2023.11.08
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『ザ・クリエイター/創造者』 AIは人間にとって敵なのか!? 味方なのか!? 考えさせられる問題作

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は『ザ・クリエイター/創造者』をご紹介します。

今や生活の様々なところで活躍しているAI

(C)2023 20th Century Studios

様々な情報を得て学習し、成長を続ける存在のAI(人工知能)。これは今やとても身近なものとなった。例えばロボット掃除機。あれにはAIが搭載されているため、部屋の間取りや障害物を記憶して、効率化した掃除ルートを生み出すことができるという。最近のエアコンには“AI自動運転”なる機能が備わっているものもある。冷蔵庫や電子レンジ、洗濯機などにも活用されているし、自動車の運転、完全無人のコンビニなどもAIのおかげで可能になってきた。
スマホで、画像・イラストをAIで生成したり、スムーズな翻訳ができるアプリもある。藤井聡太氏は将棋AIを活用して稽古に励んでいるともいう。本当にいつの間にか、気づかないようなところにもAIが入り込んでいるのが2023年の現実なのだ。
だがその一方でAIによる弊害が起きている。それが「AIに仕事を奪われる」とハリウッドで起きたストライキだ。脚本家たちがAIに記事を書かせるな…と声をあげたのを発端に、俳優たちもストに合流し、そのせいでトム・クルーズの来日がNGになったりもした。アメリカではかなり深刻な問題だ。その他でもいろいろなアイディアを打ち出したり、人間よりも素早く効率的に作業をこなすAIの存在は、その進化の行方が未確定であることから、様々な議論を呼んでいる。

人類に反旗を翻したAIがロサンゼルスで核爆発を!!

(C)2023 20th Century Studios

そういった時代背景も含めてのことだろう。この『ザ・クリエイター 創造主』では、AIのせいで戦争が起きているという設定になっている。AIが発達した近未来で、AIがなんと人類に反旗を翻し、ロサンゼルスに核爆発を引き起こしたのだ。そのせいでアメリカを含む西欧諸国はAIの使用を禁止。しかし、ニューアジアと呼ばれるエリアでは、AIを否定することなく、むしろ寛容にAIを擁護。そのせいで世界は戦争状態に陥っているのだ。西欧諸国は大金をかけて“ノマド”という最大限の攻撃ができる基地を作りあげる。簡単にいえば、『スター・ウォーズ』におけるデス・スターのような絶対的な空飛ぶ要塞であり、その圧倒的強さはAIを守るニューアジアにとっては抗えない絶望感をもたらすものだ。
特にノマドが落とす何もかも焼きつくす爆弾の描写は、あまりにもあっさりと落ちてきて強烈な破壊力を見せるため、ただもう呆然と見ているしかなく、観客にも絶望感と戦争に対する嫌悪感を味わせる。

一方、ニューアジアは“ノマド”を率いる西欧諸国に負けまいと究極の兵器を作りあげ、抵抗しようとする。この映画の主人公であるジョシュアは、今はニューアジアで美しきアジア人女性のマヤと暮らしているが、彼は元は特殊部隊員であり、実は潜入して究極の兵器の破壊と、この兵器を作った謎の人物=クリエイターの暗殺を命じられていた。
しかしその究極の兵器とは、超進化型AIを搭載した機械の少女アルフィー(パッと見た目は普通のアジア人の少女)だった。ジョシュアはその状況に戸惑い、やがて彼はとある理由から、彼女を暗殺するのではなく、守ることを決意していくことになるのだ。

『ターミネーター』とは違う近未来の戦いの物語

(C)2023 20th Century Studios

人間に反旗を翻したAIとの戦争というと、イメージ的にはアーノルド・シュワルツェネッガーが出ていた『ターミネーター』シリーズなどを彷彿としてしまう人も多いと思うが、この映画はあのシリーズとは全く違う。
むしろAI側の立場から見た世界が描かれており、人間の子供を慈しんであやしたり、人間のために懸命に働いている様を見ていると、よっぽど人間の方が「悪」である。壊れた人間型をしたAIたちを一箇所に集めておそらく焼こうとしている様は、完全にナチスのユダヤ人虐殺時の遺体の焼き方を彷彿とさせるし、先程も書いたが“ノマド”から落とされる無慈悲な爆弾が街を破壊する様は、連日報道されているイスラエルとパレスチナの戦争、あるいはロシアのウクライナ侵攻を想像させる。本当に見事なくらい、戦争の恐ろしさを描きあげ、AIだからというだけで相手をよく知ろうともせずに殺そうとする人間の狂気などに踏み込んでいる話なのだ。

