今どき小学生の将来の夢 子どもたちは大きくなったら何になりたい?
わが双子が通う小学校でキャリア教育授業が行われた。ところが、その準備段階で先生が「大きくなったらなりたい職業」を質問したところ、わが息子は「なりたいものがない」! なんと、わが子はニート予備軍か!? 一人悩む息子に親は、さてどう応じるべきだろう?
「若者に夢がない」と言われるようになったのはいつからだろう? 全国に85万人ものニート(=若年層無業 者)があふれるこの時代。同時に、とりあえず仕事には就いていても、いまの自分には不満だらけ、バブル崩壊のあおりで極端な就職氷河期を体験し、夢を追い 続けられなかったという20~30代も少なくない。が、未来ある小学生を子どもに持つ母として、新聞やTVで報道されるようなネガティブ論ばかりに引きず られてはいけない! でも、そう思いつつも暗いニュースを耳にすると心は揺れる。目の前のわが子よりも、情報として語られるクールな子ども像のほうをリア ルに感じてしまうことがあるのだ。
そんな折、学校で小学2年生のキャリア教育授業を参観した。まず、先生が「大きく なったらなりたいもの」を子どもたち各々に決めさせ、その職業をなぜ選んだのか、その夢の実現のためにどんな風にがんばりたいのか、もしその職業に就いた ら何をしたいか……などをまとめて発表する。希望職種によって班分けがあり、それぞれの発表とは別に、仕事クイズやすごろく、芝居仕立てなど見せ方にもひ と工夫されていた。準備に2~3週間を費やしただけあって、みな堂々と立派な発表会になった。
発表会の本番は大成功だったが、その準備がスタートしてまもなくのころだ。たまたま訪れていた校内で先生に声をかけられた。
「実は、●●ちゃん(娘)は将来の夢がはっきり決まってるんですけど、○○くん(息子)のほうは『なりたいものがない』と言ってまして……。何か彼の夢はありませんかね?」
あいたたた! ニート予備軍はわが子だったかー!? もともと白黒はっきりつけないと気がすまない娘と、何事も優柔不断な息子。勉強でも、遊びでも、何 かの決め事でも向き合うスタンスがまったく違う。一度決めたら周囲が見えなくなる娘と、周囲を常に傍観しつつゆるゆるとマイペースな息子。といって彼は、 何でも受け入れるわけではなく、自分がコレと思うものしか欲しがらない。おだやかなようで実は一筋縄ではいかない頑固者なのだ。
その彼が、「いまはなにもなりたいものがない」といってるのだから、その通りなのだ ろう。でも先生にしてみれば、「なにもない」では授業が成り立たない。夢(職業)が決まらなければ、次のクイズ製作のステップにも進めないわけで、ある 日、宿題として手渡された白紙の画用紙を前に、彼はひとしきり悩んでいた。
「ママ、今はまだなりたいものがないんだけど、どうしたらいいと思う?」
ついに質問が飛んできた。親としてここでどう答えるべきか。もっとも簡単で、もっとも無責任な答えは、『親自身が将来、子どもに望む職業をすすめること』だ。医者、弁護士、ジャニーズ事務所のアイドル……。いや、とても息子のキャラとは思えない。
考えながら、かつて就職雑誌で仕事をしていたときのことを思いだした。転職希望はあ るものの一歩踏み出せない20代OLたちを取材していたとき、よく同じ質問をされたのだ。あのとき、私はどう答えていたか。そうだ。『何をしているとき、 あなたは一番幸せを感じるか?』だ。夢(職業)選びに、小学2年生も20代のOLも関係はないと私は思う。そこで、同じように息子に聞いてみた。
「○○は、なにをしているときが一番幸せ? 幸せが難しかったら、何をしているときが一番楽しい?」
サッカーにも興味なし。水泳はイヤイヤ。夢中になるのはダンボール工作。はてさてなんて答えるだろう? すると意外にも間髪おかずに返答があった。
「映画を観てるとき」
「だったら、映画を作る人はどう?」
〈将来の夢〉といわれても、自分ひとりでは漠然としすぎて掴みあぐねていたものが、その一言で腑に落ちたようだった。
「ママそれいいねぇ。よし、映画監督だ」
発表会当日。将来、少女マンガ家を目指す娘はベレー帽をかぶり、超マニアックなマン ガ・クイズと手作りマンガで教室中を閉口させていた。一方、映画監督を志す息子は、カーキ色のキャップにメガホンを首から下げ、「チャーリーとチョコレー ト工場」のジョニー・デップの似顔絵が飛び出す映画クイズを披露した。
わが子ばかりではない。サッカーの試技を実演した男子二人は日本を担うサッカー選手志望。頭に三角巾を巻いた女子三人組はパン屋さん志望だ。ほかにも、 プロゴルファー、バレリーナ、デザイナー、小物屋さん、パイロット、水泳のインストラクター、ディズニーランドのスタッフ、ホテルマン、そしてお笑い芸 人。高層ビルの谷間に建つ学校にも関わらず自営業者の多い土地柄からか、「サラリーマン」や「OL」を夢見る子がひとりもいなかったのも面白かった。そん な個性的な職業が並ぶなか、唯一、実家を継ぎたいという男の子が現れた。彼の将来の夢は『有名なお坊さんになること!』。そう彼の家は、代々続くお寺なの だ。
子どもたちが語る夢を聞いているうちに、なんだか気持ちが晴れてきた。たかが小学生の夢、ではない。この夢を着実にカタチにしていくこと、それを大真面目にサポートするのが大人の役目だ。周囲の大人が真剣になること。それが夢を失わせない特効薬なのかもしれない。
イラスト:Yoko Tanaka
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