2003.02.18
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教育基本法改定に関する教員意識調査

2002年現在、改正作業が進められている「教育基本法」は、教育の機会均等などの理念を盛り込んで、1947年3月に制定されたもの。2001年11月に、遠山敦子文科相が中教審に諮問を行い、中教審により中間報告がまとめられた。そして、今春にも最終報告がまとめられる見通しとなっている。学びの場.comでは、この教育基本法の改正についてどう思うか、会員対象にメールによる依頼を発信。自由記述形式で回答を寄せていただき、教育基本法改正の動きについて、学校現場で奮闘する先生はどう感じているのか、率直な声をお聞きした。

【調査概要】

実施期間 2002年11月22日~2002年11月29日
調査対象 教職員(学びの場.com会員)
調査方法 メールによる依頼
有効回答数 67
調査主体 ・学びの場.com事務局
・月刊誌『教員養成セミナー』(時事通信社)

【総合的な評価】

今回のアンケートに寄せられた67件の回答を見てみると、半数以上の意見が、教育基本法の改正に対して異論を唱えており、賛同するというものを大きく上回った。改正反対の理由としてあげられた主な意見としては次のようなものがある。

  • 「愛国心という言葉に見られるとおり国家主義の復活である」(40代男性・高等学校)
  • 「もう少し現場の考えや意見を積極的に取り入れていく方向で考えて欲しい」(30代男性・小学校)
  • 「現在の教育基本法の理念は本当に素晴らしいことが書いてあり、基本的人権を尊重した素晴らしい法律だと思います」(40代男性・小学校)

以上のように、「愛国心の押しつけ」、「内容が実際の教育現場とかけ離れている」、「現行のもので充分なので変える必要が無い」などの理由を、記述した回答が多く見られた。特に、実際の教育現場と乖離していることに関しては不満を唱える意見が多く、「現場の教師の中にはそんな形式ではなく、それぞれ独自のすばらしい教育スタイルが存在している」(40代男性・高等学校)、「このままだとまた近い将来、また改定ということになるのではないか。そのたびに現場は混乱する」(30代女性・小学校)、「具体案にかけるところが多いので、有識者に限らず、現場教師の広い考えや意見が反映され現実に沿うような改正を望む」(30代男性・小学校)など、もっと実際の教育現場のことを考えて欲しいとの意見が多くあげられていた。

また、現行の教育基本法で充分とする意見の中には、「基本法の精神は十分に活かされず、学習の意味も探究する教育活動も、狭い領域での学力論争へと矮小化されてしまい、学習する意欲や深く考える道筋を作る学習がおろそかにされる傾向にあった」(40代男性・高等学校)、「全職員が職員研修で教育基本法そのものを読み直し、意見を自由に交換できるような雰囲気と場を各学校で作って欲しい」(50代男性・高等学校)など、どうして現行の教育基本法が、現場に反映されなかったか、そしてどうすれば反映されるようになるかについて述べられたものがあった。

そして、教育基本法の改正に反対という意見に合わせて多く上がってきたのが、文部科学省など行政に対する不満だった。

  • 「文科省→都道府県教育委員会→学校への管理強化の流れは、学校の教育課程編成自主権をいいながら、全く逆になっている」(30代男性・高等学校)
  • 「文科省は、教育の荒廃を防ぐため、国民全体の意識改革が必要と訴えているが、これまで現場の悩みに真剣に対応しなかった行政機関による論点のすり替えではないか」(40代男性・高等学校)
  • 「教育基本法が問題なのではなく、基本法の精神を実現できていない今の社会、政治の方向が問題」(50代男性・小学校)

など、上記のような意見をはじめとして、行政が示した改革の指針などに対する不満を表明したものは、全体の回答から見て1/3近くにものぼった。

また、教育基本法の改正に賛成という意見で多かったのが、時代が変化する中で、それに合わせて法律も変わるのも当然とするというもの。

  • 「新学習指導要領の下で教育が始まっている中で、時代に見合った教育についての考え方を見直す点では、この改正に賛同したい思いである」(20代男性・高等学校)
  • 「現在の状況として生徒の家庭環境や学校のおかれている環境が非常に変化しており、これからの教育に関しては、この変化を踏まえて改正する部分は改正することがよいと考えている」(40代男性・高等学校)

