2025.01.10
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『野生の島のロズ』 ドリーム・ワークス30周年を迎えた最高傑作がついに公開!!

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は、心が芽生えたロボットと動物たちが出会う『野生の島のロズ』をご紹介します。

舞台は過酷な大自然のまっただ中にある無人島

 

(C)2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

これまでも『シュレック』シリーズや『ヒックとドラゴン』シリーズなど、名作をたくさん送り続けてきたアニメーション・スタジオのドリーム・ワークス。30周年を迎える同スタジオが満を持して製作したのが、アカデミー賞に作品賞でノミネートされるのでは!?とも言われている『野生の島のロズ』だ。

『野生の島のロズ』には人間が出てこない。

いや、厳密に言えばモブのような形では登場した。でもほぼ意識には残っていない。とにかくこの映画に出てくるのは、圧倒的な大自然の中で生きる動物たちと、そんな大自然にはおよびがない都会用に設計された最新型のアシストロボット、ROZZUM7134こと“ロズ”だけだ。にも関わらず、この映画を観た時、心に残ったのは「人間って愚かだなあ」という思いだった。それはどういうことなのか。

映画の内容は驚くほどシンプルだ。事故で野生動物しかいない島に漂着したロボットのロズが、大自然に触れ、動物に触れ、変化していく様子を描いたもの。しかし構造はシンプルでも、そこに流れるドラマは非常に奥深い。

始めは“モンスター”として恐れられるロボットのロズ

 

(C)2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

始まりからしてそうだ。ロズは偶然に起動されたことで、目を覚まし、自分に命令を与えてくれる相手をひたすら探す。とにかくフレンドリーに分け隔てなく、動物たちに愛想よく話しかけていく。

しかしそれは動物にとっては驚異であり恐怖だ。観たこともないシロモノがずんずんと近づいてきて、聞いたこともないような音(人間の言葉)をたてるのだから。ある種の動物は逃げ惑い、ある種の動物はロズに敵意を抱く。熊なんぞは思いっきりロズの胸部に爪の傷痕を残したほど。なにしろここは過酷な大自然の無人島。容赦のない弱肉強食の世界なのだ。油断すれば命を奪われるのが当たり前の世界の中、見知らぬロズが警戒されるのも当然だ。

かくして追えば追うほど離れて行く動物たち。そこでロズは一計を案じる。追ったら逃げられるのならば、自分がまずは動物たちのことを知ればいい。独自の学習プログラムで、動物たちの行動や言葉から得られる彼らの感情を学習しようというのだ。「魔法」ではなく「学習」。一体どれほどの月日が流れたのかはわからないが、ロズの体にコケなどがこびりついているところを見るとそれなりの時間を費やしたようだ。とにかくロズは懸命に動物たちを研究し、動物たちのコミュニケーションを理解。動物たちと対等に話せる状況をようやく作り上げていく。

ここの展開も感動的だ。伝統的なアニメーションでは簡単に主人公と動物は喋ったり分かりあえたりするが、今回は決してそうではないからだ。ロズが必死に相手を知ろうと努力した結果、キツネや子だくさんのオポッサムなどを筆頭に、本格的に仲良くなる動物たちが増えていく。種を超えるどころか「生き物」と「作り物」が、本気で友情を育んでいくことになるのだ。かくしてロズはようやく動物たちの世界になじむことができていく。

ついに『感情』が芽生えた!? ロズの子育て奮闘記

 

(C)2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

さらにそんなロズが大きく変化する。それはある出来事に遭遇してから。自分のせいでロズは卵を温め中だった雁の巣を破壊。親雁を死なせてしまい、さらには多くの卵も割ってしまう。責任を感じたロズは最後に残ったひとつの卵を保護し、自分の手で羽化をさせる。こうして誕生したひな鳥は、生まれた時に眼前にいたロズを親だと思い、「ママ」と呼ぶ。するとロズの身体にピンクの明かりが走る。別に言葉で説明されたわけではないが、その表現で彼女に何か「愛情」というか「母性」というか、そういった新たな感情が巻き起こったのを確認できる。かくしてロズは、このひな鳥に“キラリ”と名づけ、まさに母親のように寄り添って、育てることになるのだ。そしてそれは彼女にとっての初の任務ともなっていく…。

あまりいっぱい書きすぎてもネタバレになってしまうので、このあたりにしておくが、とにかく異世界に懸命に入り込んでいったロズを中心に、動物たち自身も全体的に強い絆で結ばれていくことになるのだ。

驚かされるのは、それでも貫かれる弱肉強食の世界観だ。オポッサムの子どもたちが、全く他愛もない言い方で「死んじゃった?」と聞き返したりするのだが、それが彼らの中でいかに弱肉強食を常に味わっているかを表すことにもなっている。死と隣合わせの日々を常に送っているからこその言葉。オポッサムの親も子どもが一匹いなくなった時、亡くなったのかもということに動揺したりしない。むしろ後にその子どもが戻ってきた時にラッキーだったと喜んだりする。死を身近に感じることは少ない日本人には、ちょっと戸惑いのあるシーン。でもそれが当たり前になっていたら、死が生よりも当然である世界に暮らしていたとしたら、こうなるのかもしれない。

