2018.10.10
  • twitter
  • facebook
  • google+
  • はてなブックマーク
  • 印刷

『体操しようよ』 定年お父さんの第二の人生を描く

人は何があっても自分の居場所というのを求めたがる。
子供の頃は学校という場所に、あるいは部活動に、友だちとの輪の中に。大人になればなったで、会社や家庭、あるいは趣味の集まりなどに自分の居場所を探していく。でももしそんな場所を見つけることができなかったなら!?
今回紹介する『体操しようよ』は、そんな自分の居場所や誰かとの絆を求める淋しい大人たちの姿が描かれる物語だ。簡単に言えば、ラジオ体操をして出会った人達同士の友情物語であり、ラブストーリーであり、胸にちょっと刺さる家族ドラマにもなっている。

突然娘からの“親離れ”宣言

主人公となるのは草刈正雄扮する佐野道太郎という男性。老舗の文具メーカーでサラリーマンとして働いてきた彼は、無遅刻無欠勤で38年間務め上げ、定年を迎えるところ。
まさに“真面目”が服を着て歩いている感じだ。が、おそらくそこまで人望がなかったのだろうなあというのは、送別会で見てとれる。なにしろ彼が懸命に最後の挨拶をしているのに、耳を傾けているのは佐野の近くに座っていた4〜5人だけ。あとはもう自分たちのおしゃべりに夢中で聞く耳なんざ持ってやしないのが見てとれるからだ。

というとなんだか良い人なのに可哀想とも取れるが、それは佐野自身の性格にも問題がありそうなのである。

その前にもう少し彼について語っておくと、妻には18年前に先立たれ、以来、30歳になる一人娘の弓子(木村文乃)が、家事をすべて行ってくれていた。しかしどうやら彼女ともコミュニケーションがうまくいっていないようで、定年して帰ってきた日に、家事からの独立宣言をされてしまう。「定年したのだから、これからは家事はご自分でどーぞ…」というわけ。

見ていると弓子が、相当に父親を疎んじているのが伝わってくる。そこまでこじれてしまうほど彼が日々のコミュニケーションを取らなかったのだろう。そう確信できるのは道太郎が本当は目に入れても痛くないほど弓子を愛しているのに、それを全く表現できていないから。例えば道太郎は弓子の成長を直筆の可愛らしい画で描き上げているのだが、それを見せようとしない。自ら娘に喋りかけたとしても本音を語ることはあまりない。しかも酔っ払って夜遅くに帰ってきて、水を頼んだ時に嫌がられると「昔は優しかったのに…」とグチグチ。

私達はこの映画を見て初めて道太郎という人物を見ているから興味を持てるけれど、これが四六時中一緒にいる家族となると確かにちょっとシンドいかも…と思ってしまう。

そんな道太郎のコミュニケーション下手な性格は、ラジオ体操で出会った気になる女性・のぞみ(和久井映見)に対しても発揮される。彼女と話す時には、まあ驚くほど力を込めて肯定しまくる。それは逆にいえば自分の気持ちを殺すことにもなり、自分の本音を少しも見せようとしないのだ。

こんな道太郎だから、会社はもちろんだけれど、家庭にも居場所を見いだせなくなる。で、たまたま出会ったラジオ体操会に顔を出していくようになり、そこにのぞみがいたということも大きいが、自分の居場所を発見した気になったのだ。だからラジオ体操会に対してひと肌もふた肌も脱ぎたくなってしまう。

ラジオ体操はコミュニケーションに役立つ!?

ラジオ体操会の良さは、アクセクと体操するのではなく、あくまでものんびりと無理をせずに楽しむこと。しかしその楽しむ感覚を忘れ、もっとラジオ体操がうまくなるように余計な熱血指導をしたりして、かえって参加者からの反発をくらってしまい、結局は大好きなのぞみを悲しませることになってしまう。

まあ、それもコミュニケーション下手ゆえの悲劇。なかなか相手の立場に立てず、空気も読めない。だから自分を中心とした輪を作りにくく、その結果自分の居場所をうまく作ることができない。