など、上記のような回答が返ってきたが、それと合わせて教育基本法の内容を改正した後に、どのように実行されていくかが大事なのではないかとする意見もあった。

また、改正に賛成だという意見の中で、「公共心」を大切にするという考えにはうなずけるというものも多く、「戦後、利己主義な人たちが増えたのは個性尊重の行き過ぎにも原因があると思う」(40代男性・小学校)などの意見をはじめとして、行き過ぎた個人主義を批判して公共性を取り戻したいという意見が見られた。
 
 しかし、改正に賛成や反対という以前に、実際に改正されたとしても、教育現場は何も変わらないのではないかという意見も多かった。

  • 「教育基本法を意識して教育をしているということでもありませんし、改正そのものが日々の教育に何らかの影響を与えてくるとは思えません」(30代女性・高等学校)
  • 「教育基本法は、今の学校での、教育の方向を決定する力は無い」(40代男性・高等学校)
  • 「法律や指導要領の改定があっても、実際に我々ができることはそんなに変わらないし、縛られる必要もないと思います」

以上のような意見が出てくるように、教育基本法の内容に影響されること無く、日々の授業を進めるだけというスタンスを取る先生も多いようである。

また、「正直なところ現場でそんな話題が出たことはありません」(20代男性・中学校)、「今の学校現場は様々な問題をかかえ忙しく、そんなことを考える暇もありません」(40代男性・高等学校)など、実際の教育現場では教育基本法の内容に関心を持っている人が少ないといった意見も見られ、法改正の動きよりも目の前にある様々な問題で手一杯という状況がうかがえた。「教育基本法が改正しても、現場にいる教師の考え方が変わらなければ、まったく進歩はないと思う」(40代男性・小学校)といった意見が出るように、実際に改正されても、現場の先生方が、それに合わせていくかどうかが課題と言える。

また、「教育基本法よりも、現行の学習指導要領を見直す必要があるのではないかと思う」(40代男性・中学校)など、まず学習指導要領を、どうにかすべきではないかといった意見を述べてきた回答も幾つか見られた。

  • 「法律や指導要領の改定があっても、週5日制になっても、実際に我々ができることはそんなに変わらないし、縛られる必要もないと思います」(40代男性・高等学校)
  • 「現場は、総合学習と絶対評価への移行ですっかり混乱しています」(30代女性・中学校)
  • 「総合の言い出しっぺは誰か。実施前から破綻するとしてなぜに実施に踏み切るのか」(40代男性・中学校)
  • 「授業時間を削る土曜休業と総合的な学習を廃止して、親子を育てる行事、縦割り集団活動による行事をじっくり創造していくことを横軸とするなら、個性重視の実効は確実でしょう」(50代男性・小学校)
  • 「学校週5日制が導入されてからは我々に余裕がなく,子どもは不安定なままの毎日を送っています」(20代女性・中学校)

など、総合的な学習や学校週5日制による混乱から、学習指導要領に対しても厳しい見方をする先生も多いようである。

そして、アンケートの回答の中には、教育改革はこのようにすれば良いのではないかと、ご提案いただいたものがあった。その主なものは以下のようになっている。

  • 「義務教育の無償はいいが、教科書については無償より、ある程度の対価を支払った方が物を大切にする事につながるのではないか」(30代男性・小学校)
  • 「こんな改正より、教育予算を増やすほうがよっぽど効果的」(40代男性・高等学校)
  • 進学する学校が選択できるようにし、子どもの実態にあわなければ、転校ができるような、柔軟が運営ができるシステムが確立すればいいと思う」(40代男性・小学校)
  • 「諸外国に合わせて9月に新年度が始まり、6月に卒業するべきだと思います。また10歳で初等教育、14歳までで義務教育は終えるべきだと思います」(40代男性・小学校)

【学校種別に見たアンケート結果】

学校種別
小学校 26
中学校 20
高等学校 21


学校種別
 

67件のアンケートを学校種別に見た場合、小学校26件、中学校20件、高等学校21件という内訳になっており、若干、小学校からの回答が多くなっているものの、ほぼ均等な回答を得られることとなった。

小学校の先生からの回答では、「公共心やマナーを守らない若者が多いのは事実なので、公共心を大切にするという新しい考え方は理解できる」(40代男性)、「『個人の尊重』が『個人の欲望の尊重』と重なってしまっていた反省から、新しい『公共』の規範の再構築を目指すということにも共感できる」(40代男性)など、改正の内容の中でも公共性を尊重するという部分にはうなずけるというものが幾つか見うけられた。しかし、その反面「道徳や日の丸・君が代の強制・押しつけで公共心や集団帰属意識が生まれるなら、何の苦労もしない」(50代男性)と言った意見も上がっている。また、「現行の教育基本法に賛成だが、家庭教育についての項目は皆無なので。その点での改正には賛成」(40代男性)など、家庭教育の重視を求める意見もあった。この家庭での教育に関しては、小学校入学前の教育をが大事とする考えからか、親に対する批判や要望も小学校の先生からは多くあがっている。

