2020.12.23
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『大コメ騒動』 民衆の視点で米騒動の発端を描く面白ドラマ

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は『大コメ騒動』と『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』をご紹介します。

米騒動はどうやって起きたのか!?

米騒動。この言葉を聞いて筆者が思い浮かべたのは、「日本史で習ったな」という薄ぼんやりとした記憶だ。正直、この『大コメ騒動』を観るまでは、歴史のいち事件としかとらえていなかった。

映画の中で描かれるのは、今やアニメ『鬼滅の刃』で注目を集めている大正時代を舞台にした、富山県のある小さな漁村での物語。

米の価格が高騰し、暮らすのが難しくなってしまった漁村の台所を預かるおかか(母親)たちが、なんとかしようと右往左往するうちに、その騒動が「米騒動」として全国的に広がっていくというストーリーだ。


ではなぜ米の価格が高騰したのだろう?

それは時代が大きく関わっている。

第一次世界大戦後の好景気に沸き返っていた大正7年、1918年は大正浪漫の華やかなりし頃でもある。都市には新中間層(ホワイトカラー)が生まれ、白米の消費が大きく伸びた上に、シベリア出兵の噂もあって、米の値段があがってしまったのだ。

しかも劇中から引用すれば舞台となった漁村の男性たちは1日に1升もの米を消費したとか。女性でも8合は食べていたというから驚くではないか。肉や魚などの摂取が少なく、穀物類を主体に摂るという時代があったのだ。

糖質ダイエットブームの現代では考えられないが、それだけ米は食事の中心であり、欠かせないものだった。

富山では男性が漁で時には数ヶ月帰ってこないこともしばしば(実はかつて北方領土に日本人が住んでいた頃、富山県出身者が多かったそうだが、そういう漁業繋がりで住んでいたのだろう)。留守を預かる浜のおかかたちは米俵を担いで浜にある船まで運ぶ作業で日当をもらい、それを米代に当てていた。そんな中、日当以上に米が値上がりしていくのだ。背中の皮が擦り切れるような思いをしながら頑張っているというのに、浮かばれないとはまさにこの事。しかも新聞には富山の米は北海道に送られるため、蔵にも米がなく値段が高騰していると書かれていた。

毎日、辛い思いをして米を運んでいるのに米が蔵にない!? 思うように食べられない!?

そこでおかかたちは「米を旅に出すなー」と米の積み出しの阻止を始める。これはもう生活苦から来る当然の抗戦だ。もちろんそんなことはそう簡単にはまかり通らず、失敗に終わる。でもこの出来事が「暴動」として地元の新聞記事に取り上げられたことで、大阪の新聞記者が取材にまで来ることに。

そしてそんな折、シベリア出兵の噂が流れて、さらに米の値が釣り上がり、ついに今までの倍の金額に。そこでおかかたちは一丸となって、町の権力者にお願いに行ったり、米屋に押しかけたりとできることを手当たり次第に始めていくのだ。

こうした動きが広まって大正の米騒動が勃発していく様を、あくまでも庶民の視点で、時に面白おかしく、時にシリアスに語りあげていくのがこのドラマなのだ。

映画を見ていて感じることとは?

映画を観ていてまず思うのは「声をあげることの大切さ」だ。自分が思うことをちゃんと意見として出すことは、とても大切なことだ。意見を出し、その意見を聞く耳を持つ。これが「社会」を回していくのにはとても重要なこととなる。

もうひとつ思うのは「行動することの大切さ」だ。どんなに心の中でアレコレ思おうが、行動に移さなければ無意味になってしまうことはたくさんある。

このふたつが映画を見ていると胸に迫ってくる。でも例えば、自分の身に置き換えた時、あなたははたしてそれをやっているといえるだろうか。

例えば世間の目などを気にして親ならば子どものやりたいことを妨げたりはしていないだろうか。また子どもたちは逆に自分の言いたい事を我慢して言わないようにしたりはしていないか。あるいは失敗を恐れて、行動に移すことをためらってはいないだろうか。あるいは何に対しても無関心で、自分には関係ないことだと切り捨てて考えたりはしていないだろうか。

実は浜のおかかたちにも、そういった問題点が見えるのである。

浜のおかかたちを先導しているのは、清んさのおばばと呼ばれる、室井滋演じる強気で口調も荒い老女だ。実はおかかたちの中には、本当に家計が苦しいのではなく、あとでおばばになんやかんやと言われるのが嫌で付き合って騒動に参加しているものもいる。皆が行くから私も行くというものだ。実はこの発想は今でもいろいろなところで見られる。

