2019.10.30
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意外と知らない"保幼小接続"(第1回) 「小1プロブレム」の予防、連携から接続へ

今月(2019年10月)から3~5歳の幼児教育・保育の無償化がスタートしました。その目的の一つにいわゆる「小1プロブレム」への対応があります。今回はこの「小1プロブレム」を解決するための「保育園・幼稚園・認定こども園と小学校の連携・接続」(保幼小接続)をテーマに取り上げます。

保幼小接続とは

保幼小接続とは、子どもの発達や学びの連続性を保障するため、幼児期の教育(幼稚園、保育所、認定こども園における教育)と児童期の教育(小学校における教育)を円滑に接続し、体系的な教育を組織的に行うことです。
幼児と児童の交流活動や保幼小の教職員の意見交換等の取組はある程度行われているものの、都道府県教育委員会の77%、市町村教育委員会の80%において接続のための取組は行われていないという調査結果を受け、2010年に文部科学省は、「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」を公表し、下記の3点のポイントを示しました。

保幼小接続のポイント

① 幼児期の教育と小学校教育の関係を「連続性・一貫性」で捉える考え方
② 幼児期と児童期の教育活動をつながりで捉える工夫
③ 幼小接続の取組を進めるための方策(連携・接続の体制づくり等)

また、保幼小接続の取組を進めるには、何よりもまず子どもの発達や学びの連続性を踏まえた幼児期から児童期にかけての教育のつながりを理解するための道筋を明らかにすることが必要であるとして、幼児期と児童期の教育の違いを次のようにまとめています。

幼児期の教育と児童期の教育の違い
幼児期の教育 児童期の教育
各教科等 区別なし 区別あり
目標に関する位置付け 「~を味わう」、「~を感じる」のように、その後の教育の方向付けを重視する。 「~ができるようにする」といった具体的な目標への到達を重視する。
教育の展開の在り方 生活や経験を重視する経験カリキュラムに基づく。 学問体系の獲得を重視する。教科カリキュラムを中心とする。
内容・時間設定・指導方法 環境、遊びを通して総合的に指導する。
(幼児を取り巻く人的物的要素全てを通して幼児を導くことで、幼児の生活や経験からの学び、自発的な活動を重視する。)
教科カリキュラム等を実施する。
(各教科等から構成される時間割に基づく学級単位の集団指導が原則となる。)
課題 幼児が遊び込むことができる環境を構築し、幼児の主体的な活動を促す。 教育すべき内容を具体化し効果的な指導を行うことにより、児童が目標に到達することができるようにする。
幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方 について(報告)より作成

例えば、小学校の先生から見て問題行動が多い子どもについて、年長のときには興味関心のあることをさせることで主体的に活動できていて、集中力もあると評価されていたという情報があれば、小学校の先生は学校のシステムがなかなか理解できていないだけなのだろうとその子どもに対する見方を変えることができます。また、保育園の先生が小学校1年生の算数「ちがいはいくつでしょう」という引き算の授業を参観することで、「ちがい」という言葉を「うさぎとたぬきの違い」といった質の違いだけでなく、数の違いも意識して使うようにした方がいいと気付かされたりします。このように幼稚園・保育園の先生と小学校の先生が引き継ぎをしたり、交流することで解消される問題もたくさんありますが、それだけでは不十分であり、幼児期と児童期の教育双方が接続を意識する期間を「接続期」というつながりとして捉えた教育課程を編成することが望ましいとされています。

小1プロブレムとは

皆さんは小1プロブレムという言葉を聞いたことがありますか。これは小学校に入学したばかりの1年生が話を聞かない、落ち着いて座っていられない、集団行動が取れないなど学校生活に馴染めない状態が数ヶ月続く状態のことを指します。
以前はこういったことは1ヶ月程度で落ち着くと言われていましたが、これが継続する事例が報告されるようになり1998年頃から課題として認知されるようになりました。
具体的には、次のような状況・様子が「小1プロブレム」にあたるとされています。

「小1プロブレム」の状況・様子例

  • 授業中、勝手に教室の中を立ち歩いたり、教室の外へ出ていったりする
  • 担任の指示通りに行動しない
  • 児童同士のけんかやトラブルが日常的に起きている
  • 私語が止まず、ザワザワしている