中学校の先生の回答では、今回の改正の内容は実際の教育現場が見えていないとの意見が寄せられた。実際の現場とかけ離れているとの声は、小学校や高等学校からもあげられていたが、「文部科学省の決定には責任というものが感じられず、また新たに全く違う角度から何かをしなさい的な事ばかり言われているようで、現場は振り回されるばかり」(20代女性)、「現場を知らない官僚や学者の作文」(20代男性)など、上からの押し付けに対して反発する意見が中学校の先生では多かった。4月からスタートした総合的な学習に振りまわされ、今度は教育基本法に振りまわされるのではと危惧する意見が見られるなど、行政に対する不満が多かったのも中学校の特色である。

高等学校の先生からは、「改正したとしても、正直言って教育の現状は、何ら変わりはないと思う」(20代男性)、「法律や指導要領の改定があっても、週5日制になっても、実際に我々ができることはそんなに変わらないし、縛られる必要もない」(40代男性)といったように、教育基本法を変えても実際の現場は変わらないのでは無いかという意見が多く見られた。また改正に賛成の意見でも、「時代に見合った教育についての考え方を見直す点では、この改正に賛同したい。しかし、教基法改正で何が変わるかは、あまり見えていないように感じる」(20代男性)、「状況の変化を踏まえて改正する部分は改正することがよいと考えている。でも大切なのはこれからどういう教育を目指すのかが問題ではないだろうか」(40代男性)といったように、状況を見据えた改革を望む意見が多く寄せられた。

【年代別に見たアンケート結果】

年代別
20代 6
30代 18
40代 35
50代 7
不明 1


年代別
 

67件のアンケートを年代別に見てみると、40代の先生からの回答が35件と圧倒的に多く、全体の半数以上を占めるものとなった。次いで30代の18件となっているが、20代、50代からの回答は、それぞれ6件、7件と少ないものとなっている。

20代からの回答を見てみると、全体から見た回答数は少ないながらも「時代に見合った教育についての考え方を見直す点では、この改正に賛同したい思いである」(男性・高等学校)、「ようやく改正に踏みきったということに、好い方向に少しずつ向かっていると感じている」(女性・高等学校)のように、改正を支持する意見があがっていた。また、改正の内容よりも、「現場で教育基本法を意識している教員が、はたして何人いるのだろう」(女性・高等学校)、「正直なところ現場でそんな話題が出たことはありません。だからこそよけいに自分でいろいろなことを学んでいくしかないと思う」(男性・中学校)といったように、周囲で教育基本法が改正されることについて論じられないことを疑問視する意見が見られた。また、他の年代では多かった愛国心や公共性に関する意見が、20代の回答ではあまり見られなかった。

30代からの回答を見ると目だったのは、現行の教育基本法がしっかりしているので、変える必要は無いという意見。「教育基本法は教育の理念を記したものであり、その成立が古かろうが新しかろうが、正しい教育の方向を示しているのであれば改正する必要はない」(男性・中学校)などをはじめ、現行の教育基本法を守って進めれば良いのではないかとの意見が多く見られた。また、「現場では、もっと早急に対応しなければいけない課題が山積み」(男性・小学校)のように、行政の指導が現場無視の方向で進められているので、教師は大変といった意見も30代では多かった。そして、改正に賛成という回答からは、「愛国心など、アレルギーを示す向きもあるが、国を大切に思うことが否定されることの方がよほどおかしい」(男性・中学校)、逆に反対の回答からは「戦後の平和憲法の1つのささえ。これを改正することは、戦前の国家主義の教育にもどること」(男性・中学校)などの意見が出るなど、自分の主張をはっきりと掲げているものが多いのも30代の特色だった。

最も回答が多かった40代からは、「これまで現場の悩みに真剣に対応しなかった行政機関による論点のすり替えではないか」(男性・高等学校)、「政治家自身が問題行動が多いし、また愛国心が欠如しているのではないか」(男性・小学校)、「政府がすべきことは、現行の教育基本法具体化のための財源確保であり、法を啓発してこなかったことを反省すべき」(男性・小学校)など行政や政治家に対する不満の声が多くあがってきた。また、「有事立法等のからみ また、憲法改正のための準備に無理に進めているのだと思う」(男性・小学校)、「公教育の国による様々なバックアップを財政的に打ち切るために、条文を消し去りたいと考えているのでは」(男性・高等学校)などのように、改正の意図に対して何か裏があるのではないかと見て不信を表す回答もあった。