例えば最近ならば千葉県ではまぐりが大量に打ち上がる出来事があった。勝手に獲るのは禁止だが、実際はたくさんの人達が浜辺ではまぐりを拾い上げた。それを咎められると、「だってみんなやっているじゃない」と不服そうに語るおばさんがテレビの某番組に映っていた。みんながやるからやるのか。では皆が人を殺したら自分も人を殺すのか。究極にな言い方だけれども、つまりはそういう事なのである。

映画を通して見えてくる日本人像

浜のおかかたちの一部は本気で値段を高騰させず、今まで通りの値段にしてほしいと願っている。別に無料で欲しいと言っているわけでもなければ、日当をもらうための辛い作業なんぞ御免だと言っているわけでもない。至極真っ当な請求をしているだけだ。

だがただ物事にのっかっているだけの“烏合の衆” たちは、自分が本気で考えて行動しているわけではないから、清んさのおばばが警察に捕まってしまうと、たちまちきびすを返してしまう。シュプレヒコールをあげていたことを忘れたかのように、米騒動に参加しなくなってしまう。  

それは脈々と繋がる日本人の“悪い部分”なのではないだろうか。

人と違うことを不愉快に感じて同じ考えを求めたり、異端さを感じると日本人は極力排除しようとするか、清んさのおばばのように強い相手だと感じるとその人に逆らわないようにする。自分の意見をしっかり持ち、自分の考えを口にしたり、ちゃんと行動として表せる人ならば、そんな中途半端なことはできないはずなのだ。逆にいえば、そうやって自分の意見を持って行動できる人ならば、他人のこともしっかり認めることもできるのではないだろうか。もちろん瞬間的に意見の合わない人とトラブルこともあるだろうが、それが永遠のように長く続くとは思えない。

この映画には他にも日本人の嫌な面が映っている。それは井上真央演じる主人公のいとを、皆が避ける場面。清んさのおばばが収監された後、それでも米騒動を続けようとしていたいとに邪魔が入る。それは米屋のおかみからの一声。米騒動から手を引けば、いとの家だけは安い値段で米を分けるというのだ。その時に米屋のおかみは、米騒動に参加しているおかかの中で本当に苦労しているのは、いとの家ともうひと家族くらいだと言い、他はそこまで家計がひっ迫していないから、みんなも分かってくれるはずだというのだ。子どもたちにしっかり食を摂らせたいと考えていたいとは、その条件を苦渋の末にのんでしまう。だがそれが周囲の反感を買うことになり、いとは皆から無視されることに。

自分たちに意志がなくて流されているのに、

他人の状況は理解しようとせずにただ恨む。

その時も相手に意見をぶつけるのではなく、

『無視する』という最も最悪のパターンを取ってしまう。こういうある意味、意地悪い方法を取ってしまうのも、本当に『日本人の悪さ』だろう。

後悔しないような声上げを、行動を!!

そう、つまりこの映画は、大正時代の米騒動を通して、実は『日本人』の本質を描き出すのだ。

意見を言わない分、辛抱強く、時には相手を心から信頼したり、情に弱かったりする日本人。短所の裏には長所もある。この映画はそういう日本人の良さと悪さをしっかり描いた上で、逆に私達にも問いかけてくる。現代という時代で、未だに成長もせず、同じことをくり返していませんか…と。それに関して、ハッキリと「成長しています」と言い切れる人は少ないだろう。

さらにこの映画は、背景にあるシベリア出兵を通して、戦争反対という思いなども届けている。おかかたちが米の運送を阻止することは、戦争を止めることにも繋がるからだ。

行動することは、予想以上の反響を返していく。でも行動しなければ、何の反響も起きやしない。

何もしなくて後悔するより、何かして後悔するほうがよっぽどマシ。自分の考えを持って、信念を持って進む勇気を、この映画は後押ししてくれる。

Movie Data

監督:本木克英 出演:井上真央、室井 滋、
夏木マリ、立川志の輔、左 時枝、柴田理恵ほか
配給:ラビットハウス、エレファントハウス
2021年1月8日(金)より、全国ロードショー

(C)2021「大コメ騒動」製作委員会

Story

1918年(大正7年)8月、富山の漁村に暮らすおかか(女房)たちは、日々高騰する米の価格に頭を悩ませていた。困ったおかかたちは、米を安く売ってくれと米屋に嘆願に行くが失敗。おかかたちのリーダーである清んさのおばばが逮捕されてしまう。そんな中、ある事故をきっかけに、我慢の限界を迎えたおかかたちがついに行動に出るのだが…。

文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』

ネコの家族愛と生活を通して、『生』を感じる感動作!!

