2021.11.10
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『護られなかった者たちへ』 生活保護制度のあり方などを考えさせられる問題作

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は『護られなかった者たちへ』と『エターナルズ』の二本をご紹介します。

舞台となるのは東日本大震災から10年目の仙台

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

東北の震災が起きてから10年が過ぎた。もう10年。まだ10年。人によって感じ方は違うだろうが、言えることは、まだ“終わった話ではない”ということ。
この映画を観ても、そういった思いが伝わってくる。
タッチとしてはミステリーだ。舞台となるのは東日本大震災から10年目の宮城県仙台市。なんと全身を縛られたまま放置され、餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生。被害者は全員、善人とか人格者と言われていた男たちだった。一体、なぜ彼らは殺されることになったのか!?

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

そんな中、容疑者として浮かんできたのが、利根泰久(佐藤健)という男。過去に放火事件を起こして服役し、刑期を終えて出所したばかりの元模範囚だ。
実は彼には、震災の時にある出会いがあった。もともと身寄りがなく、孤独に生きており、まるで傷ついた動物のように、反抗的ですぐに人に噛み付くような男だった利根。そんな彼に優しい言葉をかけてくれたのが、けい(倍賞美津子)という老いた女性だ。震災後の避難所で彼女と出会った利根は、やがて彼女をまるで親のように慕い始める。そして同じくけいを慕う、家族を失った円山幹子(清原果耶)らと、3人で擬似家族のような関係になっていくのだ。その過程がなんともリアルなのである。
けいは、仮設住宅には入らず、自分の家に危険を承知で住み始める。そこに入り浸る2人。わずかな食料を分けあいながら、食べる様(特にうどんをすするシーンは忘れがたいシーン)などを見ていると、本当の家族以上に互いを思いあっているのが伝わってくる。
だからこそ、そんな彼らに降りかかってくる生活保護の問題が深く心に突き刺さる。

生活保護を嫌がる人が多いのはなぜか!?

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

実は現実的にも生活保護の申請というのは嫌がる人が多いという。生活保護を受ける=怠け者のイメージが強いとか、生活保護を受けるとなると扶養家族に連絡が行くという理由で諦めてしまうことも。
映画の中でも、持病があって生活保護を受けていたが、娘が白い眼で見られるということから、パートに出る選択をしたシングルマザーの女性が登場した。生活保護を受けることは、重要な社会保障であり、決して恥じるようなことではない。けれども現実的にはそれが成り立っていないのだ。
そういう問題を感じさせ、考えさせてくれるのが本作の素晴らしいところ。つまりミステリータッチではあるけれど、この映画はそういう社会の制度と、現実問題のギャップを見せた骨太な社会派ドラマになっているのだ。
映画を見ていたら、自治体の窓口の冷徹ともいうべき対応に驚かれる人も多いのではないかと思う。しかしこれが現実なのである。
最近でもコロナ禍で、様々な助成金が出たが、その申請がとにかくややこしいと、開始後に様々な意見があった。国は払いたくないのかと疑いたくなるのと同時に、映画でも描かれた不正受給者の問題などもいろいろ起きて、金を巡るトラブルは解決の仕方が難しいとも感じた。
だからといって、それを国や政治に任せきりにするだけで良いのか。
私達自身もしっかりと考え、行動する必要があるのではないのか。
映画を見ていると、あふれるそういった矛盾や無知の怖さ、流れに身をまかせるだけではどうにもならない現実などを突きつけられ、本当になんともいえない、やるせない気分にもなってしまうが、そこで問題点を考えるのが大切なのだ。

経済的貧困と繋がりの貧しさが生む絶望感

(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

ちなみに生活保護を受給しても、別に仕事をしたら受給されなくなるわけではないという。収入があって、その金額が生活保護基準に満たなければ、その不足分が受給されるのだとか。また収入が生活保護費を上回ってもすぐに廃止になるのではなく、その収入がちゃんと続くかどうか、3〜6か月間は経過観察があるという。
問題はこういう社会保障があることをちゃんと理解せず、すぐに死を選ぶ人が増えていることだ。特に若い人や女性の自殺が目立つようになった。コロナ禍で非正規雇用者が厳しい状況に追い込まれているという背景も大きな要因なのだろう。
映画の中の利根や幹子は、それでも困窮した時にけいという存在がいたこと、お互いの存在があったことが良かった。けれどもそういう心の支えとなる相手がいないと、人間は本当に沈む。経済的な貧困も大変だが、そういう繋がりが貧しくなることはもっとヤバい。人と関わること、誰かと話すこと、ちょっとしたことが大事なのだ。
いろいろ考えさせられる本作。特にコロナ禍で貧困が身近になってきた今、映画の中で語られる内容も遠い出来事の話ではない。そういうことを加味した上で本作を見ると、より切なく、より感動させられるはずだ。ぜひ家族で、学校で、一緒に映画を見て考えてほしい一作だ。