50代から得られた回答には、「全職員が職員研修で教育基本法そのものを読み直し、意見を自由に交換できるような雰囲気と場を各学校で作って欲しい」(男性・高等学校)、「教育基本法が問題なのではなく、基本法の精神を実現できていない、今の社会、政治の方向が問題」(男性・小学校)、といった現行の教育基本法が、なぜ実行されなかったのかを、いぶかる意見があがってきた。また、現場の大変さを訴える意見として「いじめや不登校など、一番大変な時期を過ごしてきて、踏んだり蹴ったりの中で懸命にやっている教師を大切にしてくれていないのではないか」(男性・中学校)といった意見も、この年代の先生から返ってきた。

【男女別に見たアンケート結果】

男女別
男性 59
女性 8


男女別
 

アンケートの結果を男女別に見てみると67件の回答のうち、88%にあたる59件が男性からのもので大半を占めた。また男性が40代からの回答が最も多かったのに対し、女性からの回答は20代、30代といった若い層からの回答が、ほとんどであった。

女性からの回答で、教育基本法の改正に明かに賛成といったのは「今、ようやく改正に踏みきったということに、好い方向に少しずつ向かっていると感じている」(20代高等学校)とした1件のみ。残りは改正に反対か、どちらとも言えないというものっだったが、女性からの回答で多く見受けられるのは、「改正したとしても、正直言って教育の現状は、何ら変わりはないと思う」(20代・高等学校)、「教育基本法が変わったからといって、何が実際に現場で変わるのか、さっぱり分からない」(30代・中学校)、「改正そのものが、自分が行っている日々の教育に何らかの影響を与えてくるとは思えない」(30代・高等学校)、など改正自体に意味があるのか疑問視するものだった。「文部科学省の決定には責任というものが感じられず、現場は振り回されるばかり」(20代・中学校)という意見も出ているように、法律の内容よりも毎日の現場を重視しているように思われる。

その反面、男性の回答で多く見られた、愛国心や公共心に関する問題など、教育基本法の改正に盛りこまれた具体的な内容について批判するような意見は、女性からの回答では少なかった。その改正される内容に問題があるというよりも、改正すること自体に意義が考えられないという意見が多いようである。

【キーワードから見るアンケート結果】

今回のアンケートから得られた回答の中で、教育基本法の改正について、多くの先生が共通して取り上げている問題が幾つかあった。そこで67件の回答の中から、「愛国心」「地域・家庭」「公共心」「国際性」の4つのキーワードを、教育基本法改正の中で、先生方の関心の高かった問題として、個別に抽出して掘り下げてみた。

回答に多く見られたキーワード

キーワード
 

愛国心

今回の教育基本法の改正には、基本理念として「国を愛する心」が盛りこまれている。しかし、そうした考えは戦前教育への逆戻りではないかとする向きもある。今回のアンケートでも、特に関心が高かったようで、67件の回答のうち約1/3にあたる23件に「愛国心」について触れているものがあった。

その中には、「教育基本法に日本の伝統、愛国心が欠如しているという理由で改正するのは、とても納得できるものではない」(40代男性・小学校)、「愛国心を法律に明記すべきものであろうか。そもそも『心』が『強制』によってはぐくまれるものではないことを多くの国民は知っている(40代男性・高等学校)といった法律に愛国心を明記することに関して反対という意見が多かったが、「愛国心などに、アレルギーを示す向きもあるが、国を大切に思うことが否定されることの方がよほどおかしい」(30代男性・中学校)、「国旗・国歌をこれまでないがしろにしてきた罪は重い。日本人でありながら,日本を蔑む子どもがこれ以上増えないためにもしっかり教えるべきである」(30代男性・小学校)など、国を愛する気持ちを重視すべきではないかという意見もあがってきた。

また、愛国心は大事だと思うが、上から強制されるのが問題とする意見があった。「愛国心は、人から言われて生まれるのものではない。人から言われなくても誰だって祖国愛や郷土愛はある」(40代男性・小学校)、「伝統は、尊重されるべき重要なものだが、特定の人々によって独善的に決められ、すべての子どもに押しつけられるようなことがあってはならないとおもう」(30代男性・中学校)。

