今どき小学生のおこづかい事情
最近、"子どもの金銭教育"が注目されている。おこづかいの全国平均額は、小学1~2年生で904円、3~4年で1021円、5~6年で1306円とか。さて、わが家の双子も子どもたちだけで行動することが増え、新たにおこづかい問題が浮上してきた。
いまどきの子どもたちの放課後遊びについては、以前、「公園」をテーマにした回でも軽くふれたが、地元小学生のたまり場だった公園にホームレス風のあやしい人物が出入りしているとかで、最近、子どもたちはすっかり寄りつかない。そんな彼らの新しい遊び場になっているのが「友達の家」。1年生の頃はみんなと公園に集まってワーワーキャーキャー遊ぶのが楽しかったが、2年生にもなると気の合う友達、ちょっと苦手な友達など、友達づきあいにもバリエーションが出てきて、最近は友人関係にしても遊びにしても、広さから〈深さ〉を求める方向に変わってきているような気がする。
それも子どもにとっては非常に大切な成長の過程であって、とりあえずわが家では「家の中じゃなく、外で遊びなさーい!」とは言わないようにしている。体がウズけば、自然に外遊びがしたくなる。それが子ども(特に男子!)。なによりいまは、自分の家とは勝手が違う友人宅にお邪魔することで、幼い彼らなりに吸収したり、発見したり、考えたりすることが面白くてしょうがないようなのである。「今日は○○くんの家、明日は●●くんの家……」子どもたちは、毎日誰かと約束をして帰ってくる。まだまだ2年生の約束。それがきちんと果たされる日も、実は習い事があったーってな理由で反古にされることもあるが、娘はキックボードで△△ちゃんの家、息子は自転車で▲▲くんの家と、双子が単体で行動することも多くなった。しかし、これまで公園中心に遊んでいた彼らが、街に飛び出すようになった途端、新たな問題が浮上してきた。そう、それは〈おこづかい〉!
友達の家にいる間はもちろんお金など必要ないのだが、問題はその道中なのだ。彼らは「○○くんの家の場所がわからないから」といっては、近くのおもちゃ屋さんで待ち合わせをし、そこを経由して友人宅へ向かう。つまり、ダイレクトに友人宅を訪ねるのではなく、おもちゃ屋さんを〈いつもの〉待ち合わせ場所に、そこに一度自宅に戻った○○くんが、あらためて迎えにくるというわけだ。訪ねるほうも、招くほうも、実は家遊びより、その「おもちゃ屋さんでの待ち合わせ」のシステムを楽しんでいるフシがある(笑)。その子どもたちの気持ちもたしかにわかる。オフィスビルに囲まれた灰色のわが街にあって、そのおもちゃ屋さんは唯一、子どものオアシス。こじんまりと可愛い内装の店内には、おもちゃはもちろん、文具からカード、がちゃがちゃや、駄菓子まであって、小学生のおこづかいでも十分楽しめる。そのオアシスに、子どもたちだけで集まって楽園を謳歌するのだからそりゃ楽しいはずだ。しかし、勝手知ったる地元の店とはいえ、そこは商業店舗。そこで、問題はお金の扱いだ。
最近、巷でも「子どもの金銭教育」が注目されているが、わが家の場合、子どもたちに月々決まったおこづかいは設定していない。まだ2年生ということもあって、これまでは「必要なとき払い」にしてきた。お年玉やお祝いはそのまま子どもたちの口座に貯金。基本的に自分のお金は持っていない。だが、子どもたちも賢いもので、ママに内緒で祖父母にすり寄っては、ちょこちょことおこづかいを稼いでいる。でもこの所業=ママに内緒のおこづかいも子ども時代だけの特権。甘えるほうも、甘えられるほうも、双方が心地よく楽しんでいるのだから、「あくまで金額は少額に!」と祖父母に頼み、私は知らぬふりを通している。金銭教育のプロには叱られそうだが、これまでわが家はゆるゆると過ごしてきたのだ。
だが、子どもたちだけで行動することが増えたいま、財布のチェックを怠ることができない。
「友達に300円貸したのに戻ってこない」
「財布を落とした……」
2年生になって以降、わが子のみならず、周辺でもお金のトラブルが相次いだ。持っていれば、使いたくなるのが心情。大人だってついついしてしまう衝動買いの誘惑に、子どもたちが勝てるわけがない。ケシゴムを買う、がちゃがちゃをする、友達におごる……お金があればあっただけ使いたくなってしまう。以来、家族と過ごす休日以外、「祖父母からもらったお金は持って出かけないこと」。それがわが家のルールになった。いま双子は、友達と遊ぶときはジュース代100円+電話代10円=110円だけを財布に入れていく。
そんなとき興味深いデータを見つけた。日本銀行に事務局を置く金融広報中央委員会が毎年、全国規模で行っているアンケート『家計の金融資産に関する世論調査』のなかに、子どものおこづかいについての設問があり、全国の平均額が出ていたのだ。その2005年版によると小学1~2年生で「904円」、3~4年で「1021円」、5~6年で「1306」円となっている。ちなみに、中学生はというと平均は「2877円」、高校生で「6801円」である。
高校生でいきなり額がハネ上がるのも面白いが、小学1~2年生の「904円」には驚いた。全国平均でいくと2年生の子どもたちは一日30円が妥当。たしかに月1000円位が目安なのだろうが、いまひとつリアリティが持てない……。というより、この結果でみると、中学生でも一日100円未満ということだ。
おこづかいの難しさは、「どこからどこまでをおこづかいと呼ぶか」の難しさにあるわけだが、子どものおこづかいを決めるのは本当に難しい。そこで夫に相談すると、「オレは一日10円だったよ」などとのたまう。一日10円。駄菓子屋が消え、コンビニが氾濫するいまの世の中、10円を持っていても電話代にしかならない。そしてその実、100円を持っていても缶ジュース1本買えない。定価100円のガムも、消費税が加われば105円だ。夫の小学生時代の10倍に値する100円すら、21世紀のいま、使い道はごくごく限られてしまうのだ。
そんなある日、110円を手に図書館に出かけた娘が、サイダーのロング缶を抱えて帰ってきた。図書館から電話をかけてきたため、10円は電話代に消えている。残りの100円でロング缶を手に入れてきたのだ。
「だって、遠回りだけど、あの道を通れば100円のジュース自販機があるでしょう? そこで買ってきたの」
100円の自販機。労をいとわない彼女の生きた智恵に思わずアッパレと叫んでしまった。
イラスト:Yoko Tanaka
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。