そしてそういった弱肉強食の世界が成立している中で、それでも種を超えた絆ができあがることに感動を覚えるのである。と同時に、同じ「人間」として生まれながら、しかも地球レベルの環境破壊で世界中が大変だった2024年を経ても、国同士がいがみ合い、一触即発の第三次世界大戦警戒レベルが起きているこの人間社会の現実。これでは「人間って愚かだなあ」と思わずにはいられない。

そうなのだ。人間が出てこない分、この映画ではロズや動物たちの取る行動は必然的に擬人化するわけだが、彼らが互いを理解しあい、そして一丸となっていく様は(弱肉強食の世界はちゃんと下敷きにありながら)、人間たちが進むべき道をちゃんと教えてくれている。つまりロズのように、相手を理解しよう、相手の文化を考え方を尊重しようという思いがあれば、そういった均衡が取れた社会ができるはずなのである。しかし人間の現実社会ではそれができていないのだ。自国が良ければいいという発想を持つ偉い人があまりに多く、地球という大きなグローバル観点からみたら実にくだらない小競り合いを続けているのである。環境破壊が進んだ今だからこそ、人種の壁を乗り越えて一致団結すべきではないのか? そんなことをこの映画は語りかけてくるのであろう。

監督は『リロ&スティッチ』の生みの親、クリス・サンダース

  

(C)2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.

監督したのはクリス・サンダース。ディズニー・アニメーションでは『リロ&スティッチ』、ドリーム・ワークスに移籍してからは『ヒックとドラゴン』シリーズなど、素晴らしい作品を生み続けている。サンダース監督作は、実は常に“痛い現実”が絡み合っているのがポイントだ。例えば『リロ&スティッチ』。ヒロインのリロは両親を亡くしていて、姉とふたり暮らしだ。だからなのか、リロはちょっとだけいつもスネ気味。そんな時に出会うのが宇宙最凶の極悪生物として世に放たれた実験体であるスティッチ。「破壊する」しか能がなかった彼が、リロと出会い、友情を知ることで愛を知り、変貌していく。それはリロも同様だった。“痛い現実”を超えて彼らは強い絆で結ばれていく。

『ヒックとドラゴン』も“痛い現実”から目をそむけない。昔、ドラゴンがたくさん空を飛び回っていた頃、屈強なバイキングの長の息子として生まれながら、ひ弱で優しすぎるヒックはその明晰な頭脳でたまに町を荒らしにくるドラゴンをやっつける武器を考案。それで最も強いと言われるナイト・ヒューリー種にケガを負わせ捕えることに成功。しかしとどめをさすことができず、破損したナイト・ヒューリーの尾翼部分に手製の義尾翼を製作。再び飛べるようにしたのをキッカケに強い絆で結ばれる。この映画の“痛い現実”はヒック自身も戦いで片足を失くし、義足になってしまうというところ。おあいこといえばおあいこなのだが、それでもそういった“痛い現実”を踏み越えて美しい友情を紡ぎ上げていく。

普通はこの手の“痛い現実”は、特に子どもも楽しめるように配慮されているアニメーションの世界では、あまり深くツッコミたがらないものだ。だがサンダース監督は絶対に逃げない。そこを直視しつつ、そういう現実も踏まえつつ、ファンタジックな世界を紡ぎだす。だからこそ、感動にも“本物”がある。

『野生の島のロズ』、原題『野生のロボット』(アメリカの作家ピーター・ブラウンが児童文学として執筆。普遍的な真理が評価されてニューヨーク・タイムズのベストセラーリストで1位を獲得。日本語版は福音館書店より発売)は、サンダース監督が手掛けた中でもその“本物”の感動がギッシリと詰まった作品。ちなみに監督はこの原作には娘の学校の宿題を通じて出会ったそうで、すぐに映画化の道を模索したのだそう。どの世代でも楽しむことができる本作を、是非見ていただき、この作品がはらむ様々な提議された問題点を子供たちとともに語りあってほしいと思う。

Movie Data

監督・脚本:クリス・サンダース

原作:ピーター・ブラウン

声の出演:ルピタ・ニョンゴ、ペドロ・パスカル、キット・コナー、ビル・ナイほか(日本語吹替え)綾瀬はるか、柄本佑、鈴木福、いとうまい子、千葉繁ほか

配給:東宝東和、ギャガ

2025年2月7日(金)より、全国ロードショー

(C)2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.
『野生の島のロズ』公式サイト

Story

嵐の夜、ロボットが入った箱が大自然に覆われた無人島へと流れついた。そのロボットは人間に仕えるように設計された最新型のアシスト・ロボ、ROZZUM7134ことロズ。人間からの命令を求め、過酷な大自然の中をあてもなく歩き出すロズ。だが動物たちは彼女をモンスターだと恐れ、逆に逃げ回る始末。そこでロズは学習して、動物たちとのコミュニケーションの仕方を学び、意思疎通ができるようになって、ようやくモンスターの烙印を返上できることに。

そんなある日、ロズは自分が壊してしまった雁の巣に残ったたったひとつの卵を孵化させることに成功。ひな鳥に「ママ」と呼ばれた瞬間、ロズの奥深くである変化の兆しが表れる。そしてこのひな鳥を育てることが初の任務にもなっていく…。

文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室やライター講座を展開。

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