例えば今回の映画だと、皆がいる前で道太郎と弓子親子が本音で怒鳴り合ってしまう場面がある。こうすることで周囲がどうなるか。それが想像できれば、あんなところで怒鳴りあったりはできないはずだ。つまり逆にいえばコミュニケーション下手は、相手の立場に立てない=自分勝手=自分が見えてない…という風にも繋がっていくわけで、自分で自分とちゃんと向き合うことから始めれば、もしかしたらすごく変われるかもしれない。この映画はそんなことも考えさせてくれる。

ちなみにこの様々なドラマを生むキッカケとなったラジオ体操は、もともとは旧逓信省簡易保険局(現在の㈱かんぽ生命保険)が制定した「国民保健体操」がベースになっているのだそう。1928年に東京中央放送局(現在のNHK)で放送されたこの体操が、発展して今のような形になっていったとか。ちなみに夏休みの朝のラジオ体操が定番となったのは、1930年頃だという。そして地域コミュニティの活性化にも役立つということで、どんどん根付いていったそう。もともとラジオ体操自体が、コミュニケーションに役立つものなのだ。そういう意味ではラジオ体操をキーにしたのは、大正解だったといえるのではないだろうか。

Movie Data

監督:菊地健雄 出演:草刈正雄、木村文乃、きたろう、渡辺大知、余貴美子、小松政夫、平泉成、和久井映見ほか
配給:東急レクリエーション
11月9日ロードショー
(C)2018「体操しようよ」製作委員会

Story

佐野道太郎は定年退職を迎えたシングル・ファーザー。が、退職したその翌日に愛娘の弓子から親離れを宣言されてしまう。自分の居場所を失った道太郎が始めたのはラジオ体操会への参加。そこで出会ったのが、会のマドンナであるのぞみ。彼女に惹かれた道太郎は彼女に勧められるがままに便利屋にも就職。かくして思いがけない第2の人生が始まる。

文:横森文/写真提供:東急レクリエーション

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

『ルイスと不思議の時計』

舞台は1950年代のアメリカ。弱々しくて、他人とのコミュニケーションを取るのが下手だった10歳の少年ルイス。両親を亡くして叔父のジョナサンの屋敷で暮らし始めるが、ジョナサンは実は魔術師で、しかも家の中には、かつてこの屋敷に住んでいた恐ろしい魔術師が隠したとある秘密が息づいていた。それが家の中に隠された時計。実はその時計は世界を破滅に導くパワーが込められていた。そんな時計の謎を解く冒険で、ルイスは大きく成長していく。

そう、これは典型的なジュブナイル小説を映画化したもので、ファンタスティックな物語。というと大ヒットした『ハリー・ポッター』シリーズを彷彿としてしまうが、正直この映画は『ハリポタ』より子供たちにとってはかなり悪夢的だ。なにしろ監督がイーライ・ロス。『キャビン・フィーバー』『ホステル』など、次世代のホラー映画を担う監督として注目を集めてきた人物。だから怖いシーンは加減なく怖い。もちろん子供でも観れる最低の配慮はあるけれど。ただこのくらい怖いほうが、今の子供たちには戒めとなってよいのかもしれない。

というのも今回大騒ぎとなる原因はルイスが叔父との約束を破って、絶対開けてはならない扉を開けたため。しかも理由が友だちに嫌われたくなくて。友だちのためなら禁じられたことでも犯してしまうのは、現代でも共通の話だ。例えば友だちにやれと言われたから万引きをやるとか。そんなことを要求するのは実際は友だちなんかではないのに…。そういうことをちゃんと教えてくれるのが本作。悪いことをしたらどうなるのか。非常にシンプルなことを教えてくれるこの作品は、是非小学生、特にルイスと同じ10歳くらいの子にしっかり観て感じてほしい作品だ。

監督:イーライ・ロス
原作:ジョン・ベレアーズ
出演:ジャック・ブラック、ケイト・ブランシェット、オーウェン・ヴァカーロ、カイル・マクラクランほか
配給:東宝東和
10月12日(金)より、全国ロードショー

(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO.,LLC

文:横森文/写真提供:東宝東和 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。また、2012年4月より京都精華大学 マンガ学部にて非常勤講師を務める。

pagetop