2023.08.23
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意外と知らない"エネルギー教育"(第3回) 大学で勉強・研究したことを未来を変える一歩に

第1回ではエネルギー危機の現状について、第2回では学校でのエネルギー教育実践例をお伝えしました。第3回は学校から外に出てエネルギーについて学べる施設、さらに大学や大学院でのエネルギー教育・研究についてご紹介します。

学校外で学ぶ

全国に66ある次世代エネルギーパーク

皆さんは発電所を見学したことはありますか?学校などの団体であれば、多くの施設が見学を受け付けていますし、再生可能エネルギー施設を見たければ、経済産業省資源エネルギー庁が認定する「次世代エネルギーパーク」があります。ガイドブックには発電所、風車群、ダムなどを巡るおすすめ見学コースも掲載されています。

次世代エネルギーパークに認定されるためには、”再生可能エネルギーをはじめとした次世代のエネルギーに、実際に見て触れる機会を増やすことを通じて、地球環境と調和した将来のエネルギーの在り方に関する理解の増進を図る計画”を提出する必要があり、現在66件認定されています。

体験学習プログラム・ツアー

エコ・ツーリズム、サステナブル・ツーリズムなど、環境問題などについて考える旅行も一般的になってきました。夏休みなどを利用して、貴重な体験に出かけてみるのはどうでしょうか。

例えば、J-POWERグループが「エネルギーと環境の共生」をめざして取り組んでいるエコ×エネ体験プロジェクトがあります。小学生(親子)から高専・大学生までを対象に、様々な体験が用意されています。ダムの中の探検や、川でのダム作り体験など自由研究としても活用されているようです。先⽣⽅向けのプログラムでは、発電所⾒学や⾃然体験に加え、ESDやSDGsもテーマにして、情報提供や対話を⾏っているそうです。

大学で学ぶエネルギー

エネルギーをトコトン学んでみたい!という方のために、大学でのエネルギー教育についてご紹介します。工学部、理学部にエネルギーを学ぶ学科があることが多いですが、社会的・経済的な観点からエネルギーを学ぶ学問もあるため、文系学部でもエネルギーを学ぶ授業がある大学もあります。

例1)エネルギー工学を専攻する

学科名に「エネルギー」と入っているものでは、例えば、大阪大学工学部環境・エネルギー工学科/環境エネルギー工学専攻があります。HPには、下記のように掲載されています。

"近い将来人類が直面するであろう最大の課題である「環境問題」と「エネルギー問題」に対して、体系的かつ総合的に対処し、課題の解決と持続可能な文明の発展に資することのできる優秀な人材の育成を目指しています。環境・エネルギー・資源問題は、きわめて広範囲にわたる問題です。地球環境の持続性、自然環境保全、循環型社会形成、都市や地域の創造・保全、エネルギーの持続性などの幅広い講義群を用意しています。”

教育プログラム
1年 工学の基礎科目と導入科目を学ぶ
(統計学、線形代数学、力学詳論、化学基礎論、宇宙地球科学など)
2年 環境・エネルギー工学の全体像を学ぶ
(情報処理、環境システム工学、伝熱学、流体力学、量子エネルギー基礎論、数学解析など)
3年 環境・エネルギー工学の専門科目を学ぶ
(都市計画学、環境デザイン学、環境動態学、金属材料プロセス学、原子力エネルギー工学など)
4年 領域配属、卒業研究に取り組む

例2)環境問題からエネルギー問題にアプローチ

エネルギーと環境は影響し合う問題が多いため、環境学部のような「環境」と付く名前の学部や学科でもエネルギーについて学べることが多いです。環境学から大学を探すのも一つの手でしょう。例えば、東京都市大学環境学部は下記の方針を掲げ、環境や生態系のメカニズムや都市が抱える諸問題を学ぶ「環境創生学科」と、持続可能社会を作るための企業経営や自治体の政策を学ぶ「環境経営システム学科」を設置しています。

”グローバルな視野のもと、地域から地球規模に及ぶ環境問題を科学的に捉え、自然環境と都市環境を調和させることで持続可能な未来社会を創造し、政策科学に立脚した経済システムを環境調和型に転換することによって、カーボンニュートラルの実現、ひいては循環型で持続可能な社会の構築に貢献できる人材の養成を目的とする。”

例3)海外で資源学実習

日本だけの問題ではないエネルギー問題。世界に目を向けた教育を行っている大学も多くあります。例えば、日本における資源学教育の国際拠点をめざす秋田大学国際資源学部では、資源探査・開発から環境リサイクルまでを体系的に学べるようにしています。

2年次以降の専門教育科目はすべて英語で行い、イギリス、ドイツ、オーストラリア、インドネシア、フィリピン、モンゴル、タイ、米国、カナダなどなどの海外で約4週間実習を行う「海外資源フィールドワーク」を全学生必修とするなど、海外の資源開発最前線で見られる様々な課題を理解し解決する実践能力を身に付けさせているそうです。

例4)「自然エネルギー100%大学」をめざす

千葉商科大学は、教室で学んだ知識を実際に社会で使える力にするため、「やってみる」という学び方をテーマに、学生自らが課題や目標を設定し、さまざまな実社会でのプロジェクトに取り組んでいるそうです。その一環として、政策情報学部は、2014年に野球場の跡地にメガソーラーパネル11,642枚を設置し、発電を開始しました。

どうすれば「自然エネルギー100%大学」を実現できるのか、学生たちがキャンパス内のエネルギーの無駄を調べ、省エネの余地を検討することで、学内で省エネや創エネの具体的なアイデアを提案する「省エネ・創エネプロジェクト」が2015年にスタートし、翌年から全学的なプロジェクトとして推進され、現在96.1%を達成しているそうです。

例5)大学の研究成果を世界へ提供

2022年7月、京都大学発ベンチャー企業である京都フュージョニアリング株式会社は、世界で初めて核融合発電システムによる発電を試験するプラントの建設を発表しました。核融合発電は、太陽の内部で起きている核融合を人工的に起こして膨大なエネルギーを発生させてそれを発電に利用しようとするもので(たった1グラムの DT 燃料の核融合反応から発生するエネルギーは、タンクローリー1台分・約8トンの石油を燃やしたときと同じだけの熱に相当するそうです)、二酸化炭素や高レベル放射性廃棄物を排出しない次世代のエネルギーとして期待されています。2023年5月時点で数多くの企業が出資し、100億円以上を調達したそうです。

さいごに

3回にわたって、エネルギー教育をテーマに照会してきましたが、いかがでしたでしょうか。エネルギー問題は、誰かが電気をつくる技術を考え、誰かが環境問題に対処する方法を考えるという意識では解決には近づけません。一人ひとりが日常で節電や環境について考えることが一番大切です。身近な問題から考え、エネルギー問題について興味を持ってもらえたらと思います。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 小西 葉子

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