2008.04.22
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ベテラン先生が教える 新人教員の育て方

ベテラン先生の持つ知恵やノウハウを伝えながら新人教員を上手に育てていくことは、団塊世代の大量退職時代を迎えた昨今、どの学校にとっても身近な課題です。ここでは、若い先生が抱えやすい問題や悩みを分野別にピックアップ。アドバイザーの意見を交えて、新人を指導する先生方へのヒントをお届けします。

ベテラン先生が教える 新人教員の育て方
 

授業づくり・学級経営編

朝霞市立朝霞第六小学校 北川誠 教諭
■アドバイザー
朝霞市立朝霞第六小学校 北川誠 教諭
(※本年度4月より朝霞第十小学校へ転任)
教員歴28年。現在は教務主任として、新人教員の育成も含めた教育活動全般を取り仕切る。「若い先生には、どの子も安心して勉強できるクラスをつくってほしい」と話す。

 毎日の授業や学級経営、子どもとの接し方などで、若い先生に見られがちな問題点と、それに対する指導のポイントを紹介します。

授業が遅れがちになっている


毎時間丁寧に指導する新人教員は、年間計画を守れず授業が遅れがち。放置しておくと、学期末、学年末の単元の指導時間が取れなくなるので、早めに修正する必要があります。

【指導のポイント】
年間計画を立てる際、各単元の時間配分にメリハリをつけることが大切。ある程度余裕を持った計画を立てておくと、遅れが出たときの調整に使えます。日頃の指導では、週案をベースにしたスケジュール管理を徹底し、先を見越した時間配分を意識するよう促します。進行を優先するあまり、教師からの一方的な授業になっていないか、授業内容にもチェックの目を。

ベテラン先生が教える 新人教員の育て方

子ども受けのよい態度ばかりする


子どもに媚び、要求に流される背景には「嫌われたくない」という不安感があります。授業づくりや学級経営への意識や計画性が低く、場当たり的に対応するのも要因のひとつ。

【指導のポイント】
まずは子どもとの距離感を意識させること。子どもとの関係が馴れ合いになると、教員への不信感や学習規律の乱れが出てきます。教員と子どもの信頼関係は、授業づくりや個に応じた指導の工夫、一緒に遊ぶ、笑顔で接する、ほめるといった地道な活動の積み重ねによって築かれるもの。「人気のある先生」ではなく「信頼される先生」になるための要点を伝えましょう。

学級の秩序や学習規律をつくれない


子どもとの適切な距離や信頼関係がつくれないと、毅然とした態度を取ることができず、学級をコントロールできない状態に。初期段階で回復できないと後々まで尾を引くので、周囲も協力して早めの対応を。

【指導のポイント】
新人教員には「学級の統率者」としての自覚を促し、学習道具の準備や話の聞き方、発言の仕方など、学級のルールをつくり、繰り返し子どもに確認するようアドバイスします。小学校では体育の授業が、ルールや指示を守る態度を身につけさせるうえで有効。学習規律や生活習慣を定着させるための指導の工夫は、新人、ベテランの分け隔てなく学校全体で共有しましょう。

学級内でいじめが起きて悩んでいる


新人に限らず、ベテラン教員のクラスでもいじめは起こり得るものですが、新人教員は適切に対処できず、問題を深刻化させてしまうことが考えられるので注意が必要です。

【指導のポイント】
いじめの芽を早期に摘むためには、クラスの現状について、子どもたちから教員に情報が上がってくる関係づくりと、子どもの変化を見取る力が必要。いじめが起きてしまったら、子どもから話を聞いて現状を把握し、いじめられている子を守ることを最優先するよう指示します。もちろん担任一人ではなく学校全体で対応を。新人教員には、どんな問題も一人で抱え込まず周囲に相談するよう、日頃からの声かけが不可欠です。

特定の子への対応に懸命で全体に目が届かない


立ち歩いたり大声を出したりして授業妨害をする子どもがいると、新人教員は個別対応で手一杯になりがち。学級全体の学習指導にまで目が届かなくなり、他の子どもの信頼を失ってしまう事例もあります。

