2026.09.28
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もっと知りたい"教育データ利活用"(第2回) データを「次の一手」につなげる――日常の活用からCBT・AI、研究の最前線まで

第1回は、教育データ利活用を「何のために」「どのように」「何を用いて」という3つの問いで整理しました。第2回は、事例をもとに、データ活用を日常の業務や授業の動線に組み込む方法、CBTやAIなどの最新技術の活用、さらにその先で学習過程を捉える研究を見ていきます。

無理なく続ける仕組み:データ利活用を「日常の導線上」にのせる

■毎日のデータ入力の習慣化と学校全体での確認体制づくり

データ利活用システムの導入は、先進的な自治体による実証フェーズから、少しずつ普及フェーズに入ってきました。しかし、せっかくダッシュボードなどを構築・導入しても、使われなければ意味がありません。文部科学省の実証事業結果のまとめにも、日常的な活用のためには、「日常業務の導線上にシステムを存在させることが非常に重要である」と書かれています。

文部科学省は2023年に「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」を取りまとめており、その中で小さなSOSを見逃さず、早期に気付いて「チーム学校」で支援するための方策の1つとして、1人1台端末を活用した健康観察の推進を挙げています。2023年2月の調査で、アプリ等を用いた把握を行っている市町村:411、今後アプリ等の活用を検討している市町村:580とあります。

このような取組の1つに、横浜市の1人1台端末と教育ダッシュボードを活用した取組があります。児童生徒は、毎朝、朝読書の前に自分の端末から健康観察の回答を入力します。朝の会の終わりごろに、管理職、教務主任、児童支援・生徒指導専任の先生方が全校分の回答を確認し、気になる記述があった子については、担任に確認します。この運用により、担任が朝の会後にすぐ授業があり、しばらく確認できない場合も、漏れがありません。このように、データ活用を無理なく続けていくためには、回答の習慣化と学校全体での確認体制づくりといった、データ収集と活用を児童生徒と先生方の「日常の導線上」にのせる仕組みづくりが大切です。

■月1回の定例のミーティングにデータ活用を組み込む

定期的なミーティングにデータを確認する場面を組み込むことも、データ活用を日常の動線に載せるもう一つの方法です。

戸田市立喜沢小学校では、市の教育総合データベースと学校独自の支援記録などをダッシュボード上で共有し、月1回の授業改善検討会「RTIミーティング」で活用しています。RTI(Response To Intervention)とは、「支援への反応」という意味で、前回のミーティングで考えた手立ての効果を、単元テスト、学力・学習状況調査、学習の振り返り、教員の記録などのデータから検証し、学級・学年全体の傾向を捉え、次の支援策を調整・検討して授業で実施するというスキルアップのサイクルを回しています。

全体的な支援(第1層)では効果が十分に得られない児童は、第2層・第3層の追加支援につなげます。個別性の高い第3層の行動支援については、週1回、15分程度の「サポートミーティング」を行い、応用行動分析のABCフレームを取り入れています。行動の前の状況(A)、行動(B)、行動後の結果(C)から背景を考え、支援策を実施した後、約2週間後に変化を確かめて見直します。

教員からは、経験の少ない若手教員もデータを見て気づいたことを発言できること、記憶や思い込みではなくデータに基づいて話し合えることや、教材研究、授業づくり、児童理解の視野が広がったことが成果として挙げられています。

学力調査のCBT化でプロセスが見える

■解答時間データの活用

CBT(Computer Based Testing)では、解答内容と正誤だけでなく、各問題のページを表示していた時間や、解答入力後に修正したか、最後の問題まで進んだ後に、前のページに戻って見直しをしたかなど膨大なデータを取得することが可能です。このようなデータを分析できれば、児童生徒がどこで迷い、どのように解き直したのかを捉え、本人への声掛けや指導に生かすことができます。

2024年度から県の学力・学習状況調査をCBTで実施している埼玉県は、解答時間のデータの活用にも取り組んでいます。正誤の状況に加えて解答時間等の情報があることで、児童生徒が困った・迷ったと考えられる問題や、時間をかけた領域を把握することができます。ある問題に、多くの児童生徒が県平均より時間をかけていれば、授業中に取り上げて復習することができます。また、正誤・解答時間・見直し時間の一覧で、気になる児童生徒を見つけた場合は、一人ひとりの個別の帳票を確認し、時間配分や見直しの仕方など指導のポイントを見つけることもできます。

