2014.12.16
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意外と知らない"教育委員会制度"~変わる教育委員会制度(vol.3)

前2回では、平成27年4月に施行される「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第76号)」(以下、新地行法)の内容について説明しました。最終回の3回目は、今回の制度改正で新たに創設された「総合教育会議」の検討内容と、本改正が我々にもたらす影響について説明します。

新設された総合教育会議の役割

地行法の改正に関しては、平成26年7月17日付で文部科学省初等中等局長から首長及び教育委員会宛で事務連絡が発出されています。具体的には前回までに述べた制度改正の4本の柱についての解説ですが、今回新たに登場した「総合教育会議」の役割についても詳細に記載されています。 総合教育会議は首長のみならず、教育委員会の側からも招集を図ることが可能となっていますが、この事務連絡には、「招集を図る場合」の具体例が示されており、「教材費や学校図書費の充実」、「ICT環境の整備」等、「政策の実現に予算等の権限を有する地方公共団体の長との調整が特に必要になる場合」が挙げられています。 更に、「想定される協議事項」として、「予算の編成・執行権限や条例の提案権を有する地方公共団体の長と教育委員会が調整することが必要な事項」が挙げられています。 つまり、教育委員会には予算執行権そのものは無いものの、「調整事項」として予算計画の策定等に関与することができるようになりました。これは非常に大きな進歩で、教育行政に精通した教育委員会ならではの視点が予算策定にも生かされることが期待されています。

今後の教育委員会制度

前回、今回と書いてきたように、本改正では、教育の政治的な中立性は引き続き担保しつつ、民意を反映した首長の責任・役割が明確になると共に、諸課題に対して迅速な対応、調整を図ることが可能なものとなっています。

例えば、いじめ問題等が生じた場合、今までは首長は関与することが出来ず、教育長も教育委員会を主催することが出来ず、非常勤の教育委員長が教育委員会を招集し、(民意が反映された)首長の関与が無いまま、教育長を中心に対応が図られるといった具合でした。これが改正により、常勤の教育長が速やかに教育委員会を招集し対応を図ると共に、首長の判断により総合教育会議を設置して対応を検討するといった迅速な対応が図られることになりました。

ただ、教育長に責任と権限が集中することが妥当なのか、首長の責任と役割を明確にするだけでこれから起きるであろう諸課題に対応できるのかといった疑念も残りますし、形骸化した教育委員会を抜本的に改革するためには、首長に教育行政の執行権をも移管するべきだという意見もあります。また、文部科学省からの事務連絡にもあるように、教育委員会事務局の職員の資質能力の向上や事務局体制の強化は大きな課題となってきます。これらの疑問や意見、課題に対してどのように対応していくかは、今後の制度の進展と共に我々も慎重に見守っていく必要があります。

教育行政の権限と責任が集中する教育長は、首長が任命します。ということは、首長を選出する我々有権者にとっては、選挙を通じ教育に間接的に携わることになります。例えば、首長選挙候補者Aが「地域の私教育(塾等)との連携による学力向上」、Bが「徹底した教員研修の実施に伴う公教育の質の向上」を掲げるなど、教育政策が選挙の争点になる場合もあるかもしれません。

いずれにしても教育長を選ぶのが首長で、その首長を選ぶのが我々住民である以上、これまで以上に教育行政に対し我々一人一人が意識して向き合う必要があります。その意味で、今回の改正は教育制度のみならず我々の教育行政に対する意識をも改革する可能性がある「抜本的な改革」と言うことができるでしょう。

≪おわり≫

参考資料
  • 文部科学省「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 志儀孝典

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