2017.04.05
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意外と知らない"幼児教育"(vol.1)

意外と知らない

皆さんは「幼児教育」という言葉を聞いて、どのようなイメージが思い浮かびますか。早期教育のこと? 英才教育のこと? それともスポーツなどの習い事? しつけのこと? など、様々なイメージが思い浮かぶことでしょう。このようにイメージしてみると、幼児教育はいずれも幼児に対する成長期待から行われているように感じられませんか。では、そもそも幼児教育はどのような教育を指し、実際にどのような教育方法が存在しているのか、幼児教育の「今」を2回にわたって取り上げます。第1回目では、国が定義する幼児教育と幼児期に身につけるべき能力についてご紹介します。

そもそも、幼児教育に関心が高まってきているのは、なぜでしょうか。それは、幼児期が、成長していく人間としての基礎を培う大切な時期だと考えられているからなのではないでしょうか。

また、「小1プロブレム」という問題も幼児教育への関心を高める要因となっています。これは、小学校に入学したばかりの児童が、授業中に落ち着きがなく、座っていられなかったり、教師の話を聞いていられなかったりする状態が数か月間続くことを指します。こうした状態となるのは、幼稚園や保育園と小学校の「環境」の違いが主な要因だと考えられています。

このような移行期の様々な課題解決のため、ますます幼児教育や幼小接続は注目されてきています。

幼児教育とは

文部科学省の中央教育審議会「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の方向性」によると、幼児教育とは小学校就学前の「幼児」に対する教育を意味し、幼児が生活する全ての場において行われる教育を総称したものとされています。幼稚園や保育所等における教育だけではなく、家庭や地域社会における教育も含んだ、広い概念として捉えられています。

また、以下の通り、幼児教育と早期教育の違いを示しています。

【幼児教育の意義及び役割】

この幼児期の発達の特性に照らした教育とは、受験などを念頭に置き、専ら知識のみを獲得することを先取りするような、いわゆる早期教育とは本質的に異なる。幼児教育は、目先の結果のみを期待しているのではなく、生涯にわたる学習の基礎を作ること、「後伸びする力」を培うことを重視している。

出典:文部科学省「第1章 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の方向性」

幼児教育の目的

次に、幼児教育の目的を考えてみましょう。

下記の通り文部科学省は、幼児教育には「小学校以降における生きる力の基礎や生涯にわたる人間形成の基礎を培う上で重要な役割」があると示しています。

子どもの基本的な生活習慣や態度を育て、道徳性の芽生えを培い、学習意欲や態度の基礎となる好奇心や探求心を養い、創造性を豊かにするなど、小学校以降における生きる力の基礎や生涯にわたる人間形成の基礎を培う上で重要な役割を担っている。

出典:文部科学省「第1章 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の方向性」

つまり、幼児教育は、小学校入学以降求められるような、平仮名や片仮名の読み書き、計算の仕方などの知識や技能を獲得することを目的としているのではなく、就学前に子ども達がそうした力を身につけるための「土台作り」をすることで、将来的な柔軟性を育むことを目指すものということではないでしょうか。知らないことを知ろうとする好奇心、そして豊かな感性などを身につけさせることにより、多角的な視点から考える力を身につける「土台作り」をすることが幼児教育です。

下の図では、幼稚園・保育園から小学校入学後までの接続期を三つに区切り、それぞれの時期に身につけるべき土台を説明しています。各期のねらいは、以下の通りです。

①接続前期(5歳児10月~3月)
:関わりを広げ・深める
:体験の共有化をはかる
②接続中期(小学校1年生入学~)
:小学校生活へ安心して移行し、自分を表現できるようにする
③接続後期(~小学校1年生7月)
:知への興味を耕し、自分で考えて学んでいこうとする姿勢を伸ばす

幼・小接続期保育分野・学習分野関係構想図

出典:文部科学省「資料3 幼児期の教育と小学校教育の接続について」

幼児教育にも、学習指導要領があるって本当?

