意外と知らない"情報モラル教育"(第2回) 活用できる教材や出前授業
GIGAスクール構想により1人1台端末が学校に整備されたことで、ますます重要となってきた情報モラル教育。第2回では、具体的に何を使ってどう指導をすればよいのか、考えていきましょう。
1.情報モラル教育に活用できる資料・教材
情報モラル教育には、決められた指導時間数もなければ教科書もありません。先生方の一番の悩み事は、どんどん変化していく社会情勢の中、何を使ってどのように子どもたちを指導したらよいのか?ということかと思います。ゼロから指導案を作成するのは非常に大変ですし、その内容の確からしさに不安を覚える先生もいらっしゃるかと思います。ここでは、国や自治体が作成している情報モラルに関する資料・教材について簡単にご紹介します。
◎文科省による資料
文部科学省は「情報モラル指導モデルカリキュラム表」として各学年に応じた指導モデルの例を提示しています。2007年に公表された資料ですが、技術の新旧に左右されない内容となっています。例えば小学校1~2年生では、「約束や決まりを守る」「人の作ったものを大切にする」「大人と一緒に使い、危険に近づかない」「不適切な情報に出会わない環境で利用する」「知らない人に、連絡先を教えない」「決められた利用時間や約束を守る」といった項目があげられています。まずはこうした資料で、各学年でどのような目標を達成すべきか、それぞれの学校や地域の実情に合わせてカリキュラムを組み立て、情報モラル教育を実施することが推奨されています。
また文部科学省では、具体的に授業で活用できる資料として、児童生徒向けの動画教材及び教員向けの指導の手引きを公開しています。令和2(2020)年度に公開されている最新版には、GIGAスクール構想の実現によって低学年でも学習者用端末を使うことを考慮し、小1~4年生向けの「学習用タブレットの上手な使い方」という教材も公開されています。この中では1人1アカウント持つことを前提としてパスワードの扱いについて考えさせる場面なども含まれています。指導の手引きには、動画教材を使った具体的なモデル指導案や板書計画例、ワークシート等も掲載されており、先生方が授業を組み立てる際の一助となります。教材は毎年度新しいものが追加されており、内容の確からしさ、という意味では、文部科学省が提供している内容と言うことで先生方も安心して活用いただけるのではないでしょうか。
◎東京都「SNS東京ノート」
国だけでなく、都道府県単位でも情報モラル教育教材を公開している自治体が多数あります。例えば東京都では、「とうきょうの情報教育」というポータルサイトを立ち上げ、情報教育に関する様々な情報を掲載しています。中でもSNS利用に関する情報モラル教育については、東京都の全児童生徒に配布される「SNS東京ノート」を本サイト上にも掲載し、誰もが閲覧・活用できるようになっています。
文部科学省「情報化社会の新たな問題を考えるための教材~安全なインターネットの使い方を考える~指導の手引き(令和2年度追補版)」では情報モラル教育を行う際の指導教材について「児童生徒がインターネット上のトラブルにつながる問題行動について、自分のこととしての「自覚」を促すこと」をポイントしています。「SNS東京ノート」も同じく、いかに子どもたちが問題を身近に捉え、主体的に考え、学ぶか、ということを重視したつくりになっています。作成にあたってはLINE株式会社(現LINEみらい財団)との共同研究の知見を取り入れており、現在SNSのなかでも子どもたちやその保護者の利用率が高いであろうLINEの利用を想像させながら学習を進めることができます。また、「SNS東京ノート」というタイトルではありますが、SNSの利用に限らず、タブレット・パソコンの活用についても広く学ぶことができる教材になっています。教員向けの〈活用の手引き〉には教材を使ったモデル指導案も掲載されています。
東京都に限らず、多くの自治体が情報モラル教材を無償で公開していますので、まずは先生方ご自身の所属されている都道府県の取り組みを調べてみることをおすすめします。
※なお、LINE株式会社では本取組を全国に広める目的で、東京都以外でも活用できる「SNSノート」をWeb上で無償配布しています。
2.外部人材の活用
地元の警察署や、携帯電話会社などに情報モラルの講演をお願いする「出前授業」はこれまでも多くの学校で実施されていたのではないかと思います。「学習の基盤となる資質・能力」として、基本的には日々の学習活動の中で指導していきたい情報モラルですが、時には外部講師を招いて、子どもたちも少しいつもと違う気分で話を聞く、という機会があっても良いかもしれません。その道のプロの人から、プロしか知らない話や実体験を聞くことで、問題をよりリアルに捉えられるというメリットもあるでしょう。また、参観日と併せて、保護者に一緒に聞いてもらうといった取組も良いかもしれません。ここでは出前授業を含めた外部人材の活用例についてご紹介します。
◎警察による出前授業
警察署の職員が学校に来て講演するという出前授業は、先生方も比較的イメージしやすいのではないでしょうか。情報モラルの中でも特に子どもたちがインターネット上で“犯罪に巻き込まれないために”という内容のものについて、実際に起きた事例などを通して学ぶ内容が多いのではないかと思います。最寄りの警察署名と「情報モラル」といったキーワードで検索すると、事例や依頼窓口が出てくることもありますので、利用してみたい場合には一度調べてみることをお勧めします。
◎LINEみらい財団によるオンライン出前授業
