2016.09.09
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マイプロジェクトからつながる未来

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

みなさんは「マイプロジェクト」をご存知でしょうか?
次期学習指導要領実施の際の大きなポイントがここにある、
いやこれからの教育を考える重大なテーマがここにあると
言えばどのように感じられるでしょうか?
今回はこうしたことについて書きたいと思います。

これからの教育を考えるときのポイントは?

次期学習指導要領の一番のポイントは何だと思いますか?
英語の先生にとっては小学校での外国語教科化かもしれません、
社会科の先生にとっては地理歴史、公民などの科目再編でしょうか。
進学校と言われる高校の先生にとっては学習指導要領よりも
大学入試改革に注目しているのが正直なところかもしれません。

人によって受けとめは様々でしょうが、これからの教育を考えたときに、
実は今書いたような自分の専門分野のみを考えてしまうという
発想の打破こそが目指されているのかもしれないと感じる時があります。
教科の枠を超えた「資質・能力」(コンピテンシー)の育成が打ち出されています。
それは今後21世紀を生きる子どもたちに必要不可欠なことだからです。
中央教育審議会の教育課程企画特別部会がまとめた「論点整理」では、
「社会に開かれた教育課程」を目指し、各教科はもとより
総合的な学習の時間や特別活動、道徳教育においても
育成すべき資質・能力を明確に打ち出しています。
総合学習を「総合的な探究の時間」にするという案が中教審の
ワーキンググループから出ているのもこの流れからでしょう。
教科の枠を超えた「資質・能力」(コンピテンシー)の育成や
「社会に開かれた教育課程の実現」。
この問いに対する一つの答えとしてマイプロジェクトがある。
自分はこのように考えています。

まずはマイプロジェクトとは何かということから説明します。

マイプロジェクトとは?

マイプロジェクト(通称マイプロ)とは高校生による地域や社会のための
プロジェクト活動です。マイプロははさまざまな業界の方々による
「実行委員会」とNPOカタリバによる「運営事務局」が運営しています。
マイプロジェクトについて紹介するホームページには、
マイプロについて以下のように書かれています(要約)。

 自分の中にある“こうあってほしい”を、プロジェクトにしてみよう。
 それは目の前の課題に気づいた自分にしかつくれない「マイプロジェクト」。
 「他の誰かがやってくれるかもしれない」と投げ出すのはもったいない
 自分だけのプロジェクトが、きっとある。
 自分にできることが「今」ここにある。

今年の3月にマイプロを実行した全国の高校生が一同に会しプロジェクト活動
を発表する、「マイプロジェクトアワード」に参加しました。
いろいろな活動がありましたが、気になった問題を自分ごととして
プロジェクトに取り組んでいる高校生の姿が印象的でした。

東日本大震災の風化防止と情報発信を目的に活動し、40名規模のチームで
色々なイベントへ参加してのPR活動や自らイベント主催を行っている
「震災から学び、自分の町で出来ること(3.11つなぐっぺし)」。
地元の佐賀県で開発されたグレープフルーツ(さがんルビー)があまり
知られていないことを知り、誰でも気軽に飲めるサイダーを開発。
さらに廃棄される皮を利用してリップクリームの開発も行った
「伝えたか!私たちから出来ること!」。書き出せばきりがありません。
さまざまな活動がありました。

主体的な学習には3つの層がある

8月21日に河合塾(名古屋校)で実施された「授業力向上フォーラム」
(主催は産業能率大学)で、京都大学の溝上慎一先生は
「主体的と能動的の区別はついてますか?」との問いかけから、
主体には対象としての客体があることを説明されました。
主体的とは「行為者(主体)が対象(客体)にすすんで働きかけるさま」であり、
主体的な学習とは「行為者(主体)が課題(客体)にすすんで働きかけて
取り組まれる学習」のことです。
大事なことは主体的な学習には3つの層があるということです。
3つの層とは下層から順に
「課題依存型の主体的な学習(与えられた課題に興味関心を持って取り組む)」
「自己調整型の主体的学習(目標や学習方略、メタ認知を用いるなどして、
自身を方向づけたり調整したりして課題に取り組む)」
「自己物語型の主体的学習(中長期の目標達成、アイデンティティ形成、
ウェルビーイングを目指して課題に取り組む)」です。
主体的学習の対象が、「対課題」「対自己」「対人生」とでも
言えばわかりやすいでしょうか。