【指導のポイント】
全体への目配りが不足して子どもが不信感を募らせていても、教員自身は指導に夢中で気づかないことが多いので、客観的な目で意見してあげることが大切です。LDやADHDといった発達障害が問題行動の要因になっている可能性も。苦手なことを無理強いして子どもを追い込んでいないか、指導を見直す機会も必要です。

保護者・地域との関係編

 新人の先生が、保護者や地域の人たちとの信頼関係を築き、教師としての責任を果たしていくためのポイントをまとめました。

朝霞市立朝霞第六小学校 臼井定重 前校長
■アドバイザー
朝霞市立朝霞第六小学校 臼井定重 前校長
37年(うち校長として12年)にわたる自身の教員経験をもとに、次代を担う教員の育成に取り組んできた。「教師という仕事には情熱が必要。そして子どもが好きという気持ちが自分の支えになる」と話す。

保護者の意見や要望を尊重しすぎる


「保護者の期待に応えたい」「要望を断って苦情を言われるのが心配」という若い教員は、保護者の無理な要望にもノーと言えず、言いなりになってしまう傾向があります。

【指導のポイント】
担任として保護者の思いや要望に耳を傾けることは大切ですが、無原則に何でも受け入れてしまうと、他の保護者との関係を悪くしてトラブルを招きます。できないことは断る勇気も必要だと理解させましょう。頭ごなしに断るのはトラブルの元。我が子を大切に思う親心を受け止めつつ、学級や学校としての規則・方針を説明し、納得してもらうよう指示します。

保護者との信頼関係がつくれない


どの新人教員も保護者との関係づくりには不安を抱くもの。保護者から少しでも注文が出ると、「信頼されていないのでは」と悩んでしまうケースが見られます。

【指導のポイント】
子どもからの信頼と保護者からの信頼は表裏一体のものです。「保護者受け」を意識せず、授業研究や個別の学習指導、生活相談など、地道な活動を続けることの重要性を理解させましょう。学級通信などで子どもの日常の様子や教師の思いを発信するのも有効。また保護者会や家庭訪問は直接言葉を交わせる貴重な機会なので、身なり、言葉遣い、表情などでも好感を与えるようにアドバイスします。

保護者からのクレーム対応に困っている

ベテラン先生が教える 新人教員の育て方


ベテランにも難しい保護者からの苦情対応。新人教員の場合は、対応に忙殺され精神的なダメージを受けたり、重要な事柄に独自対応し、問題を深刻化させたりする心配があります。

【指導のポイント】
新人教員に求められるのは「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」。どんなクレームも最初は学年主任や管理職に報告させ、担任として直接答えるべき事柄と、学校として対応すべき事柄の判断は、管理職が下すというルールを徹底します。対応の際は、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを前提に。時間を惜しんで電話や手紙で処理すると、かえって問題を悪化させることがあります。

地域やPTAの行事に参加したがらない


校外行事は自己アピールの場になりますが、地域の人や保護者とどう接していいかわからないという不安や、授業や校務に手一杯で行事参加に負担感を持つ新人教員も見られます。

【指導のポイント】
地域の人や保護者に自分を知ってもらう機会として積極的に参加するよう促し、学校全体で後押ししてあげる必要があります。仕事を抱え込んでいるようなら、他の先生が分担して負担を減らし、参加しやすい環境づくりを。「地域の行事を手伝ってくれる熱心な先生」という評価は、若い先生自身にも、学校にもプラスになります。

「新任だから」と保護者にバカにされる


新人教員は「頼りない」「授業が下手なのでは」などと保護者から不当な評価を受けやすい立場。保護者に不信感を抱いたり、自信や意欲を失ってしまうこともあります。

【指導のポイント】
保護者の一方的な思いこみや評価は気にせず、地道に授業力を磨くことの大切さを伝えましょう。新任の先生に受け持ってもらうメリット(年間計画に沿って丁寧に教えてくれるなど)を保護者会で強調するといった管理職のフォローも効果的。逆に保護者からの些細なクレームにも管理職が対応すると、「あの先生は頼りない」という印象を与えるので、教師の権威を損なわないよう、学校としても配慮を。

