2010.06.25
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シャープペンシル

北海道真駒内養護学校 教諭 遊佐 理

僕は、いつも特定のシャープペンシルを使っていて、基本的にはそれ以外は使いません。
そのシャープペンシルは、20年ぐらい前に近所の文房具屋さんで見つけ、それ以来、書き味がとても気に入っています。
よく物をなくしやすい僕なので、20年間に同じシャープペンシルを15本以上購入しています。
最近は、あまり人気があるタイプではないようなので、店で見かけることもなくなり、ここ3年ぐらいは近所の文房具店で取り寄せてもらいます。もし、生産が中止になったら……と思うとちょっと心配で少し多めに持っています。

ここまで、そのシャープペンシルに入れ込むには僕なりの訳があります。

僕のシャープペンシルの持ち方は普通の持ち方よりも先に近いほうを持つのでなるべく角がなく、ある程度の重さがあったほうがきれいな字を書けるといった僕の好みもあるのですが、それ以外にも理由があります。

実は、僕は他のシャープペンシルで書くときに感じる細かな振動が苦手です。ボールペンやサインペンでは感じず、シャープペンシルで書くときだけに感じる振動です。しかも、なぜか分かりませんがお気に入りのシャープペンシルではその振動をほとんど感じません。
この話をしても、他の人から「そうだよね」と言われた試しがないので、他の人はあまり感じていないようですが、僕としては、黒板をつめで引っかくような感触があり、できれば避けたい感触です。

それと似たような感触で、つめが伸びた状態でパソコンのキーボードを使う感触があります。この感触があると、とたんにキーボードを打つことをストレスに感じ、スピードが落ちてしまいます。と、ここまで書いてきて、つめが気になってつめを切りました。今はとても快調に打ち込んでいます。




今回、こんなことをなぜ書いたのか、というと、人にはなかなか分かってもらえない特別装備の感覚がある、ということを伝えたかったからです。

ただし、この特別装備の感覚が困ったことになるかどうかは、周りがそれを気にするかしないかにか懸かっているような気がします。

たとえば、お気に入りのシャープペンシルがなくてもボールペンを使えばどうにかなりますし、誰も、指定のシャープペンシルで書けなければおかしいとも言いません。
また、僕がつめが伸びているとイヤだとつめを切っていても、「きれい好きなんですね」と言われるだけで、それ以上のことも言われません。

一方、学校指定のシャープペンシルを使わなければならない、という世の中だったら、僕は、いつも赤点だらけだったでしょうし、つめが3ミリだけ伸ばすことが常識の世の中だったら、僕はかなりのストレスの中で生きていかなければなりません。

実際、発達障害と呼ばれる子どもたちの中には、そんな感覚と戦いながら生きている子どもがいます。
たとえば、チョークで黒板を書く音がとても苦手な子ども、人から触られることがとても苦手な子ども、シャワーが頭にかかることをとても苦手としている子ども、糊や粘土などの感触をとても苦手としている子ども、急な予定変更が苦手な子ども、ある絵を見ると恐怖を感じてしまう子ども、等々。
実際、僕みたいに困ったこだわりになっていない子どもを含めれば、世の中のさまざまな感覚を苦手としている子どもは結構多いような気がします。

できれば、何か配慮することで看過できるようになるこだわりであれば、配慮して看過してほしいなと思います。
たとえば、チョークで黒板に書く音が苦手であれば席を後ろへ移したり、耳栓などを使ったりすることでかなりその子の負担を減らすことになります。

一方で、中には配慮のしようがなく、看過できないこだわりもあるかもしれません。
そんなときには、「そうか。この振動が苦手だから、シャープペンシルを使いたくなかったんだ。今までつらかったね。」と言ってもらうだけでも、だいぶ気持ちが安らぐと思います。

たとえ、看過できないこだわりであったとしても、そのこだわりには理由があるということを意識し、その子が抱える苦労に思いを馳せることはできると思います。




今回の記事が、「どうしてこの子はこんなことにこだわっているんだろう?」「何かつらい思いをしているのではないか?」と考えるきっかけになることを祈っています。

遊佐 理(ゆさ おさむ)

北海道真駒内養護学校 教諭
特別支援教育コーディネーターになって3年目。特別支援教育のプロフェッショナルとして、笑顔で人と人とをつなぐことを目指して頑張っています。

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