普段の1時間の授業では課題依存型の主体的学習に到達する
ことがやっとかもしれませんが、最終的に目指すべきところが3つ目の層、
つまり「自己物語型の(対人生の)主体的学習」であることは
誰しもが思うところでしょう。そして「社会に開かれた教育課程」、
「資質能力を育てる」ということの先には、自己物語型の主体的学習に
取り組む生徒を育てるということがあることもまちがいありません。

マイプロジェクトに取り組んだ生徒たちは、まさに自分ごととして、
自己物語型の主体的学習をしていました。多くの生徒がこの状態になれば、 
これからの未来も明るいでしょう。でもこれが難しいことは言うまでもありません。
またこれは単独の授業や教科の頑張りだけでは不可能です。だからこそ学校全体で、
単独の授業や教科をこえて、トータルで生徒を育てる、
生徒の資質・能力を育てるということを考えていくことが必要なのです。
これはまさにカリキュラムマネジメントというものでしょう。

今期の連載最後に~あなたのマイプロジェクトは?~

マイプロジェクトとは、自分の中にある“こうあってほしい”を、
プロジェクトにしてみようというものでした。
読者のみなさんのマイプロジェクトは何ですか?

マイプロジェクトアワードに参加して、高校生が取り組んだ様々な
プロジェクトの発表を聞きながら、徐々に自分のプロジェクトは何なのかを
問われているように感じてきました。
そしてそのとき自分にとってのマイプロジェクトはやはり教育だと実感しました。
マイプロジェクトに仕事として関われていることの幸せも少し感じました。

自分はごく普通の公立学校で育ち、つまらないと思いながら入試のためだけに
受験勉強をしてきました。だから今は入試というハードルに頼らずに
生徒を育てる教育を形にしたいと思っています。

入試というハードルに頼らずと書きましたが、入試が選抜である以上、
そのハードルは希望者が多くて初めて成り立ちます。大学全入時代、
さらに推薦など多様な入試が増えている中で、日本全体の何%の高校生が
いわゆる筆記試験型の大学入試を受け、入試というハードルを通して
成長しているのでしょうか。こう考えると、本校のような大学附属校に限らず、
もっと多くの学校で、入試というハードルに頼らずに生徒を育てる教育を
形にすることは重要なテーマであると言えます。

形にするためにやるべきこととして、カリキュラム開発はもちろん、
育てる仕組み・育てる場・評価の仕組み・成果検証・・・書き出せばきりがありません。
今年度本校では高校3年生のクラブ引退後という時期に注目し、
セカンドキャリアの充実に取り組んでいます。いや取り組もうとしている、
今年度はこの言葉を教員の中で共通言語にしようとしているというのが
正直なところかもしれません。しかし何事もはじめの一歩から。
マイプロに挑戦する生徒を少しでも増やしたいと思っています。

力強く生きていく生徒を育てる。高校も大学も社会も、
学校や立場をこえてこれは共通な思いのはずです。
少しでも形にしていきたいと思います。

マイプロのHPには
 「プロジェクトには未来がある。“こうあってほしい”という夢がある。
 人や社会を幸せにしてきたのは、いつだってプロジェクトだ」と書かれています。
 
教育という自分のマイプロジェクトにこれからも取り組んでいきたいと思います。

今期の連載最後に。

 あなたのマイプロジェクトは何ですか?
 もし教育という方は、ぜひ一緒に取り組みませんか?
 
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これで連載は終わりますというところですが、来期も執筆することになりそうです。
ありがとうございました。そして来期も引き続きよろしくお願いします。

関連リンク

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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