しかも面白いのは、この映画にはたくさんの日本的エッセンスが詰め込まれている。至るところに現れるカタカナや漢字。AIの人間・ハルンとして登場した渡辺謙は随所で日本語の台詞を喋っているし、実際の日本の新宿や渋谷でロケを行ったりもしたという。監督・脚本のギャレス・エドワーズ自身が日本で行ったパネルディスカッションで語っていたが、この映画の基盤には1999年に観た『子連れ狼』のイメージも詰め込まれているという。なるほど確かに、ジョシュアがアルフィーを連れて歩きつつ、人間たちから守っていくシーンには構図なども含め、『子連れ狼』らしさがチラホラ垣間見えるのだ。他にもアルフィーが子供らしくテレビを見ているが、そこに日本の特撮映画(1957年〜1959年に公開された日本初の特撮スーパーヒーロー映画である『スーパージャイアンツ』)が映っていたりもする。その他にも『AKIRA』など、日本の多くのアニメに影響を受けたことも監督自身が語ってくれた。

そう、ギャレス監督は子供の頃から『スター・ウォーズ』の熱心なファンとして育ち、映画監督を夢見て、様々な場所で自分自身を売り込み続けてようやく監督になった苦労人だ。つまりこの作品は、SF好きでもある監督の映画愛をガッツリ詰め込んだものとなっており、近未来映画の金字塔である『ブレードランナー』や『スター・ウォーズ』など、本当に大好きだった様々な映画の記憶が、映画を観ていると通りすぎていく。
その一方でこの映画で描かれる世界観は、決して絵空事ではない。パネルディスカッションに参加した千葉工業大学の未来ロボット技術研究センター「fuRo」の所長で、ヒューマノイドロボットの開発などに従事しているロボットクリエイターの古田貴之氏は「この作品に出てくるロボット技術は、正しいものがとても多くて、SF映画じゃなくてまるでドキュメンタリー映画を観ているような気分になった」と太鼓判を押した。さらには「この映画を学会推奨の教材にするほか、理系・文系を問わず学生の必修映画にしたい」とも。それだけリアルな未来像に触れているということなのだ。

近未来を舞台に人間が抱える普遍的な問題を提示

(C)2023 20th Century Studios

だが筆者が思うこの映画の真の魅力は、そういった様々な歴代の映画の影響、裏打ちされたリアルな未来ビジュアルの中で、人間が抱える問題をしっかり描きあげたところではないかと思う。
例えばそれはアフリカ系アメリカ人が抱えてきた人種差別問題。ただアフリカ系というだけで差別されてきた歴史と、AIというだけで敵視されるこの映画の世界観は呼応する。人類は見た目で、宗教などを含めた思想感の違いで、自分たちの利益を優先したいという思いで…と、様々な理由で同じ人類を差別し攻撃してきた。互いが違う部分があるのは当たり前だし、その違いを理解しようとすることが大切なはずなのだが、時に人間はそのことを忘れてしまう。本当の意味で互いを理解し共存を優先しようとすれば、どこにも敵はいないし、地球まるごとがひとつの国として見れるようになり、争わずに済むようになるかもしれないのだ。そんなことがこの映画を観ていると、最終的には伝わってくるのである。

ネタバレになってしまうので、これ以上のことは言えない。が、古田氏も言っていたように、この映画は観ていろんな話をするのに最適な映画であることは間違いない。新しい技術の進化とどう向き合っていくかを話すのも良し、反戦映画として語り合うのも良し、愛の映画として語り合うのもいい。とにかくいろんな面で学べることがたくさんある映画なのである。是非、『ザ・クリエイター 創造者』を題材に、様々な話しをしていただきたい。本当に本作は討論にうってつけな映画なのだ。

Movie Data

監督・脚本:ギャレス・エドワーズ
脚本:クリス・ワイツ
音楽:ハンス・ジマー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ジェンマ・チャン、渡辺謙、マデリン・ユナ・ヴォイルズほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2023 20th Century Studios
『ザ・クリエイター/創造者』公式WEBサイト

Story
人類とAIの熾烈な戦争が始まって10年。ジョシュアは人類を滅ぼす兵器を生み出した創造主と、その兵器の破壊のためにニューアジアに潜入。が、その最終兵器は超進化型のAIを搭載した愛らしい人間の子供の姿をした少女アルフィーだった。戸惑ったジョシュアはある理由から、アルフィーを守る側に付くことに。果たして人類とAIの戦いの行方は!?

文:横森文

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横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室やライター講座を展開。

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