2008.12.17
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萩の塚物語(後編)

学校法人山陽学園 山陽女子中学・高等学校広報室長 野村 泰介

前回の続きです。萩の塚早朝茶会のことを知った私たちは実際にその会に参加してみることにしました。

11月のある土曜日。朝5時。集合場所に続々と「萩の塚衆」が集まってきました。この日の参加者は私たちのグループ5名含めて10名。懐中電灯の明かりを頼りに真っ暗の中登山が始まりました。

30分ほど歩くと、萩の塚古墳に到着しました。萩の塚衆の面々は手馴れた様子で石室の前に敷物をしいて、ろうそくに火をともし、お茶会の準備を始めました。

「山の上で飲む抹茶に作法はいらん。自由に飲んだらエエ。」

こう言って萩の塚衆は私たちに抹茶をすすめます。ここではお茶を飲みながら、政治、経済、芸術、健康法、昔話、色々なことを自由に語り合います。真っ暗な中、古墳の前でろうそくの灯火の下で行われるこのような風景はなんともいえず不思議な様相です。

太平洋戦争中、このような話があったそうです。早朝茶会の雑談の中で「今度の戦争は日本は負ける!」という話題になりました。しかし萩の塚衆には色々な立場の人がいます。その中に特高警察の人がいました。当時、特高にそのような話をきかれたらすぐに捕まってしまいます。ところが、その特高警察の人は「山の上での話は下では関係ない!」と言って黙認したそうです。

このように、世間とはひとつ距離をおいた空間を演出する萩の塚早朝茶会。日が昇り始めた頃に終了です。少しずつ明るくなる空をみながら下山です。

いっしょに登った生徒に感想を聞くと、
「最近、勉強とか部活とか、あと友達関係とか、毎日毎日が本当に忙しいんだけど、山に登って暗い中、みなさんとお茶を飲んでるとき、そんな日常の忙しさを一瞬、忘れることができた・・・こういうのが心の洗濯なのかな?」
とのこと。心の洗濯・・・いい言葉ですね。

家本為一がはじめて以来、70年間途切れることなく続く「萩の塚」早朝茶会。世間一般からみると「なんであんなことしてるの?」と変わった目で見られることもあるそうです。しかし、私たちは実際に体験することにより、日ごろ感じることのできないすがすがしさを心に刻み込みこむことができました。

「なぜ萩の塚に登るのか?」何十年も毎朝登り続けているご老人をはじめ、萩の塚衆の方々は明確な言葉を持っていません。しかし、心の洗濯を求める人々がいる限り、これからもこの早朝茶会は脈々と受け継がれていくことでしょう。

野村 泰介(のむら たいすけ)

学校法人山陽学園 山陽女子中学・高等学校広報室長
今年創立125年の女子校の広報を担当しています。岡山市内唯一の女子校として、その特色をアピールできればと思います。

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