2003.10.07
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ミュージアムで教員たちと一緒に夏季研修会 MIHO MUSEUM・滋賀県立陶芸の森

夏休みは、子どもたちはもちろん、教員のみなさんにとっても「学び」の時なのである。滋賀県にあるMIHO MUSEUMと滋賀県立陶芸の森では、8月11、12日とミュージアムを舞台に教員たちと学芸員、エデュケーター、大学生などが一緒になってワークショップをする夏季研修会が行われた。学校現場の先生方に、自らミュージアムでの「学び」を体験してもらい、今後の連携授業につなげていこうという企画である。主催は、両美術館だが、地域の母親たちからなる「子どもの美術教育をサポートする会」のボランティアたちが活躍した。

 



 
1日目の会場、
MIHO MUSEUM














 


 
能楽囃子「幽玄の調べ」で
本物に触れる











初めての「ろくろ」に四苦八苦







陶芸にハマるかも・・・





自分だけのシーサー、完成!




 
2日間の締めくくり
パネルディスカッション


 

 滋賀県にあるMIHO MUSEUMと県立陶芸の森は、ともに草津方面から登っていく信楽方面の山里にある。夏でも少し涼しいそこに、ミュージアム関係者と教員たちが集まってきた。一緒になってミュージアムワークショップを体験するのだが、両日とも、口コミで約130人もの参加者が集まった。

 当地草津市や近隣の小学校では、ここ数年、学校とミュージアムの連携授業が少しずつ試みられてきた。きっかけは、地域の親たちで作る「子どもの美術教育をサポートする会」の働きかけである。代表の津屋結唱子さんは美術館でボランティアをしていくなかで子どもたちと会話しながら進めるアートゲームなどに触れ「親として、学校でも本物にふれる質の高い授業をしてもらいたい」と、4年前、学校に提案しミュージアムにも協力を呼びかけてミュージアムと学校の橋渡しをしていったのである。・・年の草津市老上小学校で行われた全国美術教育の研究会では、美術館と学校の連携授業を公開し好評を博した。まさに、教員、学芸員、地域ボランティアが三位一体になった授業づくりだったのである。

 そして、その後も先の両館や県立近代美術館などとの連携授業が行われ、いよいよこの夏、教員研修として「平成15年度 美術館からの発信“日本の宝物に出合うー総合的学習を美術館とともに”」が催されることになったのである。ワークショップを中心に、まずは教員みずからがミュージアムの面白さ、楽しさを実感してもらおうというものだ。1日目が古今東西の美をコレクションし、その美しい建築でも有名なMIHO MUSEUM、2日目が展示はもとより若手作家の支援もしている陶芸の森である。
 
 1日目は、まず「ミュージアム・オリエンテーリング」。東京・世田谷美術館学芸員の高橋直裕さんのリードで展開する。「いいですかぁ、よーく聞いてくださいねえ」軽妙な話術と穏和な雰囲気が、先生たちをかわいい生徒にしてしまう。クイズ形式のオリエンテーリングで、「あの絵には動物は何匹いた?」「庭の石の数は何個?」というよく観察しなければできない難問が出される。参加者たちは、一喜一憂しながら美術館での鑑賞がより身近に、より自然に感じられていったようだ。


◆本物の迫力とリアルさ

 午後からは、これまで草津市内のいくつかの学校で行った授業の経験をもとに大人むけにアレンジしたプログラムで、「本物に触れる:歴史の舞台裏から」として、まず「幽玄の調べ」。能楽囃子方のシテ、笛、小鼓、大鼓、太鼓のそれぞれの方に登場してもらい、それぞれの楽器についての説明と演奏がなされた。間近で目にする耳にする迫力のある調べとその響きに、会場は感動に包まれた。さらに、所蔵品である「信長の書状と雷雲蒔絵鼓胴(らいうんまきえこどう)」のレプリカを使って、学芸員が書状の読み解きを導いてくれた。よりリアルに歴史を感じて、ミュージアムならではの授業づくりを体感した。

 なお、MIHO MUSEUMでは展示替えの休館中を利用して、「青少年特別開館日」を設けた。ほかのお客さまの入らない日を小中学校の授業で使えるよう「貸し切り」にするというものだ。先生方は「ほかのお客さまに気遣いなく観られる」と、生徒たちは「先生に怒られたりしなくて、ゆっくり観られる」とともに好評という。年間50日、小中学生は無料になっている。


◆陶芸の森で3つのワークショップ

 2日目は、信楽の陶芸の森。陶芸の若手作家たちと3つのワークショップ、陶芸の「技」「形」「素材」の要素から、それぞれ「やきものって不思議だなーろくろから生まれるイメージ」、「私を守ってくれる自分だけのシーサーをつくるぞ!」、「土を作る!」が行われた。参加者は、思うように動かないろくろと格闘し、シーサー作りに没頭し、土を篩うことに熱中し、と普段では出会えない陶芸の世界に作家たちに連れて行ってもらえた。

 企画を担当してきた陶芸の森・学芸員の三浦弘子さんは、
「学校でのやきもの体験学習を通して、作家と話すことが作品との出会いを大きくすることを感じてきました。子どもたちが目を輝かせて体験したことを現場の先生にも、味わっていただきたいと思いました」
 と語る。

 プログラムの最後には、教員、学芸員らでパネルディスカッションが行われた。現場の教員からは「最初は連携授業に疑問があったが、お互いの理解を深めていくうちに新たな授業づくりに取り組めるようになった」と本音が語られ、草津市立笠縫東小学校校長の馬場輝代さんは、「かつて美術教育は、素材を与えて創造を求めるものでした。でもそのことに疑問をもっていたとき、この連携授業に出会い、やはり人との関わりが美術教育にはもっと大切なのだとわかった。現場の先生が感動することが大切」と語り、県立近代美術館・学芸員の平田健生さんは、「美術館と学校は、どちらか一方で完結するのではなく、相互補完の関係にあると思います」とした。同市立老上小学校校長の高木洋司さんは、「学校にとって、授業が一番大切であると私はずっと主張している。連携授業のすばらしいところは、子どもたちの目の色が5分で変わり、グイグイと惹きつけられていくということだ。〔ほんまもん〕に触れるということは〔ほんまもん〕の授業というだ」 
 と大きな期待をかけた。夏季研修会は、学校とミュージアムがまた一歩近づいたことをそれぞれが実感してお開きになった。言葉や文章では一歩踏み込めなかったこと、それがお互いに会って、話して、体験することで何かをすんなりとつかめたようだ。

(記事制作/提供:月刊ミュゼ)


 


◆参照URL

MIHO MUSEUM http://www.miho.or.jp/

滋賀県立陶芸の森 http://www.sccp.or.jp/

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