毎年4月にすべての小学校6年生・中学校3年生を対象に実施されている全国学力・学習状況調査も、来年2027年度から全教科CBTで実施される予定です。今後、解答プロセスのデータも可視化されるようになるかもしれません。

■解答プロセスそのものを評価

さらに、「CBTならでは問題」を出題できる特徴を活かして、プロセスそのものを評価する活用も進んでいます。OECD(経済協力開発機構)が15歳を対象に実施している学習到達度調査(PISA・Programme for International Student Assessment)でも、古くは2012年からログデータを活用した調査に取り組んでいます。PISA2012の「エアコン」の問題では、最終的な解答が誤っていても、操作ログから、一度に一つの変数を変えて結果を確かめる体系的な探索方略が確認できれば、部分正答として評価されました。

さらに、先日結果が公表されたPISA2025では革新分野の調査として、「ラーニング・イン・デジタルワールド(LDW)*」の調査が行われました。その公開問題の一つが「リサイクルクレーン」です。この問題では、生徒がブロック型プログラミングを使ってクレーンを動かす方法を学び、フィードバックを受けながらプログラムを修正します。最終的な正誤だけでなく、プロセスデータに基づいて自動的に評価・採点することで、「何を知っているか」に加え、「新しいことをどのように学び、試し、修正したか」を捉えようとしています。

*LDW全体は「コンピュテーショナルな問題解決能力」と「自己調整学習」の2要素から構成され、「リサイクルクレーン」は、主として前者を具体的に示す問題です。PISAのページで試すことができます。

AIによる支援

■3つの可能性

生成AIの登場は各分野で大きな影響を与えていますが、教育データ利活用も例外ではありません。少なくとも3つの影響を与えると考えられています。

  1. データ分析可能性の拡張
    従来のラーニング・アナリティクス(LA)の分野では、クリックログ、解答履歴、教材閲覧履歴、成績など、比較的構造化されたデータが多く扱われてきました。生成AIを用いることで、学習者の記述、レポート、振り返り、対話、画像、音声、動画など、従来は分析が難しかった非構造化データを扱いやすくなる可能性があります。これにより、正答率や学習時間だけでは捉えにくかった、思考の過程や表現の変化、協働の様子などにも目を向けやすくなり、従来からLAの課題として指摘されていたLAの街灯効果*の克服に寄与すると考えられます。
    *街灯効果とは、探し物を「落とした場所」ではなく「街灯の下の明るい場所」で探してしまう、という比喩。LAに置き換えると、本当に学習が起きている場所や、学習を理解するうえで重要な現象ではなく、ログが自動的に残り、分析しやすい活動のみが分析対象となりがちであることを指す。
  2. 学習データそのものの拡大
    生成AIが学習に使われるようになると、学習者がAIにどのような問いを投げかけたのか、どのようなフィードバックを受け取り、それをどのように修正に生かしたのかといった対話ログや編集履歴が、新たな学習過程のデータになります。こうしたデータには、学習者の理解、つまずき、意図、自己調整の様子が表れる可能性があります。
  3. データ理解支援の拡大
    従来のLAダッシュボードは、データをグラフや表で示すことが中心でした。このため、多忙な日々ではなかなか日常業務の動線に乗らず、またデータを読み取って解釈し、意思決定に活かすデータリテラシーも求められました。しかし、生成AIの登場により、学習データの傾向や注目すべき点を示したり、複数の解釈の可能性や次の支援案を提示したりすることが自然言語でできるようになりました。これにより、教員や学習者によるデータ活用が促進されるとともに、AIと対話しながらデータの意味を考える、新しいLAのインターフェースも考えられます。

■国内でも実システムへの搭載・試行が始まる

こうした可能性は、すでに国内の教育システムや自治体の試行にも現れ始めています。教育ダッシュボードとAIによる支援には、データから注目すべき児童生徒を絞り込むものや、複数のデータを要約・解釈し、次の対応を考える材料を示すものがあります。

学習eポータル「まなびポケット」には、校務データと学習データを統合して表示する教育ダッシュボードが搭載されています。朝に確認すべき児童生徒を示すピックアップ機能、気になる児童生徒を継続的に確認するピン留め機能、指定した期間・データから変化や傾向を総括する「AIレポート」などを備えています。

