2024.06.26
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

『ディア・ファミリー』 心臓の病に見舞われた次女を助けようとして起こしたある家族の奇跡

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は、心臓に疾患のある娘のために人工心臓の開発に挑んだ家族の実話『ディア・ファミリー』をご紹介します。

子どもがもしあと10年の命と言われたら?

(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会

もし自分の子どもが難病にかかってしまったらアナタはどうするだろうか?
当然、治せるものなら治したいと思うだろう。例えば日本で無理でも、海外に行って治せるのなら、渡航費などをクラウドファンディングで募って向かうだろう。親とはそういうものだと思う。

『ディア・ファミリー』の主人公・坪井宣政(大泉洋)も、そういう胸中にある。彼の大事な愛娘のひとり、次女の佳美に先天性の心臓疾患があり、20歳まで生きられないと宣言されてしまったのだ。
今の医療ではどうにもならないと言われるなか、宣政が目をつけたのは人工心臓。愛知高分子化学株式会社の社長でもあった宣政は、自分のところの技術を駆使し、その人工心臓を絶対に作ってみせると家族の前で宣言したのだ。

大事なのはやはり行動力にある

(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会

すごいのはそこからの行動力。まず東京都市医科大学の石黒教授(光石研)に面会して人工心臓の可能性を調査し始める。日本での研究はほぼ進んでないと言われるが、そこでめげることなく、石黒教授を説得。日本心臓研究所に出入りするようになる。資金集めにも奔走する。
まだクラウドファンディングがない時代に、助成金を申請したり、頭を下げて借金するなどして、その資金を生み出していく。これはすごいことだ。とにかくやれることにはすべてトライしていく。

躊躇をしないその行動力を見ていると、人生やっぱり行動力が「幸運」も「良縁」も何もかも呼び込んでいくのだなあと痛感してしまう。ボーッとしていてはダメなのだ。本当にやりたいことをやるためには、恥ずかしがったり引っ込んでいては何にもならない。
ひたすら自分を信じて突き進むことが大事であることを、この映画は本当に示してくれる。

医療のイロハも知らなかった夫婦が学ぶ姿に感動

(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会

しかも一番、驚かされるのは宣政も妻の陽子(菅野美穂)も、心臓に関しての医療的な話は無知中の無知。当然、医療用語なども知るわけがなく、「これは(心臓についての言語の)イロハですよ」と医学生に言われたりもする。

そんな人が本気で医療について誰よりも深く勉強していく。時には東大の講義に堂々と紛れ込んだり、無知だけれど恥じることなく質問をしたり。そういったなりふりかまわぬ姿勢が、一緒に研究に向かってくれた研究生たちの心をも動かしていく結果になるのだ。

宣政や陽子らの前向きな勉強しようという姿を見ていると、いくつになっても「学ぶ」ことはできることに気づかされる。
たとえ大人になろうが、白髪まじりの初老になろうが、勉強を始めることに関して「遅い」という言葉はないのだ。やろうと思うこと…それが最も大事なことなのだ。
映画を見ていると、そういった宣政や陽子の取り組みに観ている方も勇気を与えられていくことは間違いない。

無知は最も恐ろしいこと!

(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会

と同時に、人生はいつでも勉強なのだなとも思う。誰もがいつかは自分のことにしろ自分の肉親のことにしろ、なんらかの病に立ち向かうことになると思うのだが、そこを他人まかせ、つまり医者まかせにしてはならないことを痛感する。医者の話はもちろん聞くべきだ。でも自分なりに勉強して、「こういう生き方をしたいから、それに合った治療をしてほしい」と、自分の意志を示していくこともとても大事なのだ。

無知のままでは医者の話を鵜呑みにすることしかできないが、自分でも勉強していれば「こういうやり方はできないのか」など、治療に関して提示することができる。病院には病院のやり方、医者には医者のやり方があるから、そこに合わないのならば、自ら医者を変えるということも可能なのである。

ちなみにこの『ディア・ファミリー』の話は実話だ。世界で最終的に17万人の命を救うことになるバルーン・カテーテル。それが日本で広がることになる奇跡のような話にもこの物語は繋がっていく。
命の大切さはもちろん教えてくれる話だが、かといって決してお涙頂戴話ではない。むしろ無知の怖さを感じさせたり、行動することの素晴らしさを教えてくれる作品として、誰の胸にも届く逸品となっている。ぜひ学校で家族で、この作品を観て語りあっていただきたいと思う。

Movie Data

監督:月川翔
原作:清武英利
脚本:林民夫
出演:大泉洋、菅野美穂、福本梨子、川栄李奈、新井美羽、松村北斗、有村架純、光石研ほか
配給:東宝
全国東宝系にて公開中

(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会

Story

1970年代。小さな町工場を経営する坪井宣政と妻・陽子の娘である佳美に、生まれつき心臓疾患を抱えていることが判明。余命10年を宣告されてしまう。どこの医療機関でも治すことができないという厳しい現実を突きつけられた宣政は、自ら人工心臓を作ることを決意。知識も経験も何もない状態からの医療器具開発は限りなく不可能に近かったが、宣政と陽子は娘を救いたい一心で勉強に励んでいく…。

著者情報テキスト  文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室やライター講座を展開。

pagetop