2026.08.31
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意外と知らない"個別最適な学び" (第2回) あれから2年半、GIGAスクールはどうなった?

2024年3月公開の第1回では、「個別最適な学び」を「指導の個別化」と「学習の個性化」という二つの側面から整理し、最後に「GIGAスクール構想において整備されたICT環境と『個別最適な学び』の関係性も含めて、第2回で述べます」と締めくくりました。約2年半と少し間が空いてしまいましたが、今回はその続きとして、「指導の個別化」と「学習の個性化」に沿って、ICTとの関係を考えていきます。

「指導の個別化」

―デジタルドリル(AIドリル)や動画で、一人一人に合った学びを

この2年半の間にも、学校におけるICT活用は大きく進みました。1人1台端末やクラウドを日常的に使う学校が増え、デジタルドリル、共同編集、さらには生成AIなど、子どもたちが学習に使える道具も増えています。では、ICTを使うことで「個別最適な学び」は実現するのでしょうか。

もちろん、単に一人一人が端末を使ったり、別々の問題を解いたりすることが「個別最適な学び」ではありません。重要なのは、ICTによって、一人一人の状況に応じた学びを実現しやすくなったこと、そして子ども自身が「何を、どのように学ぶのか」を考え、学びを調整するための選択肢が大きく広がったことです。

令和4年度「義務教育に関する意識に係る調査」によると、8割以上の児童生徒が、授業は、友達と一緒に学ぶことができて楽しいと感じている一方で、約3割の児童生徒が、授業の内容が難しすぎると感じているそうです。前回の記事では、「指導の個別化」の例として、算数で一人一人の理解度に合わせた問題に取り組み、場合によっては前の学年の学習内容に遡りながら理解を深めていく学習を挙げ、AIドリルもその一つに当たると紹介しました。

紙のドリルでは、同じ学年の子どもたちが同じ問題に取り組むことが多くなります。一方、デジタルドリル(AIドリル)では、一人一人の学習状況に応じて問題を選んだり、理解が十分でなければ前の内容に戻ったり、理解している子どもは発展的な問題に進んだりすることができます。

例えば、同じ算数の時間でも、ある子はその時間の内容を繰り返し練習し、別の子は前の単元に戻ってつまずきを解消し、さらに別の子は発展問題に挑戦する、といったことが行いやすくなりました。

動画も同様です。教師による一斉の説明は基本的に同じペースで進みますが、1人1台端末で解説動画を見ることができれば、一度で理解した子は先に進み、もう一度確認したい子は見返すことができます。一時停止したり、再生速度を変えたりすることもできます。

このように、ICTによって、問題の難易度だけでなく、「いつ取り組むか」「何度取り組むか」「どのくらいのペースで学ぶか」なども一人一人に合わせやすくなりました。

さらに、選択肢はデジタルドリルや動画だけではありません。分からないときに教科書を読み直す、動画を見る、前の学習に戻る、教師に聞く、友達に聞くなど、子どもが自分の状況に応じて学び方を選ぶこともできます。

ただし、「全員、今から20分間デジタルドリルをしましょう」と指示し、提示された問題を順番に解くだけであれば、問題は一人一人に合わせて変化していても、子ども自身が学び方を考えているとは限りません。

前回の記事でも触れたように、大切なのはAIなどによって「個別最適化された学び」を与えてもらうことだけではなく、子ども自身が自分の理解度や学習状況を捉え、「今の自分には何が必要か」を考えながら学ぶことです。

ICTは、一人一人に応じた指導を実現しやすくすると同時に、子ども自身が自分に合った学び方を選び、調整するための道具にもなっています。

「学習の個性化」

―“マイ探究(個人探究)”とICT

もう一つが「学習の個性化」です。

前回の記事では、子ども一人一人の興味・関心等に応じて異なる課題に取り組み、子ども自身が学習を調整していくことを「学習の個性化」と紹介しました。

この「学習の個性化」を考える上で、現在注目したいのが「マイ探究(個人探究)」です。

実は、この「マイ探究」という言葉は、現在進められている次期学習指導要領の議論にも登場しています。

令和8年8月4日に示された中央教育審議会「生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ」の取りまとめ案では、探究を、課題設定における「学習者の裁量」という観点から、大きく「テーマ探究」と「マイ探究」に整理する案が示されています。

「テーマ探究」は、教師を起点として学年や学級で共通のテーマや課題を設定し、そのテーマを掘り下げる中で興味・関心を広げたり、見つけたりする学びです。それに対して「マイ探究」は、個人を起点としてテーマや課題を設定し、一人一人の興味・関心を深掘りしていく学びと整理されています。

例えば、総合的な学習の時間で「自分たちの地域をもっとよくする」というテーマを学んでいるとします。ある子は「もっと観光客に来てもらうには」と考えるかもしれません。別の子は「空き家を活用できないか」「地域のお祭りを残すには」「子どもたちが遊べる場所を増やせないか」と考えるかもしれません。

一人一人、これまでの経験も興味・関心も違うからこそ、そこから生まれる問いも違います。こうして、「何を学ぶのか」にも一人一人が表れてくるのが「学習の個性化」の一つの姿です。

また、「マイ探究=一人きりで探究する」という意味ではありません。中教審の整理でも、マイ探究は一人一人の興味・関心を深めると同時に、興味・関心等をベースとした協働を重視するとされています。

