2010.01.22
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よわいにいさんと地域学習

北海道真駒内養護学校 教諭 遊佐 理

学生のころ、僕は、ボランティアとして障害を持った方といっしょに機織りをしたり散歩したりしていました。
4年生のときは、あまり授業がなかったので、週に1回から2回程度ボランティアをしていました。

当時、ある利用者からこう呼ばれていました。

「よわいにいさん」

いっしょにボランティアをしていた方が屈強な方で、「つよいにいさん」と呼ばれていました。その対比としての「よわいにいさん」なのですが、僕の外見にとどまらず、内面も良くあらわした言葉だな、と変に感心した記憶があります。
もちろん、他のスタッフやボランティアにもそのネーミングは好評でした。あまりにも好評だったので、うれしいようなそうでもないような、複雑な思いを抱えていました。

当時の僕は、体が頑丈な人や、自分の芯をしっかり持った人を見るにつけ、そうではない自分に落胆し、無理して虚勢を張るようなこともありました。
ちょうど、前回紹介したねずみくんのような感じです。

就職して、肩書きが「学生」から「教員」に変わってもよわいにいさんのままだった僕は、弱い自分に落胆し、強くなれない自分を責めることが多かったように思います。

そんな中、あるドラマのある台詞が心に留まりました。
強くなりたいという教師役の登場人物に対して、弁護士役の役者がこう話していました。
「人間は弱いままでいいんですよ、いつまでも…。
弱いものが手を取り合い、生きていく社会こそが素晴らしい。」

強くなることでほとんどのことを解決できると思っていた当時の僕は、「そんなこともあるんだな」と思い、いい台詞だなと思っていました。

それから約10年後。

地域学習で養護学校の子どもたちの同行をしていると、積極的に手伝ってもらえます。
普段はやんちゃの子どもほど、とても優しいことが多く、「大丈夫だからな」とずっと声をかけてくれたり、ドッジボールでは体を張って守ってくれたりします。
その一方、その子達が陰で下唇を噛みしめていたり、とても明るく振舞っているのに僕にだけ聞こえるように「どうせオレなんか…」とつぶやいたり…。
僕が見つけたのは氷山の一角に過ぎず、実際はほとんどの子どもたちが自分の中にさまざまな弱さを抱えて生きているのかもしれない、と思いました。

そんな時、さっきのあの台詞が頭をよぎりました。

「人間は弱いままでいいんですよ、いつまでも…。
弱いものが手を取り合い、生きていく社会こそが素晴らしい。」

僕たちは、地域学習をする際、勝手に普通学校の子達を「支援する人」、特別支援学校の子達を「支援される人」と考えがちです。実際そういう場面も多くあります。
しかし、地域学習を続けていくうちに、それだけではないような気がしてきました。
実は、お互い「支えあう人」なのかもしれない、そう思うようになりました。

そう思うようになってから、交流および共同学習に関する研究報告など、いろいろな資料を読み返してみると、
「人と人とが出会って、ともに活動する時、どちらかが一方的に支援し、一方的に支援されるということはありえません。」
「誰かを助けてあげる方法を知ることではなく、ともに活動し、お互いを分かり合うこと、つまり相互理解こそが、交流および共同学習のめざすものです。」
といった記述を見つけました。

現在、本校の地域学習においても、徐々にではありますが、地域学習を通してお互いの心が育ってきた事例や、いっしょに活動するためにさまざまな議論を交わした事例などが出てきました。

将来そのような事例がたくさん出てきて、地域学習のふれあいを通してお互いの子どもたちが「弱い自分でもいいんだ」と思えるように頑張っていきたいと思います。

そのために、われわれは何ができるのでしょうか…。
僕自身、明確な答えを持っているわけではないのですが、われわれ大人が自分自身を理解して認め、それから子どもたち一人ひとりの個性を理解して認める姿勢を学んでいくことが大切ではないかと、そう感じています。


現在の僕は、「よわいにいさん」から「よわいおじさん」に進化はしましたが、自分の中の弱さはそのままです。
しかし、僕はそのままでもいいかな、と思っています。

僕の周りには、困ったときに支えてくれる家族や先生方などがたくさんいます。

僕は、強い自分ではなく、弱くてもみんなに支えてもらえる自分を誇りに思えるようになりたいと思っています。

そして、子どもたちにも周りから支えてもらえる自分を誇りに思って欲しいと、そう願っています。

遊佐 理(ゆさ おさむ)

北海道真駒内養護学校 教諭
特別支援教育コーディネーターになって3年目。特別支援教育のプロフェッショナルとして、笑顔で人と人とをつなぐことを目指して頑張っています。

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