2009.09.01
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防災訓練と食環境

東京都 栄養教諭 宮鍋 和子

 9月1日、この日に防災訓練や保護者の引き取り訓練をおこなう学校も多いのではないでしょうか。
災害時の備えとして、訓練を行うことは大切です。では、日常の生活の中で本来培われてきた「備え」の力は“防災訓練”だけで取り戻すことはできるのでしょうか?

 実りの秋。今年は日照不足のため作物の収穫に影響が出ないか心配されています。流通機関が発達していなかった時代、自分たちが口にする物をいかに確保するのかを考えることは、とても重要なことでした。畑でいつ何を育てたら、効率よく、より多くの食べものを収穫できるのか?収穫した物をどうしたら長く保存ができるのか?知恵を巡らせ、自然を敬い、常に生きるための備えを怠らないように務めていました。

では、現在はどうでしょう?農家の方々が一生懸命育ててくださる野菜を、漁師さんが命がけで取ってきてくださる魚を、私たちはいともたやすく手に入れることができるようになりました。好きなときに好きな物を購入し、通販やインターネットショップを利用すれば、一歩も家を出ることなく生活が可能となっています。お正月だからと食料を蓄えておく必要もなく、お弁当の材料を買い忘れれば、「何か買ってね」の一言で済んでしまいます。
 スーパーが7時には閉まってしまった時代、買い物をするためには、今日の仕事をどのように段取りをしたらよいのか知恵を巡らせ、明日の朝やお弁当に何をつくろうかと考えながら買い物をしました。明日は、買い物が間に合いそうになければ、夕飯の分も買わなくてはいけない。とにかく、先を読んで行動することが習慣づいていたように思います。
24時間営業のお店が増えたことは、忙しさを解消してくれ、ゆとりのある生活を提供してはくれましたが、その分、先を読んで行動する機会をグッと減らしました。
お正月のおせち料理の際にもふれましたが、年末年始の1週間、商店がことごとく閉まってしまうことに対し、私たちは色々な備えをしました。その不自由さを体験することから、流通や販売、その奥にある生産者の生活や自然の恵みを感じ取ってきました。
体験学習が大切といいながら、私たちは生活の根本の部分で、「便利さ」や「効率」を優先し、子どもたちから「食べるためにどうしたらよいのか?」を考える場を奪っています。
「食べる」ということは「生きる」ということです。
防災訓練は“生き抜く”ための学習の場でもあります。では、“生きる”とはなにか。
食べものが無くなる。水が手に入らなくなる。好きなことができなくなる。我慢しなくてはいけないことが増える。子どもたちはそんな状態を想像できているのでしょうか。その上で、訓練に臨んでいるのでしょうか。
普段の生活の中でも様々なことに「備える」力を養っておいた方がよいと思うのですが・・・

宮鍋 和子(みやなべ かずこ)

東京都 栄養教諭
定時制高校、聾学校(高・専)、中学校と勤務し、2007年春より小学校に勤務することになりました。学校給食を通して、子どもたちと一緒に、成長できたらと思います。

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