2005.06.21
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今どき図書室模様 子どもたちは何を読んでいる?

有名私立大生が江戸川乱歩を知らないですと!? 彼らは子ども時代に何を読んできたのか。今の子どもたちの読書環境はどうなっているのか? というわけで、小学校の図書室へGO!

先日、某有名私立大学のミステリー小説研究会の学生と雑談中、ふと彼がもらした一言。
「最近、ウチの研究会に入ってくる新入生って、京極夏彦しか読んだことのない連中ばかりなんですよ。島田荘司や綾辻行人の名前すら知らない。エラリー・クイーンやディクスン・カー、江戸川乱歩も読んだことのないミス研会員なんて信じられます?」

 思わず耳を疑った。信じられない。彼の通う大学は国内トップクラスの超難関校である。当然、それなりの受験勉強と読書量を積んでたどり着いた、選ばれし者たちなのである。ましてや研究会の中心を占めるのは、文学部に在籍する学生たちだ。それが、江戸川乱歩を知らないだって? おいおいおい、ちょっと待ってくれたまえ小林君!

 思い起こせば30年近く前。私の通う小学校の図書室には、少年・少女を対象にしたハードカバーの江戸川乱歩全集がズラリと並んでいた。中心はもちろん明智小五郎と少年探偵団シリーズ! 当時の学校の図書室のラインナップは、いわゆる日本文学と海外文学の児童向け名作ものが中心で、いまほど装丁もカラフルではなく、名作に息苦しさを感じた子どもたちがわれ先にと奪い合ったのがこの乱歩全集だった。私にとって乱歩コーナーは図書室のオアシス……いや私だけではない。ハードカバーはどれもボロボロで、図書カードが何枚もビラビラと重なっていたから、相当の回転数で読まれていたのだと思う。四角四面な学校という空間にあって、ミステリー小説というだけでも私たちにとっては充分な娯楽だったのだ。その乱歩を、文学部の学生が読んでいないだと? ならば現代の図書室のオアシスは、一体どんな作家のコーナーなんだぁ???

 実はいま双子の通う公立小学校には図書司書の先生が週に一度しか来校しない。「経費削減のため」というのが理由らしいが、まぁ、子どもたちに読書を推進しておきながら肝心なところにお金を使わないトンチンカンなお役所への文句はさておき、そのためわが校ではPTAの有志が日替わりで図書ボランティアを務めている。2時間目と3時間目の中休みの時間、図書司書の先生に代わって子どもたちの本の貸し出しのサポートをしたり、読み聞かせをしたり、室内の飾り立てをしたり、本棚の整理をしたりするわけだ。これは昨年からスタートしたボランティア企画で、仕事柄、本になじみが深いのと、教室と違ってあまり出入りする機会のない図書室への好奇心から、私もスタッフに加わって2年目になる。

 そこで図書ボランティアの日に早速、乱歩の有無を調べてみた。するとシャーロック・ホームズは見つけたが、乱歩全集は存在しなかった。嗚呼! でも『ハリー・ポッター』もあれば、『忍たま乱太郎』もあるし、大ベストセラーの『バッテリー』も『13歳のハローワーク』も、ディズニー・アニメシリーズもほぼ全作揃ってる。中国の文学コーナーには横山光輝のコミック『三国志』もあるし、さらには手塚治虫の『陽だまりの樹』もある。なんじゃこりゃ? 絵本にしても文学にしても新刊がきちんと置いてあるし、はっきり言って学校の図書室というよりも街の本屋さんレベルの豊かさだ。ミステリー小説なんかに固執しなくとも、いまどきの学校の図書室にはもっともっと息抜きできる本がた~っくさん並んでいるのだ。

 うーん。しばらく本棚を眺め歩きながら、思わずうなってしまった。話題の本はたくさんあるけど、装丁の洒落た本はたくさんあるけど、ボリュームを占めるのはごくごく現代の物語ばかりで、文学史に登場するような日本の名作も海外文学の定番もほとんど見当たらない。あったとしても、そのテの本はみな古く、陽に焼けて傷んでいる。内容以前にこれでは手を出す気分にはなれない。
いいのかなぁ、これで。名作文学だって新装版はきちんと出てますよ。新刊本もいいけれど、時代を超えて読み継がれるパワー溢れる作品ってのも世の中にはきちんと存在するわけで。たしかに私だって小学生のときは少年探偵団に逃げていたクチだ。偉そうなことはいえない。楽しく読書することは大事だ。でも、人気商品ばかりの図書室では、横の広がりはあっても、読書に深みが出ない。学校の図書室は子どもたちにとって幅広く深い本の世界への窓口だと思う。それには、親しみやすいものから、本屋ではなかなか手が出ない硬質なものまで、まんべんなくラインナップすることが大事なのではないだろうか。本に触れるきっかけはアニメ原作のような身近な本でもいいだろう。それで読書の楽しさを知ったら、子どもは次のステップに進む。そしてさらに次のステップへ。進化する子どもの読書欲に応え、それを導く力をもった図書室。導く力。それこそが本屋でもなく、街の図書館でもなく、〈学校の〉図書室の存在理由じゃないのかなぁ?

 ああ、そうだ、そうだ。いまどきの子どもたちのオアシス……って、どれをとっても楽しい本ばかりなのだが、なかでもひときわ人気高いジャンルがたしかにあった。さて、何だかおわかりになりますか? そうです。ズバリ、〈学校の怪談〉。

(イラスト:Yoko Tanaka)

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