2024.05.22
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

多様性について考える  ギフテッド児に学ぶ

前回は、学校現場で「児童の多様性を尊重」するための具体的な取組について、シカゴの学校訪問や、カリフォルニア州のある学区の仮想学校の授業体験から書いてきました。
今回は、ギフテッド児とのエピソードをお話します。
私が担任したKさんは、特異な才能(ギフテッド)と学習困難を併せ持つ2E(Twice-Exceptional)でした。特定の分野では大人と同等の知識や考えをもっていて、当該学年の授業レベルでは物足りず、「退屈な先生」とつぶやいたことがありました。初めはショックでしたが、困っているのはKさんの方でした。
字を書くことを嫌がったり、癇癪(かんしゃく)を起こしたりする度に、Kさんに合った工夫や配慮はどうすればよいかを考えました。
当たり前だと思っていることが、実は当たり前じゃない。Kさんとのやりとりによって、私自身、これまでとは異なる視点から物事を柔軟に捉えるようになりました。

鹿児島市立小山田小学校 教頭 山口 小百合

ギフテッドとは

「令和の日本型学校教育」が示されて、ギフテッドという言葉を耳にすることが増えました。
TV番組では、天才児として音楽や数学、絵画など多様な分野で、ずば抜けた才能をもつ小学生が取り上げられています。
ギフテッド(gifted)は、統一的な定義や判断基準はないようで、一般に高い知能や特定の分野で優れた才能をもつ人と言われます。 
ギフテッド児は通常の子どもより知的能力が高く、理解が迅速で、学術的、創造的に顕著な才能を発揮します(全てのギフテッド児にずば抜けた面がみられるわけではなく、その子によってそれぞれの特性があるようです)。
ギフテッド児は突出した姿ばかりに目が向けられがちですが、過敏さや社会的適応の難しさから、日常の中で社会とのズレが生じ、生きづらさを抱えていることも多いようです。
たとえば、私が実際に会った子どもたちは、次のような困りごとを抱えていました。

○ 周りの人が興味・関心をもっている話題と合わない。
(考えていることが並外れているために、相互理解できないつらさ)

○ 教師が一斉授業で全員に同じことを求めるが、枠を飛び抜けたアイディアをもっている。
(型どおりを強要される苛立ち、煙たがられることもある)

○ 叱られているのは他の子どもでも、自分のことのように深く傷つく。
(共感性の高さや繊細さ、正義感、公正公平への関心)

このような子どもたちに寄り添うためには、ギフテッドの特性の一つ「過興奮性」を理解する必要があると思います。
身体的または心理的な刺激(環境や状況)に対して、通常よりも強く反応することがあります。
たとえば、次のような特徴です。

○ 普通の音や光を非常にうるさく感じる
○ 強烈な知的好奇心をもつ、独創的なアイディアや創造的な思考を示す
○ 興奮しやすかったり、感情が激しく変わったりする
○ 感情的に敏感で、他の人の感情や状況を深く理解する、想像力が豊か
○ 多動性や焦燥感が強く、じっとしていられない

ギフテッド児は、過剰に反応し過ぎたり、感情をコントロールできなかったりして、周囲とのトラブルが起きてしまうことがあります。
学校や家庭では、個人の特性に合わせたサポートが必要です。

2EギフテッドのKさんとの学校生活

2Eギフテッドとは

WISCーIV検査というIQ(知能指数)を数値化する検査があります。
「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標と、総合的な知能FSIQ(全検査IQ)を測定して、その子の「得意な部分と苦手な部分」から、よりよい支援の手がかりを得ることを目的として行う検査です。
これらを総合したFSIQが130以上である場合は、ギフテッドです。

その中で、各指標の得点のばらつき(ディスクレパンシー)が大きく、発達に凹凸があると考えられる場合は、ギフテッドと発達障害の両方の側面をもつ2E(Twice-Exceptional)です。
障害の有無にかかわらず、ギフテッドは高度な認知力をもっています。
発達障害の一つである学習障害は、大きくは、読字障害(ディスレクシア)、書字表出障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュリア)があります。
私は、書字表出障害(ディスグラフィア)とADHDの特性をもつ2Eギフテッド児と出会いました。