愛国心の捉え方に問題があるのではないかという意見では、以下のようなものが見られた。「あえて言えば、必要なのは愛国心ではなく、愛郷心である」(40代男性・高等学校)、「愛国心というとき、愛『国民』ではないところに問題がある」(50代男性・高等学校)、「『家庭』を愛する子供たちが、やがて世界観の広がりによって『学校』を愛し『地域』を愛し、そして『国』を愛するようになる。」(30代男性・小学校)。

さらに愛国心に関しては、「政治家自身が問題行動が多いし、また愛国心が欠如しているのではないか」(40代男性・小学校)、「愛国心を叫ぶものの何人が、日本の国民を愛しているといえるのであろうか。日本を愛しているのなら、今のような政治をやめなさい」(40代男性・高等学校)など、政治家の姿勢を問題視する意見が見られた。

家庭・地域

今回の改正では、「家庭の果たすべき役割や責任」、「学校・家庭・地域社会の連携・協力」の新設が求められているが、アンケートでも地域や家庭に関する意見を書いたものが11件あり、関心の高さがうかがえた。その中で、「家庭の役割を明記した点は良いこと。学校・地域・家庭が一丸となって取り組んでこそ成果が上がる物です」(男性・中学校)、「教育には、発達課題があり、学齢期以前の教育も明確にしていく必要があると思います」(40代男性・小学校)、「教育基本法を見直し、真に子どものため、社会のためになる教育を、地域、家庭、学校の3者が協力して行えるよう、改善していって欲しい」(30代男性・小学校)などが、家庭や地域の教育に期待する意見の代表的なもの。

そして、家庭や地域の協力を期待しながらも、「教育基本法が変わっても、すぐに効果は期待できません。家庭や地域や教師の変化には、時間がかかるからです」(40代女性・中学校)、「家庭教育の重視など評価すべき点もなくはないが、実際にどのようにこれからの教育や学校が変わっていくかが見えそうで見えない」(30代男性・中学校)のように、実際にはどうなるか分からないとする意見もあった。

また、「年々、親の勝手な振る舞いが気になります。子どもができたら、親の指導をしないと、今後の日本はだめになると思います」(40代男性・小学校)、「親は生活に追われ、子ども達の相手どころではないようです。親の生活を立て直すほうが、一番の近道ではないでしょうか」(40代男性・小学校)といったように、家庭での教育というより、親自体のあり方を指摘する意見もあった。

公共心

今回のアンケートの中でも、教育基本法の改正に関して賛同する部分が多かったのが、この公共心について。7件の回答が公共心に対して触れていたが、「公共心やマナーを守らない若者が多いのは事実なので、公共心を大切にするという新しい考え方は理解できる」(40代男性・小学校)、「『個人の尊重』が『個人の欲望の尊重』と重なってしまっていた反省から、新しい『公共』の規範の再構築を目指すということにも共感できる」(40代男性・小学校)、「公共のために尽くすという考え方が希薄になってしまった今、具体的方策には異論もあるが、改正の方向性には大筋で賛成である」(30代男性・中学校)、「『公』を強調していることにも異議を唱える方もいらっしゃるが、己の欲求を制限し、他を顧みることは、社会に生きる者の当然の義務である」(30代男性・小学校)など、子どもたちの公共心が薄れていることを不安とする先生が多いようである。

しかし、「教育の公共性を回復する必要性は感じますが、そのよりどころを過去の復古道徳や愛国心に求めるのはアナクロニズムです。時代にあった公共性を回復する十分な論議と具体的な施策こそ求めます」(40代男性・小学校)、「道徳や日の丸・君が代の強制・押しつけで公共心や集団帰属意識が生まれるなら、何の苦労もしません」(50代男性・小学校)など、法の改正では解決につながらないとする意見もあった。

国際化

改正の中では、日本人としてのアイデンティティと並んで、国際社会の一員としての意識を持とうとする国際性が謳われているが、そのことに関する意見が書かれた回答は4件であった。「国際化の中で日本人としてのアイデンティティは必要になってくる考え方だと思う」(30代男性・小学校)、「国際理解が進めば自ずと国を愛する心は育つと思います」(40代男性・小学校)のような賛同意見と並び、「国際化の現状に合わせ、海外・帰国子女に向けての教育をも、もっと取り上げてほしかったと考える」(20代女性・高等学校)といった、取り上げ方が足りないとする意見もあった。また、「激化する国際競争やグローバリズムへの対応を重視しているが、偏狭なナショナリズムやエリート主義、そして強者の論理によって教育を再編しようとする動きが感じられる」(30代男性・中学校)などの批判的な意見も返ってきた。

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