文部科学省では、小学校や中学校、そして高等学校の教育課程編成の基準として「学習指導要領」を公示していますが、同様に幼稚園での教育内容やねらいを示した「幼稚園教育要領」を定めていることはご存じでしょうか。

一方、保育所では厚生労働省が告示している保育所保育指針があります。幼稚園と保育所は、一見似ているようで、以下の表のような違いがあります。

幼稚園保育園(認可保育所)
教育課程の基準 /ガイドライン 幼稚園教育要領 保育所保育指針
管轄行政機関 文部科学省 厚生労働省
法令 学校教育法 児童福祉法
目的 義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長すること(学校教育法第22条) 日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳児または幼児を保育すること (児童福祉法第39条)
入園年齢 3歳児~小学校就学前 0歳児~小学校就学前
保育時間 原則4時間
*「お預かり保育」を実施しているところもあります。
8時間
保育者資格 幼稚園教諭免許 保育士資格
幼稚園教諭免許・保育士資格取得のための履修内容※ 教科やカリキュラム作り、指導法に関する科目がある 乳児保育や栄養に関する科目があり、実習がやや多い
入園基準 その市町村に住民登録している子ども 保護者が保育に欠けると判断された場合

※履修内容の出典:厚生労働省「第2回保育士養成課程等検討会 幼稚園教諭二種免許及び保育士資格取得に必要な教科目の比較」

身につけるべき能力とは?

「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」では、ともに下の図にある5領域の保育目標が書かれています。これらの5領域を身につけることで、幼児期の終わりまでに生きる力の基礎が育成されます。好奇心を掻き立て、様々なことに興味や関心を持つことで、関わる人や物が豊かになり、それによって子どもの可能性が広がることが期待されています。

出典:文部科学省「資料3 幼児期の教育と小学校教育の接続について」

出典:文部科学省「幼児期の教育と小学校教育の接続について」

幼児期の終わりまでに期待される子ども達の育ちは、以下の通りです。

  1. 身近な環境との関わりに関する領域「環境」:
    周囲の様々な環境に好奇心や探究心を持って関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。
  2. 人との関わりに関する領域「人間関係」:
    他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う。
  3. 言葉の獲得に関する領域「言葉」:
    経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。
  4. 感性と表現に関する領域「表現」:
    感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする。
  5. 心身の健康に関する領域「健康」:
    健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活を作り出す力を養う。

このように、5領域は教師や他の幼児も含めた幼児の周りの環境と遊びを通して総合的に指導することが求められています。

言葉だけでは理解が難しいので、幼稚園や保育園での日常的な取り組みの中で、これらの5領域はどのような活動に盛り込まれているのかを考えてみましょう。

例えば、おままごと遊びをする際にはどのような活動が盛り込まれているのでしょうか。先程の5領域にあった【1.環境】から見ていきます。

まず、おままごとセットでは、お料理ごっこができると思いますが、野菜・果物や料理道具のことを知らなければいけませんよね。このように、身近な物や数量を扱う領域は【1.環境】です。

次に、【2.人間関係】について考えていきましょう。おままごと遊びは一人ですることもできますが、やはり友達や先生、家族と行う方が楽しいですよね。これは【2.人間関係】に当てはまります。

そして、【3.言葉】に注目してみると、おままごと遊びは本当に学びの宝庫だということがわかります。それは、「いただきます」「ありがとう」「おいしい」「グルグル混ぜる」「トントン切る」というように、遊びの中で形容詞や動詞も出てきますよね。様々な【3.言葉】を使って楽しくやり取りができる遊びのため、おままごと遊びは社会性の育成や言葉の発達に関わる、とても良い遊びですね。

また、【4.表現】の領域は、料理の内容や盛りつけを考える行動に当てはまります。子ども達が自ら楽しい生活にしようと遊び方を工夫したり、最後は片付けをしたりする取り組みは【5.健康】の領域になります。

いかがでしょうか。おままごと遊びだけでも、「5領域」はしっかりと盛り込まれていますよね。このように全ての領域が組み合わさって、遊びが成立しているということです。

これら「5領域の育ち=土台作り」を達成していくことで、その後の本格的な教育を受けるための基礎が出来上がっていくきます。幼児教育の目的でも述べた通り、幼児期にしか育たない「土台」をしっかりと作り上げることがとても重要ですね。これからの時代に必要な力と言われている、自ら主体的に考え、課題を解決する能力の獲得にも繋がる下地となるでしょう。

次回は最近の幼児教育の動向や人気のメソッドについてご紹介いたします。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 加藤紗夕理

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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