2009.10.16
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コラボレーション

北海道真駒内養護学校 教諭 遊佐 理

今回は以前担任していたときの話をしたいと思います。

5年ほど前、畑でサツマイモを栽培しました。僕自身、初めてサツマイモを栽培するので、収穫できるかどうか心配でした。
そんな時、当時の校長先生がその様子を見て「もし収穫できたら、何か作ってあげるよ」と言っていただきました。当時の校長先生はベテラン主婦でもあったので、何を作ってもらおうか子どもたちと期待を膨らませながら水をあげていました。

それから、約5ヵ月後、量は少ないですが、立派なサツマイモが収穫できました。子どもたちと相談した結果、「スイートポテトにしよう」ということになりました。
早速あの約束を、と思い、校長先生にお願いに行こうとしましたが、当時、校長先生は超多忙で、お願いしづらい雰囲気がありました。
当時(今も)、勇気がない僕は、教え子についてきてもらい、一緒にお願いする(というか、その子にお願いしてもらう)という作戦に打って出ました。

すると、校長先生は案外あっさりと「そんな約束してたかしら…。でも約束は果たさないとね。」と快諾していただきました。
これで作ってもらえると安心した次の瞬間「私が作るだけじゃ面白くないから、一緒に作りましょう。それでは、略案よろしくね。」という言葉が。
あれ?と思いましたが、何か楽しいことが起きそうな予感がしたので、「はい」と返事しました。

その後、校長室へ相談に行った際、校長先生は「子どもの活動をしっかり考えよう」ということで一緒に考えてくださりました。スイートポテトの生地(タネ?)をカップに盛り付けるところで絞り袋を使い、握ったり押したりするだけで盛り付けられるように工夫することにしました。その他は、「校長先生のお料理教室」というスタイルで、進行をお願いしました。

授業前日、校長室へ略案を持参し、これで準備万端と思いきや、「明日、私が登場するときに、『今日の料理』のテーマソングを演奏して」という言葉が。その後すぐに音楽室へ行き、他の先生方が怪訝そうな顔をして通り過ぎる中、木琴と向き合い、練習を重ねました。

そうして迎えた当日、授業開始の40分前に教頭先生から「もう校長先生が家庭科室で待っているよ」と聞き、あわてて家庭科室へ。開始時間をもう一度確認し、40分後、授業が始まりました。

校長先生を迎えるときに、昨日練習したあの曲を演奏しましたが、最初の1小節でつまずきました。
あんなに練習したのに…とがっかりしつつも、演奏を続けると、今まで聞いたことがないような子どもたちの歓声が聞こえてきました。もともと、僕が失敗するのを見るのが好きな子たちで、またしても遊佐が間違ったということと、おなじみのあの曲が流れたということは…という期待と、ふたつのツボに見事にはまったようです。

校長先生が登場してからは、主婦のかがみのような手際のよさでどんどん授業が進んでいきました。絞り袋を使った盛り付けもうまくいきました。
時間が余ると校長先生の「遊佐先生、音楽!」という一声があり、その都度、僕が例の曲を何度も演奏しました。さすがに、僕も何度も演奏するうちに上達しましたが、「もう聞き飽きたよ」ということも重なり、子どもたちのリアクションはとても小さくなりました……。

完成したスイートポテトはとてもおいしかったらしく(僕は食べていないので、あくまでも想像ですが)、子どもたちの印象にも残る授業だったようです。その証拠にある児童は、それから「いも」の絵ばかり描いていました。

この授業では、教材研究と授業進行の両輪がうまくかみ合い、それが子どもたちの印象に深く残る授業となっていったのだと思います。
そのために大事だったのは、「僕と校長先生がしっかり役割を分担したこと」「事前に簡潔に打合せをしたこと」ではないかと思います。
僕は担任として、「それぞれの児童の実態把握」、「児童の興味を惹きやすい題材の設定」、「今までの様子をふまえたうえでの活動内容の工夫」という面で力を発揮し、校長先生は「授業進行における豊富な知識と経験」「主婦としての手際のいい料理技術」を生かし、この授業を作っていったと思っています。
また、校長先生はお忙しい方なので、ある程度こちらで案を考えつつ、校長先生と打ち合わせたことを柔軟に取り入れるようにしていきました。そのことも授業の成功に一役買っていると思います。

近年、「コラボレーション」という言葉を良く耳にします。それぞれ違ったスキルを持った人たちがひとつのテーマに沿って力を出し合うことで感動的で素晴らしい作品などが出来上がります。この授業もある意味コラボレーションといえるのではないかと思っています。もちろん、教師同士だけではなく、教師と子供、子供同士のコラボレーションもありますが、それらについてはまた別の機会に話したいと思います。

今回、この授業の話をしようと思ったのは、「ただ単に、授業の補助として教員が教室にいるだけではなく、お互いの力を生かして計画段階から共に授業を作っていくことがチーム・ティーチングの要ではないか」ということをお伝えしたかったからです。
授業を作る段階からお互いの意見を交わすことで、役割が明確になり、その結果、1+1=2ではなく、1+1>2のような相乗効果が期待できます。

もちろん、チーム・ティーチングに関しては、MT・STの役割分担、STの人数と配置など、様々な要因があり、時間のやりくりがとても大変な昨今の学校事情なども考えると、事前の打合せをすれば必ずいい授業になると言い切れないところがあります。しかし、それを踏まえた上で、普段の授業を振り返る際の参考としていただければ、と思い、今回書かせていただきました。

「たくさんの素敵なコラボレーションであふれる教室」って素敵だな、と思う今日この頃です。

遊佐 理(ゆさ おさむ)

北海道真駒内養護学校 教諭
特別支援教育コーディネーターになって3年目。特別支援教育のプロフェッショナルとして、笑顔で人と人とをつなぐことを目指して頑張っています。

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