そして、このような一人一人の探究は、ICTによって取り組みやすくなりました。インターネットから文章、写真、動画、地図、統計など様々な情報を集める。フォームでアンケートを取る。表計算ソフトでデータを分析する。地域の人や専門家とオンラインでつながる。レポート、スライド、動画、Webサイトなど、自分の目的に合った方法で表現する。

ICTがあることで、「何を探究するか」だけでなく、「どのように情報を集めるか」「誰とつながるか」「どのように表現するか」についても、一人一人の選択肢が広がります。

教師にとっても、クラウド上で一人一人の問いや途中の成果物、振り返りを見ることができれば、異なるテーマに取り組む子どもたちの状況を把握し、必要な支援を行いやすくなります。

一方で、マイ探究は「好きなことを自由に調べていいよ」と任せればよいものではありません。中教審の議論でも、子どもに委ねるだけにならないよう、教師による適切な見取りや形成的な評価など、教師の役割の重要性が指摘されています。

自分の問いをもち、試行錯誤しながら、必要に応じて問いや方法を変えていく。ここにも、自分自身で学びを調整するという「個別最適な学び」と共通する姿があります。

「孤立した学び」にしない

―協働的な学びと他者参照

ここまで「一人一人」に注目してきましたが、「個別最適な学び」は、一人で学び続けることを意味するものではありません。前回の記事でも、答申では「個別最適な学び」が「孤立した学び」にならないよう、「協働的な学び」と一体的に充実させることが繰り返し示されていると紹介しました。

GIGAスクール構想によって、この「協働」の形も変わってきました。例えば、クラウド上に子どもたちの考えが共有されていれば、友達が考え終わって発表するのを待たなくても、考えている途中から他者の学びを見ることができます。

国語で文章を書いていて手が止まったとき、友達の書き出しを見る。社会科で調べる視点に困ったとき、友達が見ている資料を参考にする。算数で考え方が分からないとき、友達が図を使っているのを見て、自分も試してみる。このように、他者の学習状況や考えを必要なタイミングで参照することを「他者参照」と呼びます。

東京学芸大学の高橋純教授は、著書『学び続ける力と問題解決』の中で「一人だけでは学びきれない」と述べ、クラウドによって他者の学習状況が分かれば、「誰に聞けばよいのか」もリアルタイムに分かるようになるとしています。

大切なのは、友達の答えをそのまま写すことではありません。一人で考える。行き詰まったら友達の考えを見る。それをヒントにもう一度考える。必要なら直接話を聞き、また自分の課題に戻る。

個 ⇔ 他者参照・対話 と、一人で学ぶことと他者と学ぶことを行き来することができます。

協働的な学びは、個別最適な学びとは反対のものではありません。むしろ、必要なときに他者の力を借りることが、一人一人の学びをより豊かにしていきます。

ICTで「一人一人を主語にする」

ここまで、デジタルドリル(AIドリル)や動画、マイ探究、他者参照などを例に、ICTと「個別最適な学び」の関係を見てきました。全国学力・学習状況調査の質問調査でも、ICT機器が日常の学習に定着し、効果的な活用ができている様子が確認できます。

便宜上、デジタルドリルや動画を「指導の個別化」、マイ探究を「学習の個性化」の例として取り上げましたが、実際の学びがこれほど明確に分かれているわけではありません。マイ探究の途中で、必要な知識を身に付けるために動画を見ることもあります。共通の課題について学んでいるうちに興味が広がり、自分自身の問いが生まれることもあります。友達の考えを参照することで、自分の学び方や問いが変わることもあります。「これは指導の個別化」「これは学習の個性化」と分類することが目的なのではなく、一人一人の子どもがよりよく学ぶために、それぞれが組み合わさっていくものだと考える方が、実際の授業の姿には近いでしょう。

そして現在は、その選択肢に生成AIも加わりつつあります。生成AIに、分からないことを自分とって分かりやすい言葉で説明してもらう。探究の問いについて対話する。自分の文章について意見をもらう。こうした使い方も可能になっています。(詳細は、意外と知らない"生成AIの教育利用"もっと知りたい"生成AIの教育利用"をご参考ください。)

ただし、生成AIも「使えば個別最適な学びになる」わけではありません。教科書を読むのか、動画を見るのか、友達に聞くのか、教師に聞くのか、自分でもう少し考えるのか、それとも生成AIを使うのか。「今の自分には何が必要なのか」を考えて選ぶことが重要です。

前回の記事では、「個別最適な学び」を考えるキーワードとして「一人一人」を挙げました。一人一人、理解する速さも、興味をもつことも、分かりやすいと感じる方法も違います。ICTは、こうした一人一人の違いを大切にした学びを実現するための選択肢を大きく広げました。大切なのは、ICTによって一人一人の学びを自動的に「最適化してもらう」ことではありません。様々な道具や他者の力を活用しながら、子ども自身が、自分にとって今どのように学ぶことがよいのかを考え、選び、学びを調整できるようになっていくことです。

GIGAスクール構想の目的は、子どもたちに端末を使わせることではありません。ICTという学習環境を生かしながら、「一人一人の子どもを主語にする学校教育」を、日常の教室でどこまで実現できるか。「個別最適な学び」を考えるとき、これからもそこを出発点にしていきたいと思います。

秋野 光哉(あきの みつや)

東京学芸大学卒業後、内田洋行教育総合研究所 研究員、石川県加賀市立小学校教員を経て、現在、加賀市教育委員会「プロジェクトサポーター」として、校務のデジタル化や業務の標準化に取り組む。

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