ネコの目線で見るネコたちの物語

動物写真家として活躍する岩合光昭。そんな氏が世界中を飛び回り、世界の街角にいるネコたちを撮影してきたNHK BSプレミアムの人気番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」の劇場版第2弾となるのが本作だ。

テレビ版でもどうやってこんな風にネコの生活を撮影できるのか、不思議になるくらいに世界中のネコたちの生き様がとらえられているが、この劇場版ではさらにすごいところに踏み込む。

今回紹介されるのは、北海道の牧場に住むネコ家族と、ミャンマーのインレー湖の湖上に建つ小さな高床式家屋で暮らすネコの家族。以前に岩合氏に直接インタビューをした時は、テレビ版の場合、ひとつの国で10日間前後の時間をかけて撮影していると語っていたが、今回の劇場版は季節の移り変わりもおさえつつ、ネコ家族の生活に肉迫。時間をかけてじっくりと撮影しているだけあって、これまで以上にネコたちそれぞれの成長が見てとれる作品となっている。まさに映像の「シートン動物記」といった感じ。

人間と同じような家族愛を見せるネコたち

牛たちが吐く息が、まるでホームについた蒸気機関車のように白い煙となって立ち込める中にたたずむネコ。そんなシーンから始まる北海道編では、同じ牧場に住む2つのネコ家族を追っていく。このネコ家族同士は正直仲が悪いようで、全く交流がないし、時にはケンカとなることも。同じネコ同士が対立する場面がある一方、ネコと牛がじゃれ合うようなシーンなどもある。種を超えて仲良くする様を見ていると、本当に警戒心とか相手を憎むとかの邪念がなくなれば生物はどんな相手であろうとも仲良くなれるのではないかという気になってくる。

また一方のネコ家族には、いつまでたってもひとり立ちしない息子ネコがいる。かなり臆病ですぐに母ネコの陰に隠れたりする。この息子ネコが初めて牧場を出るが、また帰ってきてしまう。そうすると母ネコは文字通りネコ可愛がりで息子を迎えるのだ。なるほどダメ息子の陰には甘やかすダメ母親がいるのであって、それは人間の世界と大差ない。そう、ネコたちを追っていると、自然と人間たちの関係性にもダブるところが出てくる。

ミャンマーのロケでも驚くべきシーンがある。子ネコがうっかり湖水に落ちてしまうのだが、その時に母ネコはなんと必死に手を伸ばすのだ。その必死さが伝わってきてなんだかその親子愛に胸がキュンとした。我が子の危機にはネコだって必死になるものなのだ、 また水の上に建つ家に暮らしているだけあって、ネコたちはみんな泳ぎがうまい。ネコが水嫌いなんてデマなの!? と思うくらいで、ネコによっては家からぴょんと湖水に向かって飛び込むヤツも。こういう姿を見ると生き方や生きる場所によって、様々なことにトライして順応していく「たくましさ」を感じてしまう。

力強く「生きる」ネコたちを見て!!

そう、この映画から一番感じることは、そういった「生きる」という最もシンプルな力である。人間はつい様々なことで、「あー、もうダメだ」とか「死んでしまおう」とか、時には簡単に考えてしまうことがある。でもネコたちの力強く生きている様を見ていると、なんだか頑張って生きようという気になる。

さらに言うと、ネコを通した先には牧場で働く人達の大変な仕事ぶりや、ミャンマーの湖上生活を送る人々の生活ぶりまでもが薄ぼんやりと見えてくる。で、結果的にはすべての生き物は必死に生きていて、その生きようとする前向きなパワーは素晴らしいものだということが自然と心の内に落ちてくる。この感動は正直説明が難しい。けれども観てくれる人には必ず伝わると思う。

是非小学生から中学生の子どもたちに、この映画は観てほしい。どんな小さな生き物にも命があり、必死に生きており、素晴らしい家族愛や絆を持っていることを、この映画で感じとってほしいからだ。それを他の生き物にも感じ取ることができれば、いじめとか、そういう問題は起こらなくなるのではないだろうか。

『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』

撮影・監督・語り:岩合光昭 ナレーション:中村倫也
配給:ユナイテッド・シネマ
2021年1月8日(金)より、全国ロードショー

http://nekoaruki-movie2.com/

(C)「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き2」製作委員会  (C)Mitsuaki Iwago

文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室やライター講座を展開。

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