「公立小学校第1学年の児童の実態調査」の結果概要 より転載

東京都の2008年の調査で、この「小1プロブレム」が4校に1校の割合で発生し、その半数では年度末まで混乱状態が継続していることが分かり、これを受けて、2011年に法改正で小学1年生の1クラスの上限人数が40人から35人に引き下げられたことも記憶に新しいのではないでしょうか。「小1プロブレム」対策の1つとして、小学1年生の鉛筆や筆箱などは絵柄の無いものを指定する学校も増えています。

小1プロブレムの原因

幼稚園や保育園ではこれからやるべきことを毎回丁寧に説明してくれ、うまくできない場合は援助してもらえたり、待ってもらえたりするのに対し、小学校では一度説明されたことは決められたこととして自分で主体的に行動すること、また一斉に同じことをみんなと同じペースでやるケースが多くなります。また、幼稚園・保育園と違い、小学校の授業では45分間、静かに椅子に座り続けることも求められます。
幼児期は楽しいこと、好きなことに集中し、遊びや体を動かすことを中心として実践的、体験的に学んでいくのに対し、小学校は学ぶということを意識して計画的に学習していきます。
一般的に、幼稚園・保育園の年長にもなると、ある程度自分で自由にやりたいことを決めて、そのやり方を考え、それを自分でできるようになります。各園の方針によって異なりますが、先生方はそれをとことん追求できるように見守ることに徹し、道具を用意してあげる程度で、あまり指示はしないでしょう。一方小学1年生になると、先生がある程度枠にはめて子どもの主体的な行動を制限し、決まったルールに則った学校生活に慣れさせようとします。
このように学習指導の観点から、子どもたちに求められることが変わってくることや、集団で一斉に行動するという環境の違いが大きな原因と考えられています。

この切り替えがスムーズにできない原因は、長年「幼稚園や保育園、家庭でのしつけが不十分」「小学校教員の指導力不足」などとされてきましたが、近年では発達段階は子どもによって異なり、また寝そべって授業を受けてもいいような国もあり、現在の日本の学校システムが画一的過ぎるのではないかという意見もあります。
学校側からこれをこの順番でやらせた方がいいだろう、と先生も良かれと思って段取りをすることが小学校に入学したばかりの子どもたちの興味を削ぎ、率先した活動を阻害し、意欲を減退させるという悪循環につながっている可能性もあります。学校でも「アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)」が推進されるようになり、幼稚園・保育園で育てられた主体性をもっと活かすべきとも言われています。

法的な位置づけ

幼児期の教育と児童期の教育の目標を「学びの基礎力の育成」 という一つのつながりとして捉え、一方が他方に合わせるのではなく、互いの教育を理解し、見通すようにするという考え方は、教育課程にも明記されました。

「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」共通

(1) 幼稚園(保育所、幼保連携型認定こども園)においては、幼稚園教育(保育)が、小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し、幼児期にふさわしい生活を通して,創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培うようにするものとする。

(2) 幼稚園教育において育まれた資質・能力を踏まえ、小学校教育が円滑に行われるよう、小学校教師との意見交換や合同の研究の機会を設け、『幼児期の終わりまでに育って欲しい姿』を共有するなど連携を図り、幼稚園教育と小学校教育との円滑な接続を図るように努めること。

「小学校学習指導要領」総則4(1)

幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を踏まえた指導を工夫することにより、幼稚園教育要領等に基づく幼児期の教育を通して育まれた資質・能力を踏まえて教育活動を実施し、児童が主体的に自己を発揮しながら学びに向かうことが可能となるようにすること。
また、低学年における教育全体において、例えば生活科において育成する自立し生活を豊かにしていくための資質・能力が、他教科等の学習においても生かされるようにするなど、教科等間の関連を積極的に図り、幼児期の教育及び中学年以降の教育との円滑な接続が図られるよう工夫すること。特に、小学校入学当初においては、幼児期において自発的な活動としての遊びを通して育まれてきたことが、各教科等における学習に円滑に接続されるよう、生活科を中心に合科的・関連的な指導や弾力的な時間割の設定など指導の工夫や指導計画の作成を行うこと。