想定を超えてくる子

現在、米国在住のKさんとの出会いは、3年前。
Kさんが小学2年生で日本に滞在している期間に、私が担任したご縁です。
Kさんの秀でた才能はすぐわかりました。
簡単に枠を超えてくるのです。
知的好奇心が高く、読書に没頭してどんどん知識を吸収していました。

「うん、知ってる」「わかってる」が口癖

そこで、自分で考えて、自分で進めたいKさんの気持ちを尊重することにしました。国語科と生活科、米国の学校のGenius Hourとを結び付けて、Kさんの興味関心に合わせて何を学ぶかを自分で選びました。

Kさんが喜んで取り組んだのは、次のようなテーマです。
〇ミニトマトについての研究
〇ナスの花のどの部分が可食部になるかを観察
〇「溶ける」実験から、溶ける物とそうでない物を判別
〇社会のルールについて

そばで見ていて、Kさんの学びがおもしろくてたまりませんでした。いつも私の想定外の世界を見せてくれるのです。
私はKさんが主体的に学ぶ過程で、国語的要素(文章構成、五感を使った観察記録文の書き方、新出漢字など)を見出して働きかけたり、気づきを価値づけたりしました。
当時の学校現場ではまだ理解されない部分が多かったので、固定概念に囚われない新しい学習観を学び始めていた私との出会いは、Kさんにとっても運命的だったかもしれません。

Kさんから学んだこと

でも、振り返ると反省があります。
新しい学びのスタイルを実現しながらも、「~ねばならない」から脱却できず、決まったカリキュラムを淡々とこなすことにもこだわってしまったのです。
また、Kさんは、文字を書くことをあまり好みません。明らかに乗り気でない時でも、褒めながら最後までやり遂げさせていました。
イライラして怒り出したり、反対に甘えてきたりと、Kさんの激しく変わる感情に戸惑いました。
一方では、鉛筆をタブレット端末にかえると、驚異的な学びを自ら展開することも認識していました。

Kさんはギフテッドかなと思いながら、私自身が具体的な関わり方の知識やスキルが不十分で、どうすればKさんにとって最適な学びができるのだろうと考え、もがいていたのです。
苦手なものはさせなくてよいのか?
他のものでゴールをクリアすればよいのか?

保護者からは「毅然とした態度で接してほしい」とのことでした。
Kさんの激しさと繊細さ 正義感や共感性の高さ 知的好奇心の強さ 独創性、創造性の豊かさ
今考えると、Kさんの優れた才能を活かす、もっとよい関わり方ができたのではないかと思うのです。
Kさんは、こびりついた常識を覆してくれます。当たり前だと思っていることが、実は当たり前じゃない。

Kさんによって観を大きく揺さぶられ、私自身これまでとは異なる視点から物事を柔軟に捉えるようになってきたと思います。
より効果的で多様な学習アプローチや興味ベースのカリキュラム、多様な評価方法など、新しい可能性を見出すことにつながる貴重な学びを得ました。

山口 小百合(やまぐち さゆり)

鹿児島市立小山田小学校 教頭


鹿児島県内公立小学校で、地域素材・人材を活かした体験的な授業づくりや複式学習、遠隔授業の実践を積んできました。 
鹿児島大学教育学部附属小学校では、家庭科を中心に全教科における思考方法・技能の育成をテーマに研究に取り組み、現在も続いています。
教職大学院では、学校運営や学級経営、教員研修、授業分析、ICT活用などについて学び、小規模校の教育の質の維持向上を考えています。
教頭になり、アメリカのバーチャル学校のリモート授業や地域と連携した特色ある教育活動を楽しみながら、情報化推進などで奮闘しています。
女性のからだのこと、子育てしながらの悩みなど、失敗談も含めて飾らずにつれづれを語っていけたらと思います。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop