2024.01.12
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うまくできないからこそ

すぐにうまくできることの中よりも、すぐにはうまくできないことの中に、大切なことがあると信じます。

子どもにとっても。大人にとっても。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

どうも、今村です。
今回は、私の勤める東京学芸大学附属大泉小学校の令和5年度の研究発表のご案内です。
詳しくは、以下のリンクをご覧ください。

令和5年度 東京学芸大学附属大泉小学校 公開研究発表会

オンライン開催、参加費は無料です。
1月12日より、お申し込みいただいた方に提案動画が公開されました。ぜひお申し込みいただければ幸いです!

正式な?ことは学校のホームページをご覧いただくとして、ここでは研究主任という内側で研究を見てきたスタッフの一人の肉声で、今回の研究発表をご案内させてください。

国際バカロレア(IB)の小学校課程(Primary Years Programme 頭文字をとってPYP)の認定を受けている小学校って、全国に10校(インターナショナルスクールなどは除きます)しかありません。その10校の中で、毎年のように研究発表をして、その具体をお示ししている学校というのは、本校くらいなのではないかと思います。

全国に、小学校って2万校くらいあるわけですけど、PYP校はたったの10校ですからね。ほとんどの先生たちからすれば「え、PYPって何?」という状況なのではないかと思います。
当然そういう状況ですから、教科の授業方法を提案する研究会とは違います。パッとわかりやすい「明日すぐ生かせること」なんてないかもしれない。
「いったいこれはなんだ?」という疑問が先立つものかもしれない。
でもそのうえで、私は本校の研究会を皆様にご案内したいと思います。

ガイネンテキリカイ?

私たちが今年度の研究発表でキーワードとして掲げた言葉は「概念的理解」です。PYPでは、この「概念的理解」を子どもたちが自分でつくり出していく過程を大切にしています。

…ガイネンテキリカイ?

数年前の自分の声が聞こえてきます(笑)

スポーツに喩えていうと、例えば私はサッカーが好きなのですが、PKってあるじゃないですか。PKがうまいキッカーって、何ができる人か。
速いシュートが打てること?でも、速いシュートも止められてしまうシーンを、私たちは何度も見てきました。
PKがうまいキッカーは、キーパーの動きや心理を読み切って、その逆を突きます。だから、コロコロとしたゆっくりしたシュートでも決まるんですね。
ここで「PKのキッカーとして相手の逆を突くことが大切」という理解が生まれました。
これは、サッカーのPKという状況の中で生まれた「事実的理解」です。
これはまだ「概念的理解」ではありません。そこから一歩進みます。
「相手の逆を突くことが大切」ということは、他の状況にも当てはまらないだろうか?
例えば、バレーボールでアタッカーとブロッカーの駆け引き。相互に、相手の意図を読み合います。ブロッカーは相手の意図を読んで、それに自分の動きを連動させて強烈なスパイクでもブロックします。
また、野球のバッターとバッテリーの間でも、相互に相手の意図を読み合っていますね。
こうなってくると、特定の状況においての「事実的理解」は、多くのスポーツに共通して大切だと思われる「概念的理解」になっていきます。この場合は「相手の意図を読み取ろうとすることが大切」ということになるでしょうか。
さらに一歩進めると、私とあなたが話していたときに、互いの口ぶりや些細な仕草から、相手の気持ちを読み取ろうとし、よりよいコミュニケーションを作ろうと(あるいは早く切り上げようと)する。そこでも「相手の意図を読み取ろうとすることが大切」という理解が生かされることがあります。
「事実的理解」に留まっていては、その状況から外へ生かすことはできませんが、「概念的理解」を作り出すことができれば、時や状況を超えてそれを生かすことができます。それが、これからの世の中をしなやかに生きていくための力になるはずです。
「誰かになんとかしてもらう」を待っている人ではなく、「自分はきっとなんとかする」と自分で切り拓こうとする人になるために「概念的理解」が大切だと、私たちは考えます。
私たちは、子どもたちがこの「概念的理解」を自らつくり出していけるような学びをデザインしようと、日々試行錯誤しています。
その途中過程を、今回の研究発表では見ていただきたい。

研究は、人であり、心だ

一実践者として研究を進めるだけでなく、研究主任として大泉小のメンバーが研究する姿を見せていただき、言葉を交わすなかで強く感じることは「研究は、人であり、心だ」ということです。
先述した通り、私たちの研究には、わかりやすい正解なんてありません。もちろん、わかりやすい正解のある研究なんてどこにあるんだって話で、そう簡単にうまくできないから、愉しいわけですけれど。
正解めいたものに飛びつこうとする、すぐに役立ちそうなものに飛びつこうとする浮き足だった人も多いこの世の中で、「今村さん、こんなこと試してみたよ!」「こういう考え方はどうかな!?」「またわからなくなってきたよ!笑」という言葉を聴かせてくださる人たち、その心に、私は毎日感謝しています。

そして、やっぱり毎日全力でぶつかって来てくれて、研究を一緒に動かしてくれている子どもたちに、感謝しています。子どもたちの目の色が変わっていく様子に、不安の中で一歩進むための勇気をたくさんもらいました。

私たちの研究は、今すぐ流行るようなものじゃない。
でも、深く理解してくれる人もいると信じます。
「こういうことこそが、大事だよね」と言ってくれる仲間に、見つけてほしい。
「研究って、こういう姿勢でやりたい」と思ってくださる方と、研究したい。
多くの参加者をなんでもかんでも集めたいわけじゃない。
太く、強い「一人」に、来ていただきたい。
それが、あなたであったら、とても嬉しいです。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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