文部科学省の2025年度実証研究では、鹿児島市がこのダッシュボードに、出欠、保健室利用、心の健康観察、定期テスト、授業の振り返り、MEXCBTや質問紙などの情報を連携しました。教員からは、朝の短時間の確認によって、それまで見えていなかった児童生徒の状態や変化に気づき、声掛けや教職員間の連携に生かせたとの評価がありました。また、大量のデータから特徴を絞り込み、学校平均や市全体との比較によって、経験や印象に基づく見取りを客観的なデータで補えることも評価されています。AIレポートは、情報の要約に加えて考えられる要因や対応の方向などを示し、管理職と教員が根拠に基づいて話し合い、次の支援を考えるきっかけになります。

一方、学習eポータル「tomoLinks」も、生成AIを活用した「先生×AIアシスト AIダッシュボード」を提供しています。出欠、学習状況、心の状態、端末利用状況などを分析し、注目すべき変化を「気づきカード」として教員に提示します。カードには、気づきの根拠、対応の優先度、次に考えられる行動も示されます。

必要に応じて、個人の状況を確認する「ひとりビュー」や、学級・学校全体の傾向を見る「みんなビュー」に移り、表示中のデータについてAIチャットに自然言語で質問できます。このように、教員がデータを一つずつ探して解釈するだけでなく、「気づく→ 根拠を確認する→ 深掘りする→ 行動を考える」という一連の流れを支援する設計です。京都市では2026年度に一部の小・中学校でこのAIダッシュボードの試行を開始しています。AIの提示は教員の判断を代替するものではなく、根拠となったデータを確認し、日常の見取りと照らし合わせながら専門的な判断を行うための補助として位置付けられています。

これらの事例から、生成AIの登場により、教育ダッシュボードが、単にデータを並べる段階から、膨大なデータの中から必要な情報を絞り込み、教員の気づきや解釈を助け、次の行動を考える段階へ進みつつあることが分かります。

さらにその先の研究へ

■学びの過程をより細かく捉える

ここまで、様々な事例を紹介してきました。こうした技術の導入や試行が進む一方、研究の段階では、日々の学習中に生じる、さらに細かな過程をデータとして捉え、支援へつなげる試みが進められています。

その一例が、京都大学の緒方広明教授の研究室が研究開発してきたLEAFシステム*です。デジタル教材配信システム「BookRoll」では、教材を開く、ページをめくる、手書きで解答する、マーカーやメモを残す、クイズに答えるといった学習活動が記録されます。分析ツール「ログパレ」を使うことで、テストの正誤だけでは捉えにくい、学習中の迷いや考え方、着目した箇所などを分析することができます。緒方研究室では、このような日常的で細粒度のプロセスデータを活用し、学習者や教員への支援につなげる研究を進めています。

*LEAFシステムは、学習管理システム(LMS)、デジタル教材配信システム「BookRoll」、学習履歴データベース(LRS)、データ分析ツール「ログパレ」から構成されています。

■学習ログを日々の学びの中で活用する

LEAFシステムの活用事例とその効果は、国立教育政策研究所の調査研究で整理されています。

例えば、長期休暇中の課題の進捗と理解度を表示するダッシュボードは、学習者に対しては自分の進捗や理解度をクラス全体と比較して自己調整を行うこと、また教員は取り組み状況を確認して必要に応じてメッセージや補足教材を送るなどの調整を行うことをサポートします。

算数の実践では、手書きプロセスを可視化する機能を活用し、児童が問題を解く際の手書きの過程を再生し、どこから解き始め、どこで手が止まり、どのように考え直したのかを確認しています。完成した答案では消えてしまう迷いや試行錯誤がデータとして残り、支援や授業の調節に活用できます。

また、国語の実践では、児童が文章中の共感できる部分とできない部分にマーカーを引き、その結果を重ね合わせました。教員は、児童が注目した箇所や教員の想定とのずれを捉え、授業の展開を調整できます。このように、授業の中で教員が学習者にデータを提示し、一緒に確認しながら対話していく事例も多く見られました。

第1回や第2回冒頭で見てきた事例では、「共有」は教職員間で行う場合が多く想定されていましたが、この事例のように学習者と共有する活用も広がっていくかもしれません。

教育データ利活用は、データを蓄積する段階から、日常の教育活動に組み込み、学習の過程そのものを支える段階へ進もうとしています。技術が急速に発展し、普及が進んでいる今、データを取得すること自体を目的にせず、データをどのように返し、よりよい学びと次の行動につなげるかという視点が、一層重要になります。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 堀越 泉

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