LINEみらい財団では、オンラインで情報モラルや情報防災(災害時のSNSの使い方について)の出前授業を行っています。情報モラルのワークショップ形式の授業の方は、上記で紹介したSNSノートに掲載されているカード教材を使ったものになっており、子どもたちは楽しく参加しながら考えを深めることができます。また、情報モラルの出前授業については大人(保護者・教員)向けのものもあります。
◎文部科学省「学校と地域で作る学びの未来」ページ掲載の出前授業
文部科学省「学校と地域で作る学びの未来」のページでは、子どもたちの学びを支えるための様々な教育プログラムを提供している民間企業・団体・大学等を検索することができます。2022年1月現在、「情報モラル・リテラシー」にチェックを入れて検索すると残念ながらヒットしないのですが、「情報教育・プログラミング」で検索すると、情報モラル教育に関する出前授業の情報もいくつか出てきます。
提供団体 | 授業名 |
---|---|
KDDI株式会社 | KDDIスマホ・ケータイ安全教室 |
一般財団法人 マルチメディア振興センター | e-ネットキャラバン |
グリー株式会社 | 啓発アプリを用いた情報モラル授業 正しく怖がるインターネット~事例に学ぶ情報モラル~ |
株式会社Cadenza | ITリテラシー教育プログラム |
株式会社日立製作所 | 情報活用プログラム(小学生向け)「未来へつながる情報技術」 情報モラルプログラム(中学生向け)「みんなで考える情報活用の『秘訣』」 |
◎ICT支援員による授業支援
出前授業は何度も実施することはできず、またモノによっては実施が土曜日に限定されているものなどもありますが、ICT支援員と協力すれば、先生方の指導計画に応じて好きなタイミングで何度でも、そして何よりその学校・クラスの実情に応じた授業を実施することができます。ICT支援員自身は教員免許を持っているわけではないため授業を直接実施することはできませんが、先生が情報モラル授業を実施するための教材作りのお手伝いや、必要な情報の収集、当日の補助などをお願いすることができます。実施できる業務範囲は事業者や契約内容によって異なりますが、例えば内田洋行のICT支援員サービスでは、全国のICT支援員が実施した支援内容をデータとして蓄積しておりますので、それらのデータをもとに各学校の実情に応じた授業内容をご提案・ご支援することが可能です。
最後に、1つエピソードをご紹介します。私自身、インストラクターとして何度か情報モラルの出前授業を行ったことがあるのですが、以前とある小学校の高学年向けに出前授業をした際、「SNSのグループトークで突然仲の良い友達から『バーカ』って送られたらどんな対応をするか」という話をした際に色々な意見がでました。大人の皆さんならどうするでしょうか?
その時子どもたちから出た意見には「既読無視」や「みんなでグループ抜ける」「こっちも『バーカw』と返す」といった意見がありました。これだけ聞くと大人は「無視や仲間外れはよくないな」と思ってしまうかもしれませんし、ともすれば「バカと言ってはいけません!」という“禁止”教育をしてしまいがちです。しかしそこで「なぜそんなことをするのか」を聞いてみると、そこには子どもたちは子どもたちなりの論理がありました。その時に聞いた意見はこんな感じです。
- トークでは既読無視して、直接電話して「どうした?」って聞く
- グループでは既読無視。グループみんなの前で責められたらかわいそうだからその子と1対1のトークルーム作ってどうしたの?て聞く。
- グループみんなで脱退すればグループ解散になる!それでリセット!
- 「バーカw」って「w(“笑い”を意味するネットスラング)」をつけて返すことで、その子が送ってきた「バーカ」も冗談だった流れにする
私はこれを聞いて、自分や相手が傷つかないための手段として「既読無視」や「グループ脱退」を使っているのだな、と感心したものです。(もちろんいじめにつながるような行動が無いとは言えないのでとても難しいところですが。)
この問い自体に「こんな時にはこうしなさい」という正解はありません。「こんな時にはどうするか」ということを想像し、考えること。その時相手がどんな気持ちだったか想像し、自分がどんな気持ちになるか、周りの友達だったらどんな気持ちになるか、そしてそれぞれどんな行動に出ようと思うのかに目を向けることが大切で、その中でBetterな答えが出せたらいいよね、というものです。
先生方の中には、ご自身が小学生・中学生の時に「情報モラル教育」を受けたことがないという方も大勢いらっしゃると思います。それゆえに「どう教えたらいいのか」というお悩みをお持ちの方も多いでしょう。インターネットが当たり前になってからはまだまだ歴史が浅く、学校に1人1台端末が入ってからはまだ1年しか経っていないというところも多いと思います。また、これからも新しい技術はどんどん出てきます。教員や保護者といった大人も(むしろ大人の方が)分かっていない・できていないことがたくさんあります。これからの情報モラル教育は、子どもたちに教えよう、と思うのではなく同じ「GIGAスクール1年生」になって、子どもたちと一緒に考え、お互いに学び合おうという姿勢で取り組むということが大切なのかもしれません。
参考資料
構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 吉澤 日花里
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