だとは言い切れません。どんな姿勢がいいかについては、姿勢の支援に詳しい先生方や専門家の方に相談されるとよいと思います。

最後に、川間先生は全体講評の中で「極論ではなく、2つの論の調和を保つことが大切である」ということを教えてくださいました。
今回、僕が書いた姿勢の支援についても、姿勢の安定が目的ではなく、何のためにその姿勢が必要なのかを考え、他の活動とのバランスを保ちながら支援していくことが大切です。
たとえば、前傾姿勢でお絵描きをした後には横になってリラックス時間を設けたり、食事の場面では食べやすい姿勢を考えたり、移動するときには安定して姿勢を保っていられるような姿勢にしたり、その子の生活をトータルで考えていくことが必要だと思っています。



川間先生の講演以外にも、摂食指導やコミュニケーションなどのエキスパートの方々による分科会やVTRを見ながらの授業分析など、とてもためになる内容ばかりでした。
それらのことについては、またどこかでお伝えできれば、と思います。



今回、肢体不自由教育専門性向上セミナーで学んだことをもとに、さらに学習していきたいという意欲がわいてきました。
まずは、講演の中でも紹介されていた、宇佐川先生の発達臨床モデルについてもう一度勉強しようと思っています。

第5回肢体不自由教育専門性向上セミナーで様々なことを分かりやすく教えていただいた講師の方々をはじめ、運営に携わった先生方、そして参加者の方々に心から感謝いたします。

本当にありがとうございました。

遊佐 理(ゆさ おさむ)

北海道真駒内養護学校 教諭
特別支援教育コーディネーターになって3年目。特別支援教育のプロフェッショナルとして、笑顔で人と人とをつなぐことを目指して頑張っています。

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