Movie Data

『護られなかった者たちへ』
監督:瀬々敬久
原作:中山七里
出演:佐藤健、阿部寛、清原果耶、林遣都、吉岡秀隆、倍賞美津子ほか
配給:松竹
絶賛公開中
(C)2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
https://movies.shochiku.co.jp/mamorare/

Story

東日本大震災から10年目の仙台で、全身を縛られたまま放置され、餓死させられる殺人が連続して起きた。捜査線上にあがったのは、別の事件で服役し、出所したばかりの利根という男。震災で家族を失くした笘篠刑事は、殺された2人の被害者から共通項を見つけ出して、利根を追い詰める。が、決定的な証拠がないまま、第3の事件が起きようと…。

文:横森文

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子どもに見せたいオススメ映画

『エターナルズ』

愛を持つことの大切さを問うエンターテイメント作

(c)Marvel Studios 2021

世界を7000年間守ってきたエターナルズ

(c)Marvel Studios 2021

世界には不思議なものがたくさんある。エジプトのピラミッドやスフィンクス、ナスカの地上図、日本の遮光器土偶…。

どうしてこんなものが技術的にまだそこまで優れていなかったはずの太古に作ることができたのか。猿から進化したと言われる人間だが、同じ仲間であったろう猿と比べると、その文明の発達ぶりは考えて見れば驚異的である。

映画『エターナルズ』では、その問題にある種の答えを出している。それが地球の10人の守護者たち、エターナルズの存在だ。

(c)Marvel Studios 2021

7000年間、人類を見守り続けてきたというエターナルズ。人類の危機のために立ち向かってきた彼らは、一度はその危機が去ったために解散。が、新たな脅威のために再び結集して立ち上がることになる…というのが、おおまかなストーリー。
人類が様々な文明を発展させてきたのも、彼らの入れ知恵があったから…と言う設定だ。

もちろんこれは「アイアンマン」や「スパイダーマン」などを生み出したマーベルの新作であり、原作はアメコミ。思いっきり絵空事ではあるのだが、実際にこういう存在があったのではないかと思いたくなるほど、設定としてよくできている。
というより、彼らのような存在がいないと、広い世界で同時多発的に文明が花開いたことに対して、説明がつかないからだ。

文明をちゃんと使えるかどうかは人間次第!

(c)Marvel Studios 2021

しかも『エターナルズ』の面白いところは、文明を生むキッカケを与えているのはエターナルズの面々でも、それをどう使うかは人間にまかされた、と描いたところ。与えられた情報を活かすも殺すも人間次第。だが果たして今の人間たちが、文明の力をちゃんと理想通りに駆使していると言えるだろうか。

そう思ってしまったのは、原爆投下直後の広島が映るシーンにある。見渡す限り、灰に覆われて、人っ子ひとりいない世界。そこに文明を人間に与えたことを後悔しているエターナルズがいる。
そうなのだ。どんな素晴らしい技術であっても、それを人間は必ずしも良い方向で使うわけではない。欲のために、自分の儲けのために、時には自然を汚し、動物たちを絶滅に追い込む。身勝手でワガママな存在。それが人間というものなのだ。

(c)Marvel Studios 2021

そんな私達は神ともいうべきエターナルズに守られるべき価値があるのか。そんな自問自答をしたくなるような作品に本作はなっている。
そしてエターナルズはエターナルズでまた、いろいろ問題を抱えており、誰しもが間違いを犯す可能性を示唆しながら、それを正すためには愛を持って赦すことだということを、この映画はしっかりと魅せていく。

エターナルズの面々が様々な人種であり、中には同性愛者なども。つまり人間の縮図となっており、そんな彼らの生き様も見ているといろいろ考えさせられる。
最終的には懸命に生きることの大切さ、協力することの大切さをも感じさせるマーベル映画。是非中学生や高校生に見てもらいたいステキなエンターテイメント作だ。

『エターナルズ』
監督:クロエ・ジャオ 出演:ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン、アンジェリーナ・ジョリーほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
全国公開中
(c)Marvel Studios 2021

文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

最近では新潮社主催の新潮講座で演劇の戯曲講座を2020年4月から開設。

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