また、5歳児の約4割が通う保育所は、今回の保育所保育指針の改定で初めて「幼児教育を行う施設」と明記され、幼稚園や幼保連携型認定こども園とともに「幼児教育機関」と認定されました。これにより、教育基本法や学校教育法の考え方、例えば教育基本法第6条2項の記述「教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない」(基本的な生活習慣の形成に加えて、集団性や社会規範性や学びの姿勢の形成を図ることにも十分な配慮を求める)などが幼稚園だけでなく、保育所や認定こども園にも求められることとなりました。

スタートカリキュラムとは

スタートカリキュラムとは、「小学校へ入学した子どもが、幼稚園・保育所などの遊びや生活を通した学びと育ちを基礎として、主体的に自己を発揮し、新しい学校生活を創り出していくためのカリキュラム」、「新入児童の入学直後約1ヶ月間において、児童が幼児期に体験してきた遊び的要素とこれからの小学校生活の中心をなす教科学習の要素の両方を組み合わせた、合科的・関連的な学習プログラム」などと定義されています。2008年の学習指導要領改訂において加えられた「第1学年入学当初においては、生活科を中心とした合科的な指導を行うなどの工夫をする」に対応するもので、「小学校学習指導要領解説生活編」に例が挙げられています。

2008年「小学校学習指導要領解説生活編」第4章1(3)より

児童の発達の特性や各教科等の学習内容から、入学直後は合科的な指導などを展開することが適切である。例えば、4 月の最初の単元では、学校を探検する生活科の学習活動を中核として、国語科、音楽科、図画工作科などの内容を合科的に扱い大きな単元を構成することが考えられる。こうした単元では、児童が自らの思いや願いの実現に向けた活動を、ゆったりとした時間の中で進めていくことが可能となる。大単元から徐々に各教科に分化していくスタートカリキュラムの編成なども効果的である。

「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」では、スタートカリキュラムの編成における留意点も示されました。

スタートカリキュラムを編成する上での主な留意点

  • 幼稚園、保育所、認定こども園と連携協力すること
  • 個々の児童に対応した取組であること
  • 学校全体での取組とすること
  • 保護者への適切な説明を行うこと
  • 授業時間や学習空間などの環境構成、人間関係づくりなどについて工夫すること

国立教育政策研究所は、各自治体にこの留意点を反映したスタートカリキュラムの導入を促すため、2015年には「スタートカリキュラム スタートブック:学びの芽生えから自覚的な学びへ」、2018年には「発達や学びをつなぐスタートカリキュラム~スタートカリキュラム導入・実践の手引き~」を発行しています。

就学前の幼児が円滑に小学校の生活や学習へ適応できるようにするとともに幼児期の学びが小学校の生活や学習で生かされてつながるように工夫された5歳児のカリキュラムである「アプローチカリキュラム」と、上記の「スタートカリキュラム」をあわせて策定している自治体が多いようです。

連携から接続へのステップアップ

都道府県や市町村の教育委員会等には、あらかじめ連携・接続に関する基本方針や支援方策を策定し、教育委員会がリーダーシップを取って連携や接続の取組を進めることが求められています。連携から接続へと発展する過程の目安として、ステップ0~4が示されており、アプローチカリキュラムやスタートカリキュラムを編成・実施しているステップ3、ステップ4の割合が徐々に増えてきています。

連携から接続へと発展する過程
ステップ0 連携の予定・計画がまだ無い。
ステップ1 連携・接続に着手したいが、まだ検討中である。
ステップ2 年数回の授業、行事、研究会などがあるが、接続を見通した教育課程の編成・ 実施は行われていない。
ステップ3 授業、行事、研究会などの交流が充実し、接続を見通した教育課程の編成・実施が行われている。
ステップ4 接続を見通して編成・実施された教育課程について、実践結果を踏まえ、更によりよいものとなるよう検討が行われている。
「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」より

次回はアプローチカリキュラム、スタートカリキュラムの具体例を見ていきます。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 村山 秀幸

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