職場の人間関係編

 はじめて社会に出る新人教員が、学校という組織に加わり、同僚と人間関係を築いていくうえで直面する課題と改善へのヒントを紹介します。

立正大学心理学部 齊藤勇 教授
■アドバイザー
立正大学心理学部 齊藤勇 教授
企業社会や学校で起きる「足の引っ張り合い」や「イジメ」の行動分析を研究テーマにしており、そのわかりやすい解説には定評がある。『人はなぜ、足を引っ張り合うのか』(プレジデント社)をはじめ職場の人間関係を解説した著書多数。

叱っても効果がない


若い教員の指導では、ときには厳しい言葉も必要。しかし、「叱られた」という状況を受け入れられず、不平不満を口にしたり、極端に落ち込んだりする新人教員も見られます。

【指導のポイント】
叱るときは一対一で話すのが基本で、感情的になることや、相手の人格を否定するような言葉は禁物。また、厳しく指導する真意が伝わるようになるまで我慢することも大切です。真意が伝わる前提は、良好な人間関係。子どもと教師の関係同様に、毎日のあいさつや笑顔、仕事を手伝ってあげる、ほめるなど、小さなことの積み重ねによってつくられる人間関係の上でこそ、叱ることの意味が正しく相手に伝わります。

与えられた仕事以外に目を向けない


与えられた仕事はソツなくこなすが自ら仕事を見つけようとはしない、いわゆる「指示待ち人間」。仕事への意欲ではなく、学校全体の業務の流れを知らないことが原因です。

【指導のポイント】
「新任の先生には関係ないから」と考えず、学校組織の全体像や、仕事の流れをその都度説明することが重要です。自分の仕事にどんな意味があり、結果がどこへつながっていくのかという流れがわかれば、全体の業務のなかで自分はいま何をすべきか、何ができるかが見えてきます。組織の一体感をつくることや、学校の教育活動に主体的に参画する態度を養うことにもつながります。

問題を抱えているのに相談してこない


何でも気軽に相談するよう伝えたのに、問題を抱えて悩んでしまうケース。失敗を認めることでプライドが傷つくのを恐れる感情や、「聞きにくい雰囲気」が要因として挙げられます。

【指導のポイント】
失敗は誰にでもあると声をかけ、気持ちを軽くする配慮を。若い先生が質問しにくいと感じていないか、互いの関係も見直しましょう。相手が聞いてくるのを待つだけでなく、「こんな授業アイデアがあるんだけど、どう思う」とこちらから相談を持ちかけるのも効果的。悩みを打ち明けられる雰囲気が生まれたら、失敗の要因を一緒に分析し、改善へのヒントを示します。

同僚との人間関係で悩んでいる


一般の新社会人と同様、新たな環境や人間関係に不安を抱いている新人教員。些細なことでも、周囲とうまくいかない、孤立しているのではと悩んでしまうことがあります。

【指導のポイント】
新社会人は、これまで組織の一員として働いた経験もなければ、社会の上下関係も、組織固有の規範やルールも知りません。日本の組織はこうした新人を冷たく扱う傾向が強いため、新人が「知らない」という不安を解消し、組織になじむには長い時間がかかります。新人教員を孤立させないためにも、同じ仲間としてあたたかく迎え、不安を和らげる環境づくりに学校全体で取り組むことが大切です。

インフォーマルなつきあいを避ける


オンとオフが明確で、勤務後の飲み会や職員旅行などインフォーマルな場に参加しない若い教員が増えています。本音で語り合える機会が少なくなったと感じるベテラン教員も多いようです。

【指導のポイント】
「飲みニケーション」が減ったというのは、多くのベテラン教員が感じている「最近の若い先生」に共通の傾向でしょう。飲み会に出ないからあの先生は人づきあいが悪いと捉えるのは誤りです。飲みがなければ人間関係をつくれないような組織のあり方こそ問題。仕事のなかでパーソナルなコミュニケーションも充実させ、世代や役職を越えて意見を出し合える環境づくりが必要です。

記者の目

「若い先生の考えを尊重し、逆に教えてもらう気持ちで接している」と北川教諭は語る。一方的に教えるのではなく、自らの授業改善のヒントを得ようという姿勢が、指導する側には必要だ。若手がベテランの「職人芸」を学び、ベテランは若手の新しい感性やアイデアを取り入れる。教育界の世代交代が、そんな相乗効果につながることを期待したい。

取材・文:栗林俊晴 ※写真の無断使用を禁じます。

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